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 第 3 章 -ユニット部門?-

 控室に放り込まれたルカルカと淵は、人違いである説明を何度もしようとするものの取り合ってもらえず、しかも淵は‘オトコノコ’だと言っても信じてもらえずにいた。
「仕方ないわ……ここは、出ましょう! ええと私達って『軍人部門』に申し込んでた2人組に間違われたみたいね」
「女性士官ルゥと、少女士官カコ……わかった、この際は開き直るしか……」
 淵の頭の上にはうっすらと雨雲が漂いながらも、ショーの手順を頭に入れていった。



 ◇   ◇   ◇



「さあて、お次のショ―といくぜ! 今回はなんと……『シニフィアン・メイデン』の2人がモデルで登場だ! 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)!」
 リョージュの紹介と同時に中国の宮廷女官風に身を包んださゆみが和装の花嫁衣裳を纏ったアデリーヌの手を取ってステージ中央へと歩いていく。さゆみは裾をヒラリヒラリと舞わせ、肌触りも仕立ても良い衣装で自然と優雅な所作で急がずゆっくりとアデリーヌをエスコートするように進む。
「ちびっこも可愛かったが、さすがシニフィアン・メイデンの2人だとモデルも貫禄が違うなー」
「観客席も沸いてますね、私ももうちょっと近くだと嬉しいです。あ、撮影はご遠慮下さい」
 観客席からデジカメや携帯に2人の姿を納めようとするシャッター音があちこちから聞こえてしまうのだった。
「そんじゃ、インタビューといきますか! この衣装に決めた切っ掛けって?」
「切っ掛けといっても、目についたものを選んじゃったのよ。宮廷女官なんて早々着る機会はないもの」
「わたくしの衣装は、さゆみに選んでもらったんですの……少し、衣装をアレンジして頂きましたわ。花嫁衣裳のようにも見えるし、幻想的な演出を意識しましたので和服の色も淡いものにしてみましたの」
 地球に存在する国の衣装をそれぞれ着こなし、裾がフワリと舞うように2人で回転すると「次のテーマに着替えてきます」とステージ袖へと戻っていった。

「さてさて、次は執事とメイド! 奉仕されたい『ご主人様』と『お嬢様』……あ、むしろオレが奉仕されたいぜ。執事で登場騎沙良 詩穂(きさら・しほ)! メイドで登場、桜月 舞香!」
 会場の照明が落とされ、ステージに浮かぶスポットライトの中心にいる凛々しい執事姿の詩穂は既にティータイムの用意を整えていた。
「ティータイムになさいませんか? ご主人様、お嬢様」
「実況休んでティータイムしていいですか?」
 色花の台詞に「していいわけねえ!」とすかさずリョージュからのツッコミが入る。詩穂と一緒にお菓子を用意していた舞香だが、ロングスカートのメイド服に隠れた高いヒールがリョージュの爪先を襲う。
「……!! いてっ、痛てててっ! 痛えよ!」
「ご主人様は、お菓子は要りませんね? じゃあ、これはお嬢様へお持ちするわ」
 男には容赦ない舞香であった。リョージュはインタビューする機を逃し、それに代わった色花がティーポットを高く掲げたまま見事に紅茶を淹れる詩穂、片手のお菓子の皿を持ちスカートの裾を軽く持ち上げてポーズを決める舞香を実況し続けたのでした。

「えらい目に遭った……まだ爪先が痛え、ちょっとみっともねえ姿を晒しちまったが次行くぜ次! 魔法少女の人気は強い! シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)!」
「行くぜ、リーブラ!」
「はい、いつでもいいですわ。シリウス……ふふ、いつも見ている魔法少女の衣装と印象が違いますから、とても新鮮ね」
 リーブラが心底微笑ましいという笑みを浮かべている。そんなリーブラに苦笑しながらもシリウスが先にステージへ上がり、フンワリとしたシルエットの衣装を翻しながら【変身!】と叫ぶ。リョージュと色花も「おお!」と固唾を飲んで見守ると、シリウスはフンワリ衣装からスーツコスチュームのような衣装に変わる。百合園女学院の小さな後輩達は興奮気味でシリウスに視線が集まると、ステージ脇に控えていたリーブラがシリウスの後ろにスッと入り込む。一瞬の間を置いてスポットライトが3方向から入るとシリウスとリーブラが互いにスライドしたように左右に並ぶとシンメトリー(左右対称)をあつらえた決めポーズで締めくくった。
「変身! にも驚きましたが見事に息が合ってますよね、お2人共さすがです」
 観客席にいる百合園女学院の後輩達につられて興奮気味の色花が実況するとリョージュのインタビューもすかさず入る。
「質問! 【変身!】は、どうやったんだ……?」
「秘密!」
 間髪入れずにシリウスが悪戯っぽく答えると、2人は観客席に向かって両手を振りつつステージ袖へと姿を隠した。

「魔法少女の秘密を聞けずじまいだったが……次は渋く軍人の衣装! 女性士官ルゥと、少女士官カコ!」
「いよいよだ……ルカ」
「行こう……淵!」
 軍服に身を包み、素人っぽくギクシャクする事を意識していたものの身についたキビキビ感は急に隠せるものではない。一目ではわからないようにそこそこ変装も施したがリョージュもどこかで見たような? と訝しげに2人を見る。観客席からもルカルカと淵を疑う声が聞こえてきた。
「もしかして、結構マズイ展開になるかも……?」
「仕方ない……ルカ、1つ貸しだ。イコプラ一機買ってくれ」
「買う買う! 何でも買ってあげる! だからこの場を何とかしてー!」
 もはや涙目で訴えるルカルカに淵は覚悟を決めた。
「シリウス殿の二番煎じになるが……しかも男の娘でもないというのに」
 くっ、と泣きそうになりながら淵が【変身!】を使い、魔法少女に変わる。
(もしもの為に選んでおいたのだが、結局使う羽目に……!)
 やけくそ紛いで若草色のコスチュームを身に纏い、沢山のわたげうさぎと【メイドさん大行進】をステージ上で披露した。ルカルカは淵の【変身!】と同時にステージ奥へと姿を隠し、退場の合図を待つ。観客やリョージュ、色花が魔法少女の演出に2人の正体は有耶無耶になりそうと判断したところで、淵は【ダイヤモンドダスト】のキラキラ水晶の中に姿を消した。ルカルカの【風術】で更に舞ったダイヤモンドダストの輝きの中、拍手を背に退場する。
「……あ、いけねぇ。インタビューし損ねたぜ……しっかし、軍人と見せかけて魔法少女ってのは新しい意表のつき方だ。可愛かったし、後で声かけるとするか」
「だからナンパは止めて下さいね」
 色花がぴしゃりとリョージュにツッコミして次の出演の用意が出来たと連絡を受け、実況の続きをする。
「ナンパ位いいだろうが、それじゃー気を取り直して……お色直しが完了したぜ! シニフィアン・メイデン再登場ー!」

 ステージの照明が落とされ、リョージュがステージ脇へ移動すると中央にスポットライトが当てられた。その中央からセリが上がり、軍服に身を包んださゆみとカッコいいサイバースーツを纏ったアデリーヌが背中合わせで登場する。【シュバルツ】【ヴァイス】を装備したさゆみが凛々しさを体現するように銃を構え、そのさゆみに並ぶとアデリーヌがフロンティアソードを構える。硬質な衣装と儚げな印象が重なり、どちらも一種の緊張感を漂わせると中央のスポットライトが消えてステージを明るく照らし出すと2人の決めポーズでファッションショーの前半は終了したのでした。