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リアクション
「……何だ今の」
話題のぶらっく・ばれんたいんは、同じバレンタインの精であるぴゅあ・ばれんたいんの微妙なナレーションを受信して、頭の痛そうな顔をして呟いた。
そこへ、更に追い討ちをかけるようにして現れたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
「誰だおまえ……」
なんだか既に脱力気味なぶらっくに、ハデスは構わず続ける。
「ククク、怪人ぶらっく・ばれんたいんよ」
「いや、怪人じゃねえよ」
「お前の邪悪なオーラ、気に入ったぞ」
「いや、だから怪人じゃなくってな」
頑張ってツッコミを入れるぶらっく。だが効果はいまいちだ。
「我らオリュンポスと共に世界を支配しようではないか。
そして、世界征服を成し遂げた暁には、バレンタインデー禁止法案を制定するのだ!」
「聞いてんのか、おい!」
勿論、聞いてません。
そして髪型が近いとかそんな理由では多分ないだろうが、ぶらっくを気に入った様子のハデスは、がっしと肩を組んで、パートナー達を振り返った。
そんなハデスの元には、ぶらっくの影響を受けて、志……いや、ヘイトを同じくする者達も集まっていた。
「……リア充は滅べばいいんです」
恋愛には興味なく、普段なら場そんな感情も沸くことはないのだろうが、ぶらっくがキレるほどのラブの反動だろうか。ヘイトパワーを喰らって、その支配下へと落ちた枝々咲 色花(ししざき・しきか)の目は据わっている。
「街を吹き飛ばせばリア充も居なくなるであります」
そんな色花とは違い【非リア充エターナル解放同盟公認テロリスト】の葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の方は、ぶらっくの影響かと言うよりは通常運転のように見えなくもない。
「バレンタインなんてリア充の為のイベントだ! そんなもの街ごと粉砕してやるであります!」
「おい、誰がそこまでやれって……」
ぶらっくはツッコミを入れかけましたが、当然のこと誰も聞いていないようである。
「ククク、さあ行け、我が部下、咲耶、アルテミス、ペルセポネ、そして戦闘員たちよ! 街に巣食うリア充どもを駆逐し、ぶらっく・ばれいんたいんのヘイトパワーを集めるのだ!」
ぶらっくより余程、それっぽい雰囲気を醸し出すハデスに、なんだかよく判らない内にぶらっくは流され、ラブラブなシーンの対策としてモザイク機能付きサングラス型モニタを受け取って、それをかけた途端なんだか違う方向にシフトしたのか、どう見てもマフィアか何かといった出で立ちで「頼んだぜ」と声をかける始末である。ちなみにもうひとつのヘッドフォンはツッコミが出来ないのは困るというよく判らない理由から受け取らなかったようだ。
「ちょ、ちょっと、兄さんっ! なに悪い人の味方をしてるんですかっ!」
吹雪や色花たちが、ハデスの合図で散らばっていく中、その命令にツッコミを入れたのは、オリュンポスの(一応)常識人サイドな高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だ。
「もうっ、せっかく兄さんにチョコを作ってきたのに、これじゃあ渡せないじゃないですかっ!」
「あれ、おまえらリア充寄りじゃね?」
その叫びにぶらっくがステッキを構えたが、動じることなく咲耶は「それでは、愛のキューピット作戦開始です」と、持参していたチョコレートを解き放った。一見して普通、に見えなくも無いそのチョコレートたちは、咲耶がスキルを総動員させた奇跡の一品である。何がどう奇跡かと言うと、ぶらっくの影響もどうやら受けているらしいそのチョコレートたちは、動き、蠢き、そして襲うのである。解き放たれた彼ら(?)は、次々と手当たり次第にカップルに襲い掛かっては、チョコ塗れにしていくというラブと言うにはあんまりな光景に、ぶらっくは思わずそっと構えたステッキを仕舞った。
そんなことを知る由もなく、咲耶はどれだけ持ってきたのか、ありったけのチョコを町へと解き放っていく。
「このチョコで、もっとラブラブになってくださいね」
と本人はとても満足げであるが、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は目の前に繰り広げられる惨状に、思わずと言った調子で声を上げた。
「さ、咲耶お姉ちゃんっ! それじゃ、逆にラブな人たちを襲ってヘイトを集めちゃってますよっ!」
だが、咲夜の方はまるで理解していないようで首を傾げているし、ハデスにいたっては「よくやった!」などと言っているものだから、このまま止まる気配は無さそうである。アルテミスには、諦めてとぼとぼと遠ざかるぐらいしか出来ることはなかったのだった。
「はあ……私もキロスさんのためにチョコを用意してきたんですけど……今回は、任務で会えなそうですね…」
最近、ようやくキロスへの恋心を自覚したアルテミスは、今度のバレンタインでキロスに告白するつもりでいるようだ。盛り上がるハデス達を余所に、隠れるようにしてビルの隙間に入ったアルテミスは、頬を赤らめながら、その手のチョコが溶けんばかりの勢いでぎゅと握り締めると、ちらちらと周囲に人がいないことを確認して、すうっと息を吸い込んだ。
「ちょ、ちょっと、告白の練習をしておきましょうか…」
呟き一声、ただでさえ赤い顔を更に真っ赤にして、予行演習のつもりかばっとチョコレートを差し出した。
「あ、あの、キロスさん……私……私……その、その……っ」
練習だというのに、あとひとつの音が出てこない。このままでは湯気でも出てきそうである。
「キロスさんのことが、す、す、す……スキーって楽しいですよねっ!」
「だあああ! 何でそこでそうなる!」
あがった叫び声に、うっかり声を上げたのはぶらっくだ。ぴゅあのほうは、微笑ましげにその様子を見やると一途だからこそなラブのパワーを受けてなんだかお肌がつやつやである。
「いじましいですねぇ、かわいいですねぇ。そして何であなたがツッコミ入れてるんですぅ?」
「……つい」
どうやらツッコミは、ぶらっく第二の性質のようであった。
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