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リアクション
第2章 中ボス
「このあたりのセキュリティが全部解けてるな……」
平助はペーパの居ると思われる場所まで移動する。
あれから、警備アンドロイドにほとんど捕まることもなく、扉は鍵がほとんど開いていた。
ふと道中、平助は何かをいじっている女性を見つける。
「よし、これで大丈夫かな……」
「セキュリティを解いていたのはお前か」
そこに居たのは、”機晶技術”を使って配線をいじくっている佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)だった。
「あ、刑事さんですか。ええ、これで進めるはずです」
そういいながら、牡丹は扉を指をさした。
普通の扉より重々しい雰囲気を放つ、鉄製の扉を平助はゆっくりと開いた。
そこは最深部、ペーパの部屋だった。
「来たか……」
「……」
「ふっ、私の圧倒的なボスオーラ―に圧倒されたか」
「……」
思わず平助と契約者達は唖然とした。
平常通り白衣を着ていると思ってたが、今のペーパはなぜか黄金に輝く冠に赤いマント、まるで王子を思わせる服装だった。
「もしかして、ボスっぽく見せようとしたの?」
「見てわかるだろう!?」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の質問に怒りながら答える。
思わず美羽は「……みえないよね」と牡丹に確認してしまう。牡丹も当然のように深くうなづいた。
「おふざけはそこまでだペーパ! お前の逃げ場はない、外もな!」
「……どうかな、デカ助?」
ペーパは落ち着きをはらった様子で言うと、突然笑い声が響いた。
「フハハハ! 俺の存在に気づいていたとはさすがだ、ペーパ・ドクよ」
「またお前か!」
ゆっくりと暗闇から姿を現したのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
その後ろにはハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)に機晶戦闘機 アイトーン(きしょうせんとうき・あいとーん)、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)も付いていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ペーパ・ドクよ!
お前のその天才的な発明の才能、ここで失うのは惜しい!」
「なぜ私を助ける、お金か?」
「俺の発明家としての血が教えている、共に科学の発展に力を尽くすべきだと。そのためには俺もお前も、こんなところで倒れるわけにはいかない」
「はっ、言うじゃねぇか!! ハデスと言ったな、お前の名前覚えておくぞ」
その言葉を聞くなりドクターはふと笑った。
ハデスは突然”オニオンリング”を取り出すと「合体だ」と叫んだ。
「了解シマシタ、合体シマス」
ドクターとハデスの発明品はオニオンリングを通して一体化する。
合体後の人型と思えるそれは、ところどころアームのようなものや機械的なものが飛び出している。
それはまさにメカハデスだった。
さらには、警備アンドロイド達がぞろぞろと部屋の出入り口から入り込んでくる。
「あまり戦いたくはないんだけど……」
「コハク、コハク」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の背中を美羽は軽くつついた。
さらに、美羽は警備アンドロイドの1体を指さす。その腰には光線銃が取り付けられていた。
「……なるほどね、やってみるよ」
コハクはすかさず”バーストダッシュ”を発動させ、警備アンドロイドへと向かう。
美羽は”光条兵器”による大剣を美羽は構えメカハデスに対峙する。
「邪魔ヲスルモノ排除スル」
「こっちにとったら貴方達が邪魔だよ!!」
次々と襲い来るメカハデスの機械的な触手、それを美羽は大剣をふるって切り捨てて行く。
だが、襲いかかるのは触手だけではなかった。その中の一部のアームには”女王騎士の銃”が握られており、触手に気を取られている美羽の肩を銃弾がかすめた。
「っ、厄介!」
美羽は銃弾にも警戒しながらもなんとかメカハデスを相手する。
そのころ、コハクは警備アンドロイドと奮闘をしていた。
「ピピピッ……180度……」
警備アンドロイドは振り向きざまに素早い裏拳を繰り出してくる。
それをコハクはなんとか後ろのめりになりながら避ける。床に転けそうになる直前、コハクは腰に取り付けられた光線銃を奪い取った。
素早くメカハデスへとその光線銃を向ける。
「これで、おとなしくなってくれるかな……」
「洗脳光線ヲ確認。がーどシマス」
合体したメカハデスは、体の一部でもあるアームでその光線を受け止めた。
アームならば大丈夫だろうとおもったメカハデスだったが、その試みは裏手に出る。
「……ワタシノCPUガ異常ニ発熱シテイマス。コレハ……コノ現象ガ恋ナノデスカ…?」
突然「しゅううう」という音と共に白いケムリをあげながらメカハデスは崩れていく。
「やった!!」
美羽は思わず喜び声をあげる。
だが、まだ気を抜くところではないと、美羽の意識はペーパへと集中させた。
メカハデスはコハクを見た。
「コハク様……ヲ慕イ申シ上ゲマス」
「えっ!?」
思わずコハクは目を点とさせた。
コハクはすっかり失念していたのだ、光線銃を男性に使えば「使用者に惚れてしまう」事に。
「スベテヲアナタニササゲマス」
「あ、えーっと……ありがとう?」
見上げるようにして、触手をコハクに差し出す。
コハクは美羽に助けを求めようとするが、美羽はすでにペーパに集中しておりそれどころではないようだった。
一方でペルセポネは慌てていた。
「ど、どうしましょう!?」
「ペルセポネ!機晶合体だ!」
前もって、アイトーンはドクターに「ペーパーを逃がせ」と指示を受けていた。
それはメカハデスがやられた今、一刻も早く実行する必要があった。
「わ、分かりました、アイトーンさん! 機晶変身っ!」
ペルセポネが叫ぶと、たちまち手に付けられていたブレスレットが光り、気が付けばペルセポネの体にはパワードスーツが装着されていた。
ペルセポネはさらに「機晶合体!」と叫ぶと、そのパワードスーツはパーツごとにパージされていき、アイトーンに装着されていく。
「よし、あとはペーパを――」
「きゃあっ!? な、なんですかこの触手は!?」」
その直後だった、所々パーツが外れたペルセポネへと、無機質な触手が襲いかかる。
それはメカハデスの触手だった。
「コハク様トノ二人ノセカイニ女性はイラナイ」
「ちょっ、つ、強い、あっ、だ、だめです。そこは――」
触手の締め上げる強さに、ペルセポネは艶のある声を出してしまう。
「ペーパ、お前のお守りは居なくなったぞ!」
「ふっ……まだ、お守りは居るぞ。出でよ我が警備アンドロイド達!!」
ぞろぞろと警備アンドロイド達が、ペーパの周りを守るように囲む。
「ちっ、往生際の悪い」
平助が舌打ちしていると、横から牡丹が歩いてきた。
そのまま、牡丹は怖い物が無いとばかりに平然とペーパへと近づいていく。
思わず平助が「おいっ!?」と声をあげたときだった。
「オーナーへの危険分子確認……排除します」
影に隠れていた警備アンドロイド達が一斉に牡丹へと襲いかかる。
「マグネティックフィールド」
「グピッ……ピピピピ!?」
ぽつりと牡丹がつぶやくと、突然警備アンドロイド達は地面へとひれ伏した。
”マグネティックフィールド”により発生した強力な地場は警備アンドロイド達のセンサー、動力全てに影響を与えた。
「お返しですよ、博士」
牡丹は光線銃を構えて、躊躇無く博士へと放った。
「……………」
「これからは皆の役に立つ物を作りましょうね!」
そう言って、牡丹は振り替えった時だった。
「サーッ!! 牡丹様、アナタの命令に何でも従います」
「え?」
牡丹はその様子を見ながら頭を傾げた。
放った光線銃が本来の動きをしていない気がしたからだった。
「おすわりっ!」
「アイマムッ!!」
牡丹がそう言い放つと、ペーパは腰を地面に下ろした。まるで犬のように。
「……もしかして効果が逆になってます?」
実は、牡丹が放った光線銃は一度”機晶技術”で解体し、牡丹自身が組み立て直しただった。
そのせいか、「男性は惚れる」という効果から「男性は忠実になる」へと変わっていたのだった。
「……ついにこのときがやってきた」
牡丹にとっては予想外だったが、平助にとってはありがたい出来事だった。
逮捕するチャンスだからだ。
「逮捕だぁああああああああっ!!」
声をあげながら平助はペーパへと駆け寄ろうとする。
だが、その間をアイトーンが入り込んだ。
「乗れ、ペーパ。ドクターハデスの命令だ、ペーパ・ドクとやらを責任持って脱出させる!」
「牡丹様の言葉以外受け付けない……」
「ちっ、面倒だな!!」
アイトーンはペーパを無理矢理突き落とす形で、コックピットに乗せる。
「ペーパよ、全速力を出すから、しっかり捕まってろよ!」
空へと逃げようとするアイトーンとペーパ。
「逃がさないんだからっ!!!」
美羽は”バーストダッシュ”を使い、壁を蹴り上げペーパ達を追いかける。
美羽はさらに”歴戦の飛翔術”でアイトーンへと殴りかかろうとする。だが、アイトーンはそれを軽やかに避ける。
「空は俺様の特権だぜっ!!」
「むーっ!!」
美羽はアイトーンを突き落そうと、空中からかかと落としを繰り出そうとしたときだった。
アイトーンは”六連ミサイルポッド”を一斉に発射させた。
「――っ」
「危ない!」
真正面からミサイルを受け地面へと真っ逆さまに落ちかけた美羽だったが、すんでのところをコハクが”バーストダッシュ”で美羽をすくい上げた。
ふと、天井が明るくなったことに気がつく、
いつのまにか天井はミサイルで崩壊しており、その向こう側から青い空がのぞき込んでいた。
「全力前進!!」
アイトーンは”機晶アクセラレーター”により増幅させた”加速ブースター”であっという間に空へと消えていった。
「逃げられた……」
大きく開いた天井の元に残された平助刑事達はただ、呆然と空を眺める。
そして、コハクは始終メカハデスに愛でられ、何故かペルセポネは【恋のライバル】としてメカハデスの触手に捕らえられ艶めかしい声をあげ続けたのだった。
まさかこの後、この豪邸が大爆発するとは知らずに。