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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第14章 対の魂 Story1

 グラキエスたちが宿へ入る頃には、一輝たちはトンネル設置のために掘った砂を全て片付け終えていた。
「お疲れ様。……ところで、その子は?」
 アウレウスの腕の中にいる黒髪の子供を目にし、どこから連れて来たのか首を傾げる。
「ディアボロスたちがベースと呼んでいた者だ」
「―……っ!?」
 彼の言葉に一輝は唖然とし言葉を失う。
「なぜ、ここへ?」
 災厄の元が視界に入りプッロが眉を顰める。
「放ってはおけなかった」
「幼い子供の姿とはいえ、本質は災厄を招くこと。確保したところで、封印しか道は無いのかもれない」
「分かっている。けれど、切り捨てるような考えはしたくないんだ」
 どの道、彼らの元へ置いておけば、ろくでもないことに利用されるだけだ。
 自分たちの手で封印以外の道はないものだろうか。
 その手段はまだ見つけていないが、そのまま祭壇へ置き去りにはできなかった。
「そこで立ち話してないで、こっちに集まらんか?」
「お疲れ様、皆待ってるわ♪」
 陣の後ろからひょっこりルカルカが顔を覗かせる。
「ねぇ、もしかして…?」
 トラトラウキと同じ顔をした子供の姿が目に映り、一瞬思考がフリーズしてしまう。
「望まれていないことは分かる」
「大丈夫よ、誰も殺さないから……」
 ルカルカは黒のテスカトリポカの頭を、そっとひと撫でする。
「トラちゃんの傍においておけないよ、ルカルカさん」
「えぇ、終夏さん。それはルカも理解しているつもりよ。だから、申し訳ないのだけど、別室にいてもらえる?こっちはトラちゃんがいるの」
「そうか…分かった」
「オレら拒否ってるのと違うからな。その…、パソでモニターつなげてるから、情報のやりとりはできるようにしてあるんや」
「あぁ…、ありがとう」
 振り返らず礼を告げたグラキエスはパートナーたちと別室へ移動する。
「皆こっちの部屋にいるのに、ちょっと可哀想だったね」
「こればかりは仕方ないですよ、美羽さん」
 対の存在を傍においては、目を覚ましたトラトラウキが心臓を欲してしまうのだから仕方がない。
 ベアトリーチェたちは他の仲間と二人の教師が待つ大部屋へと入った。



「まだ皆、集まりきれていないみたいだね?今のうちに、約束を済ませちゃおうか」
 ソーマはその言葉に反応し、ガタッと椅子から立ち上がった。
「遠慮なくいただくぞ」
 後ろから抱きしめ、北都の首筋に牙を突き立てる。
「ねぇ、あまり深くやらないでよ…」
「痛くしないから心配するなって」
「―…っ!」
 牙が入り込んできた瞬間、ちくりと首筋が痛む。
「ご馳走様」
 唇についた血を指で拭い、味わうかのように指で舐めとった。
 首に噛み付くことがなぜご褒美なのだろう。
 まさか血をもらっているとは思わずリオンは不思議そうに首を傾げる。
「ご褒美ですか?それなら私も北都の獣耳をもふもふしたいです」
「どうぞ」
 超感覚で犬耳をぴょこっとはやす。
「いつ触ってもふかふかですね!」
「なんでお耳触ってるの?」
「北都からのご褒美なんですよ、ノーンさん」
「へぇーそうなんだ!」
「今、戻ったんですか?」
「うん。開放されていないエアリエルを自由にするお手伝いしてたんだよ」
 フラワーハンドベルを使い、自我を表に出させて器から開放していたと言う。
「全員揃ったようですねぇ〜。はーい、今回のことについてとかぁ、いろいろお話することがあるので席についてくださぁ〜い」
 エリザベートがパンパンッと手を叩くと全員席につく。
「この子、これからどうしたらいいかな。やっぱり、もう1人の子の心臓をあげるわけにもいかないし……」
 歌菜の膝で眠っているトラトラウキに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が目をやり、今後の扱いについてどうするべきか悩む。
「あげちゃったら、取られたほうは生きていられるはずないもの」
「身体が死ぬっていうことで、魂は無事ってことだよね?」
「だからってあげられませんよ!」
「ごめん、そういうつもりで言ったんじゃないよ歌菜さん」
 慌ててかぶりを振り、片方を犠牲にするわけじゃないと言う。
「割り込むようですまないが、黒髪の子供の今後について聞きたい」
「ん〜、ちょっとどうしようかとぉ、私のほうでも悩みどころなんですぅ〜」
 モニターの向こうにいるグラキエスに、決めかねていると答える。
「封印や殺すというのはやめてほしい、…頼む」
「ううん〜」
「はぁ、こんな時にタイミング悪いですわ」
 バイブにしてあったが、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からのメールに嘆息する。

 -緊急報告!-

 エリシア、ついに俺…お父さんになります!
 今日、妻のお腹に新しい命があるって分かったんです。
 なんだかもう、誕生が今から待ち遠しいです。

 ではまた、メールします。

 by陽太

 今回はエリシアとノーンを気にかけるような文面はなく、一方的に向こうのことだけが書かれていた。
「まぁ、おめでたいことですこと…」
「おにーちゃん、お父さんになるんだ!?」
「えぇそうみたいですわ」
「てことは…おねーちゃんは、おば……」
「ち、違いますわ、ノーンッ」
「だっておにーちゃんがお父さんになるってことは、おねーちゃんはそうだったような?」
 兄の陽太が父親になるなら姉のエリシアは、おばさんになるのではと首を傾げる。
「すごーい、おめでとう!」
「ははは…。本人はここにいませんけどね、ルカルカ・ルー」
「きっと大事に育てられるでしょうね♪」
「人は誕生すると、喜ばれるものなのですの?」
「そうよ、オメガ」
「私には理解できませんけど、きっとそうなのでしょう」
「それも仕方がないことだったのだ」
 暗い面持ちのオメガの傍へ淵が寄っていき言葉をかける。
 魔力の結晶体として生まれた彼女には、本当の親は存在しえない。
 育ての親はいたが血縁者ではないのだ。
 故に、誕生を喜ばれる意味がまるで理解できなかった。
「あの2人は、どのようにして生まれたのでしょうね」
「テスカトリポカ殿のことか?うーむ……」
「出生地についてですが、私とラスコット先生で調べてはみたいんですけどぉ〜。痕跡がないも等しいので、よくわからないんですぅ」
「あるにあったということだろうか」
「はい〜。たぶん、彼らが壊しちゃった後だったんですよぉ」
 住人がいなくなったから何年も経ち、風化した建物ような痕跡はあった。
 だが、真新しい部分と古びた部分が混じり、時間を捻じ曲げたような感じがしため、何らかの方法で消滅させたのだろうと想像しかなかった。
「実は…テスカトリポカは、クオリアが管理する町にもいるんですぅ〜」
 任務に参加した者たちはエリザベートの言葉を耳にしてざわめく。
「といってもですねぇ。身体や魂があるってわけじゃないんですぅ。魂の残像のような意思のある存在…ということになりますねぇ」
「すでに固体として転生しているから、まずあえりえぬと?」
「それもあるかもしれません〜」
「黒髪のほうが目覚めることは、例のものを得るしか方法はないのか」
 指一つ動かさないことが気になりエリザベートに聞いてみる。
「トラトラウキのものを得ないと、絶対に目覚めませんよぉ〜」
「夕食も食べてませんし、おやつの時間にするのですよ」
 スイーツショップから持ってきたプリンを、テスタメントが箱から取り出そうとする。
 もちろん代金はレジの中へ支払い済みだ。
「テスタメントさん、トラちゃんが起きたら心臓のこと思い出しちゃうかもしれないから。こっそり食べた方がいいかも」
「ふむふむ。あちらにいるようですから、その辺りは気をつけます」
「本題に戻りたいのだが…」
「あ、はい。どうぞ、グラキエスさん」
 プリンをこっそり食べながら話題を戻す。
「もう1人の存在は、目覚めを許されないないのだろうか」
「本質そのままが残りますからぁ、災厄をもたらす者としかなりえないのですぅ。しかも先程も行った通り、身体を活動させるためのものを得ないと無理ですよぉ」
 別々の固体の二人として存在することは出来ないと告げる。
「災厄のほうは、どこかへ閉じ込めるしかないと…」
 危険だという理由だけで外へ出ることを禁じられるのなら、昔の自分のようにずっと1人でいるようになるのか。
 一方的に自由を奪われる苦しみを誰よりも知っているオメガは、もはや動くこともできず閉ざされた空間に取り残される気持ちは、辛く苦しくとても寂しいものだと分かり過ぎるほどだった。
「そうなるとは決まったわけではない、オメガ」
 ドッペルゲンガーの時と違い、もう片方は心臓を得ないと動く術すらない。
 どんな言葉をかけても気休めにもならないが、一緒に考えてみようと彼女の手を握る。
「本当に別々の存在として、生きる道はないものだろうか。代用する何かがあればよいのだろう」
「物質の代用を作る方法ですか…」
「うーむ……。俺たちと違い、特質体であるならさすがに厳しいかもしれぬ」
 医学的に細胞培養により、代用品を作ってそれが適用に至るかは不明。
 エリザベートへ目をやると、校長の表情からして成功を望めるほどの確立もなさそうだと思えた。