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水上公園祭典 華やかファッションショー

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水上公園祭典 華やかファッションショー

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第 2 章 -ちびっこモデル-

 水上公園の中心に設営されたステージを中心にすり鉢状の観客席を設け、ショーが始まる時間が迫ると会場アナウンスからも案内が入る。
「ご来場の皆様、間もなくファッションショーが開催されます。指定のお席に速やかに移動して下さい。繰り返します―――」
「あ、もう始まるかな」
 夏侯 淵(かこう・えん)が放送を聞きながら観客の誘導と警備を続けると、その淵の手を誰かがガシッと掴む。「え?」とそちらを向いたところでファッションショーのスタッフが引っ張っていこうとした。
「ああ、やっと見つけましたよ。『軍人部門』に出場の方ですよね、もうすぐ出番ですよ。早く早く」
「え、ちょ……ちが、俺は警備で! ルカルカ・ルー(るかるか・るー)! 助けてくれ!」
 パートナーの叫ぶ声に何事かと向かったルカルカの肩もガシッと誰かに掴まれる。
「ああ、ペアの方も居ましたね。こっちですよ、こっち」
「え? なに、なに? 私達は会場の警備で……ええー、話を聞いてぇーーー!」
 ルカルカと淵はズルズルとショーのスタッフに引き摺られ、控室へ押し込まれてしまうのだった。



 ◇   ◇   ◇



「Ladies and Gentlemen! お決まりの台詞になっちまったが、このファッションショーの司会を務めるリョージュ・ムテンだ! 興が乗って歌い出しちまうかもしれねえが、そこはご愛嬌! というわけで、オレもカッコ良く、スーツでダンディにキメさせてもらったぜ! さて、ショー開始を飾るのは将来有望なちびっこ達だ!」
「その前に実況の枝々咲 色花です。ファッションショーの模様をリアルタイムでお伝えしますね」

 それぞれの自己紹介を終え、気を取り直したリョージュは早速名前を告げる。
「1番! ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)で魔法少女!」

 その瞬間、ステージの左右からリョージュの頭上にスポットライトが当てられる。ライトの中心には手を繋いで空中に浮かんでいる2人の姿、お揃いの衣装はふんわりマントに柔らかなシルクで光沢溢れる白いエプロンドレスで現れる。ディアーヌが小道具の杖を翳すと、ラベンダーの花びらがステージに舞って会場を癒し空間へと魔法をかけた。
「あたしとディアーヌから魔法の贈り物だよ!」
 ゆっくり降りてきたネージュとディアーヌへ早速インタビューを始めるリョージュは2人の目線に合わせてしゃがみ込む。
「魔法少女っぽく空中から登場とはなぁ、オレも驚いたぜ」
 マイクを向けられたネージュとディアーヌはそれに口を揃える。
「「現役魔法少女ですから! あたし(ボク)達もう一回出るからね〜」」
 手を振りながら一旦舞台袖へと退場する2人に拍手と色花の実況が重なる。
「ラベンダー、いい香りですね……ラベンダーは、焼き菓子とかアイスが美味しいと思います。あ、でもナッツの焼き菓子も美味しい……」
 さりげなく、露店でゲットしてきたと思われるお菓子を摘みながら実況をする色花であった。

「さて、お次も将来が楽しみなちびっこだ! 結衣奈・フェアリエル(ゆうな・ふぇありえる)樹乃守 桃音(きのもり・ももん)!」
 左右から一緒にステージに出て、中央で互いの手を取りお辞儀をする姿に観客席からは「可愛い」と声が上がる。結衣奈は振袖トップスにレースをふんだんにあしらったスカート、桃音は幼児用のゴスロリ衣装を披露している。再びしゃがみ込んだリョージュは2人にマイクを向けると衣装を選んだ理由を訊ねた。
「えっと、和装ドレスってあるかなぁって思ったんだけどあったの! こういうのって、おと……っわぷ!」
 結衣奈が答えている横から桃音がリスの尻尾で結衣奈の口を塞いでしまう。一見、マイクが珍しくて間に割り込んだかのように見せながら言い掛けた言葉を有無も言わさず押し留めた。
「ボクのゴスロリ衣装もあるかなぁって思ったけど、ねじゅおねえちゃんが選んでくれたの! フリフリで可愛いからこれに決めちゃった」
 何かを言い掛けていた結衣奈にリョージュがツッコミする前に桃音がインタビュー終わり! とばかりに、2人手を繋ぎスキップで退場していくのだった。
「あー……なんか、不完全燃焼っぽいが……あれ? あの2人も後程登場するからその時でいっか!」
(結衣奈、危なかったー……)
(ごめんごめん、桃音……でも、口の中にリスの毛が、ちょっとね)
 舞台袖でコソコソする2人であったが、次の衣装の着替えに向かっていった。

「さあ、気を取り直して次にいってみるぜ! お次は可愛いメイドにしとやか和服の美少女! ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)バンシー・トゥールハンマー(ばんしー・とぅーるはんまー)!」
 光る箒に乗ってステージの中央で降りるとメイド服の端を軽く上げてお辞儀するユーリに、リョージュから「もっと上げていいんだぜ」などと茶々が入り、色花が実況席から更にツッコミする。
「リョージュさん、ナンパじゃなくてインタビューして下さい」
「はいはいっと……しかし、箒も持参してくるたあ気合入ってんな!」
 箒を手にニコニコとしながらマイクを向けられたユーリは思わず口走りそうになる。
「僕って、ボー……はっ、いえ何でもないんだよ、何でもないから!」
 ブンブンと頭を振り、ステージ袖で見ていたバンシーがユーリのフォローをする為か、しずしずとステージに現れた。
「お、もう一人の美少女登場か! 桜柄の着物に褐色の肌ってのがまたいいな」
「……だからナンパは止めて下さい、リョージュさん」
 ナンパじゃねえ! とマイクに向かって色花へ言い返す。ユーリが口走りそうになった『ボーイズメイド』の言葉は有耶無耶に出来そうな雰囲気にバンシーはホッと胸を撫で下ろした。
「あ、まだインタビューが途中だったなぁ、すまねえ。んじゃ2人はどうしてその衣装選んだんだ?」
 顔を見合わせたユーリとバンシーだったが、ここは2人で声を揃えた。
「「可愛くキメられると思ったから(です)!」」
 ニコニコと2人に微笑まれると、リョージュもそれ以上はツッコミせずにいた。ステージ袖へ退場したユーリとバンシーに代わり、ネージュ達4人がステージの四方に立った。
 メイド服のディアーヌがお茶の小道具と共に現れ、お嬢様らしくフリルをふんだんに扱ったお揃いの可愛いミニドレスを着たネージュと結衣奈、ペット(?)でリスの獣耳着ぐるみを着た桃音だった。
「すまん、ちょっとツッコんでいいか? リスの獣人だと思ったが更に着ぐるみでリスになってるように見えるんだがー……」
「えっと、えっとね……ちゃんと選んだよ? でも選んだ獣耳着ぐるみがリスだったんだもん」
 ネージュの後ろに隠れ、リョージュを見上げる桃音だったがメイド服姿のディアーヌがさりげなくお茶を淹れて差し出す。
「お、気が利くじゃねえか。ありがとさん!」
 喋り通しだった事もあり、喉も渇いていたリョージュはお茶を飲み干して桃音から気が逸れる。同じく、お嬢様なネージュと結衣奈、桃音にもお茶を出すディアーヌでちびっこモデルの部は終わり、ショーのプログラムは次へと移った。


「メイドさんの淹れてくれたお茶……私も飲みたかったです」
 大判焼きを片手に実況のマイクの前でぽつりと呟く色花であった。