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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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「敵司令官が方法に現れたですかぁ!? ハデス、とっとと見てきやがるですぅ!」
 魔王エリザベートは防御に残ったドクター・ハデス(どくたー・はです)に命令するが、彼は怪しく笑うだけで動こうとはしない。
「何してやがるですぅ! とっとと見に行きやがれですぅ!」
 玉座に腰掛けながら、どたばたと手足を動かす魔王だが、ハデスは一切彼女の言葉を聞こうとしない。
「さしずめ、大魔王といったところか」
「大魔王……ですぅ? 寝言もいい加減にしやがれですぅ!」
 大魔王という言葉に反応し、ハデスを睨み付ける魔王だが、気にした様子を見せずにハデスは笑い出す。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者にして大魔王ドクター・ハデス! 魔王エリザベートよ! 所詮、魔王では大魔王には勝てぬ! さあ、大魔王であるこの俺の軍門に降るがいい!」
 息継ぎせずに長い言葉を続けたせいか、若干息切れをしているように見える。
 しかし、その言葉に呼応するかのように重装歩兵が鎧の音を鳴らしながら玉座を取り囲む。
「ククク、ゲームに謀反禁止というルールを設定しなかったお前のミスだったな、魔王エリザベートよ」
 抵抗しようとするが、重装歩兵に剣を向けられて居る為、うかつには動けない。
「一人では、城内の我が大魔王軍400名には抵抗できまい。 大人しく大魔王であるこの俺の大魔王軍に降伏するのだな!」
「囲んだところで魔王は誰にも従わねぇですぅ!」
 ムキ―、と声を荒げながら反論する彼女に一切の降伏の気配は無い。
「一体何があったんですか!」
 突如、扉の向こう側から聞こえてきたのは枝々咲 色花(ししざき・しきか)の声。
 ハデスが大魔王軍400名と言ったという事は、彼女は味方の可能性が高い。
「むぐっ、これはあの時の……!? あーっ!?」
 色花に助けを呼ぼうとする魔王だったが、それは色花の声の悲鳴によって阻まれる。
 しばらくの沈黙と、と怪しく笑うハデス。
「オリュンポスハカミデス……ハデスサンノイウトオリニウゴケバナンノシンパイモイラナイ……」
 荒々しく開け放たれた扉の向こう側に居たのは俯きながら呟く色花。
 ちらちらと見える目は焦点があっていなかったり、ぐるぐるとまわっていたりと明らかにおかしい。
「や、やめるですぅ!?」
 色花は重装歩兵の隙間をすり抜け、エリザベートを捕まえるとその場で羽交い絞めにする。
「すまぬのう、色花。 これもハデスの為じゃて」
 遅れて現れた高天原 天照(たかまがはら・てるよ)だが、その表情に悪びれた様子はない。
「魔王城も乗っ取ったし、後は俺達の時代だな。 なぁ、ハデス?」
「ククク、その通りだな! 魔王の情報は伏せ、魔王軍の兵力を利用して鋭峰軍を引き寄せるぞ!」
 八草 唐(やぐさ・から)に関しては逆に楽しそうにしており、次に何をするかでわくわくしているようだ。
「そうだ天照。 折角だし魔王にもそれを食わせたらどうだ?」
「おお、それはいいのぅ」
 天照が取り出した、唐の言う『それ』を見るなり、魔王の表情は青ざめる。
「この、『ドキドキ☆ロシアンチョコレート』をしっかり味わってもらおうかのぅ?」
 見た目は普通のチョコレートに見えるが、この世界の主である魔王は『それ』を分析し、正体を知ってしまった。
「明らかにヤバい何かの入ったそれはいやですぅ!?」
 食べるとオリュンポスに入会したくなりそうな『それ』を食べさせられる事を必死に拒否する彼女だが、天照はゆっくりと近づいてくる。
「ほうれ、嫌がるでない。 苦しいのは最初だけじゃて」
 ゆっくりと、まるで恐怖を与える様に魔王の口へと『それ』を放り込む。
「ですぅー!?」
 必死に暴れる魔王だが、色花のせいで動くことは出来ずに彼女の拘束から離れるとその場に倒れこんだ。
「……気絶した? そんな効果あったっけ?」
 そんな効果はないはずだが、と唐は不思議がるがハデスはそれを見て笑っていた。
「ククク、さしずめ恐怖で気を失ったのだろう。 それで魔王とは情けない……」
 元々拘束して放っておくつもりだったが、これなら心配はいらないだろう。
「魔王は完全に我らの手に堕ちた! これより大魔王軍は魔王城の防衛を行う!」
 高笑いをするオリュンポスの面々だったが、次の言葉がその空気を破壊する。
「大変だ! 鋭峰軍が火攻めをしてきたぞ! 早く鎮火しないと危険だ!」
「なにぃっ!?」
 ハデスや唐が大慌てで城の外壁を見ると、各部から火の手が上がっている。
「それにあっち、騎兵が突撃してきてるのぅ……」
 天照が戦場を挟んだ反対側の荒野を指さしながら、反対側の手ではいつの間にかお茶を持っていた。
 確かに、100騎程の騎兵がこちらへと直進して突撃しているのが見え、先頭に居るのは鋭峰軍朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。
「大魔王親衛隊! 早急に騎兵部隊を撃破し、城を防衛するのだ!」
「やれ! 大魔王軍、突撃!」
 ハデスや唐は突撃してくる騎兵隊を撃退するために、各々の部下へと指示を出す。
 しかし、目の前の事態に必死な彼らは魔王と色花の姿が無くなっていることには気づいていなかった。


「やれやれ。ハデス君も無茶なことを言い出したものです」
 魔王城の裏門で天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)はハデスの行動を思い出していた。
「まあ、敵の本陣さえ落とせれば、それで問題ありませんけどね」
 しかし、この奇襲に全ての兵力を割くわけにもいかず、本来の半数程でしか行動は起こせないのが問題だ。
「重装歩兵隊は、城門の防衛。 僕の弓兵隊でそこを弾幕援護。 崩れた隙をアルテミス君の騎兵隊で側面から攻撃してください」
 しかし、やるしかない。
 幸い主戦場では魔王軍が奮戦している為、本陣への被害は少ない。
 ここさえ防げれば鋭峰軍を落とすことも可能だろう。 ―――城の炎上がなければだが。
「十六凪様、了解しました。 ハデス師匠…いえ、大魔王ハデス様の魔王城は、我ら大魔王親衛隊が守ってみせます!」
「了解しました。 オリュンポスの騎士アルテミス、敵を撃破してご覧に入れます!」
 サソリの怪人である怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)は重装歩兵を率い、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は騎兵を率いてそれぞれの任に当たってゆく。
 炎上し、混乱する戦場の中で負傷した兵士を連れた部隊が裏門へと向かってきていた。
 魔王軍の鎧には数々の矢が突き刺さり、見ているだけで痛々しい。
「大丈夫か? ここは我らに任せて下がれ」
 デスストーカーは彼らの部隊を守る様に前に出る。
「……すみません、少し下がらせて貰います」
 部隊長の男はそう言いながらも、被害の少ないものに援護射撃を命じる。
「最終目標は、敵本陣に奇襲をかける仲間のために、敵を引きつけることです! 無理に戦わず、敵を引きつけることに集中しましょう!」
 アルテミスはそう言って騎兵を駆り、突撃する騎兵を避ける様に移動を始めていったが、その言葉に違和感を感じた者が一人いた。
「引き付ける? 魔王は正面突撃じゃ……?」
 魔王軍の鎧に痛々しく見える矢を突き刺した鋭峰軍のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)だった。
「どちらにせよ、魔王を倒せば関係ないか」
 ザカコはわずかな兵士を率い、何食わぬ顔で魔王城へと侵入する。
 幸い、魔王城の構造は事前に調査を行って把握している為、玉座の間へは迷わずに進むことができた。
「……居た!」
 玉座に腰掛けているのが魔王だろう、その態度はふてぶてしい。
「魔王様! 鋭峰軍の奇襲です! 早くお逃げを!」
 それと同時に、城全体に衝撃が走り、剣戟の音が響き渡る。
 別働の奇襲部隊も無事に突撃が成功したのだろうか、どちらにせよこの状況は好都合だ。
「くっ、突破されたならば仕方ない。 これは戦略的な撤退だ!」
「……誰だ!?」
 男の声、魔王自身はエリザベート学長のコピーであり、小柄な少女の姿をしているはず。
 しかし、目の前に居るのは明らかに違う男性だ。
「ほう、貴様は魔王軍ではないのか?」
 メガネを光らせ、クククと笑う男。
「我こそは大魔王、ドク―――」
「らぁっ!!」
 名乗りを上げようとする大魔王の体が、後方から乗り込んできた垂の強烈な右ストレートで吹き飛んだ。
「こいつが魔王……だよな?」
 目の前で意識を飛ばしている男を見るが、どうにも聞いていた情報と食い違う。
「魔王は学長そっくりのはず、影武者……ってわけじゃないと思いますけれど」
 ザカコは目の前の男が何だったのかを聞き出したいが、完全に意識を失っている。
「わっかんねぇなぁ。 折角遠回りして回り込んだっていうのによ」
 垂もここへたどり着く為に多くの時間と犠牲を払ってやってきたのに、居たのは魔王ではない。
 だとしたら本物はどこへ行ってしまったのだろうか。
「探すしかねぇな」
 どちらかの指揮官が討たれたとき、このゲームは終了するはずだがまだ終わっていないという事は魔王はどこかに逃げ延びているという事だ。
「ですね、全く迷惑な!」
「そりゃ元々だろ!」 
 燃え盛る城の中、2人は魔王を探して一斉に行動を開始した。