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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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「ハデス……犠牲は無駄にしないであります」
 燃え盛る魔王城を見据え、にやにやと笑う葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は空でいい笑顔を浮かべているハデス、と思われる影に敬礼していた。
 彼が囮となってくれたおかげで敵の奇襲部隊はそちらへ注力、他部隊も主戦場でぶつかっている以上これ以上の横槍はないはずだ。
「全軍突撃!!」
 吹雪が腕を振り下ろすと同時に、兵士達は雄たけびを上げて突撃する。
 鋭峰軍の本拠点までの障害は殆ど見当たらないが、彼らの突撃を阻むように大量の矢が放たれた。
「おおっ、随分と早い対応でござるな」
「ルカルカ少佐辺りかしらね?」
 吹雪と同じように馬を駆るコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は突撃する兵士達を後方で眺めながら矢を放った部隊を予想する。
 恐らくそれは間違っていないだろう、【金鋭峰の剣】である彼女は彼の敵を真っ先に斬る存在であるのだから。
「怯むな! 勤めを果たすのだ!」
 突撃する兵士達の先頭を駆けるのはまるで蛸のような姿をしたポータラカ人であるイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)だ。
「でも、あれでいいの?」
 吹雪もコルセアもお互いに騎兵を温存させており、突撃しているのはイングラハムの軽装歩兵と工作部隊だ。
 全軍突撃であるはずなのに、この現状をコルセアは不思議に感じていた。
「くっくっく、奴はいい囮になるであります」
 にやにやと笑う吹雪を見て、コルセアは「ああ」と納得した。
「戦場は非情よね」
 コルセアの台詞と同時に、イングラハムの脳天が撃ち抜かれたと同時に吹雪は騎兵に突撃指示を出す。
 先行した彼の部隊が前もって設置された罠の有無を調べており、イングラハムはそれを隠す為の囮だったのだ。
「掛かったな我は囮よ!!」
 勤めを果たした彼は満足そうな顔をし、自分を追い抜いて駆けてゆく吹雪達を見ていた。 
「オリュンポス万歳!!」
 イングラハムは派手な爆発と共に散った。

「何だ、囮?」
 鋭峰軍の拠点からやけに目立つ蛸を狙撃したダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は渾身の叫びを聞いて困惑した。
 何の為の囮になったのか、急ぎ周囲を見回すと後続の騎兵隊が罠の少ないエリアを突撃してくる。
「罠の調べる工作兵を隠す囮か」
 目立ちすぎる蛸に意識が向かっており、そのすぐ傍で身を隠す工作兵に気が付かなかった。
 敵ながら目立つ風貌を利用したうまい作戦だ。
「敵主力は蓮華の部隊に任せて敵の奇襲を防ぐわ! ここを抜かれるわけにはいかないの!」
 正面から突撃してくる敵部隊の迎撃を他の部隊に任せ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は自身の部隊を敵の突撃を防ぐように向かわせる。
 しかし、彼女の部隊は重装歩兵が中心であり、機動力には乏しい。
「ダリル、敵突撃部隊の馬を狙って突進力を削いで!」
「任せておけ」
 ダリル自身も弓兵と共に一斉に矢を放つ。
 突撃してくる敵部隊の馬に矢は刺さり、その場で転倒すると同時に後続ももつれ込む。
 勿論突破してくる敵騎兵は居るものの、重装歩兵が布陣を引くまでの時間は稼げている。
「淵、カルキ。 左右に展開して敵部隊を迎え撃つわ!」
「応よ!」
「任せておけ!」
 ルカルカから見て、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は右へ夏侯 淵(かこう・えん)は左へと重装歩兵を率いて展開していく。
「ここを凌げば勝利は近い、他の部隊が魔王を叩くわ。 頼んだわよ皆!」
 燃え盛る魔王城を見る限り、奇襲は成功しているのだろう。
 だとすれば、この襲撃を防げば勝てると信じ、ルカルカ自身も剣を振るって敵兵を捌く。
「効率よく、損耗無く、三方から確実に敵を狩れ」
 ダリルの部隊がルカルカの後方から頭上を越える様に矢を放つと、淵やカルキの部隊からも矢の雨が敵騎兵に向けて降り注ぐ。
「おおっ、これはいかんでありますな!」
 器用に降り注ぐ矢を防ぎながら突撃指揮をしていた吹雪は騎兵の足を止める。
「これは厳しいわね、こっちの素人指揮じゃ厳しいか」
 同じように矢を防ぐコルセアも突撃を止め、既に引いた場所に待機しているが、部隊はほぼ壊滅状態だ。
「戦場での兵力差は二乗として扱うものだ。 一対多数、これが基本ゆえ破られはせぬよ」
 2人を見つけた淵はふふんと得意げに鼻を鳴らす。
「ごもっともでありますな、しかし今はご高説を聞いてる暇はないであります!」
 馬の腹を両足で挟むように蹴り、勢いよく2人は戦場を離れていく。
「ぬ、逃げる気か!」
「逃げる相手はいいわ! すぐに蓮華達の掩護に向かわなきゃ!」
 逃げる2人に矢を構える淵をルカルカは止め、すぐさま主戦場へ戻るようへと指示を出す。
 だが、主戦場からは凄まじい歓声と本拠点まで敵部隊が進行したとの報告が届いていた。


「みんな、がんばってぇーっ!」
「っ!? しまった!」
 味方の重装歩兵に守られるように魔王軍のノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は兵士達を鼓舞しつつ、蓮華の布陣を突破して本拠点の目の前までたどり着いていた。
「皆が作ってくれたチャンス、ここでしっかりつかもうねえー!」
 鉄心や陽一達の掩護や、先ほどの奇襲により生まれたチャンスは是非とも物にしたい。
 それに、子育てに忙しいく、参加出来なかった御神楽 陽太(みかぐら・ようた)にそのことを報告できればきっと喜んでくれるだろうと思っていた。
「見えた!」
 敵総司令官である金鋭峰はもう目で見える距離。
 そしてその間を阻むものは正面に存在せず、突破した後方の部隊は味方が死力を尽くして防いでくれているのだ。
「よぉし、突撃ぃー!」
 100は居た重装歩兵達の殆どは消耗し、既に10人程しか残っていないがノーンは冷気で作りだした氷の盾【蒼氷花冠】を構えて兵士と共に鋭峰へと突撃する。
「ほう、君か……」
 ノーンを捉えた鋭峰は慌てた様子もなく、先日の事件のことを思い出していた。
「魔王ちゃんの為にもーっ!」
 折角仲良くなれたのだ、どうせなら勝って彼女と共に現実世界でも遊びたい。
 そんな想いと共に鋭峰へ向けられた一撃は、彼に届く寸前で弾き飛ばされる。
「っ! ルカルカちゃん!?」
「私を倒さずして金鋭峰は倒せないわよっ!!」
 ノーンの盾は鋭峰との間に割って入ったルカルカの剣により吹き飛ばされ、彼女自身もその衝撃で吹き飛ばされて重装歩兵の1人に支えられていた。
 そのわずかな時間が勝敗を分けた。
 ノーンの部隊は蓮華やルカルカ達の部隊に包囲されて刃を向けられ、逃げ場はない。 
「ごめんね、魔王ちゃん」
 包囲されてはどうしようもなく、武器を手放してがっくりと落ち込む。
「魔王はまだ負けてねーですぅ!」
 辺りに響くのは本来ならばここに居るはずのない魔王エリザベートの声。
 丁度鋭峰の背中の先にある駐屯地の塀の上に魔王エリザベートが立ち尽くしていた。
「大魔王にしてやられたですが、魔王はまだ生きているですぅ! 金鋭峰、覚悟するですぅ!」
 ここまでは全力で走ってきたのだろうか、ぜぇぜぇと肩で息をしているが、彼女は勢いよく飛び降りる。
 そして、勢い余って倒れこんだ。
 先ほどの勢いはどこに行ってしまったのか、辺りには沈黙が流れる。
 無論、その好機を鋭峰軍の面々が逃すはずもなく、彼女はそのまま包囲された。


「え、と。 私達の勝ち?」
 包囲された魔王エリザベートを囲み、蓮華は確信が得られずに疑問めいたまま魔王に問いかけた。
 明確なルールでは指揮官の元にたどり着かれれば敗北とのことだったが、指揮官が移動したり、大魔王が現れたりと、混乱しきったこの戦場ではそのルールをどう適用するのか判断しかねてしまう。
「……この状態じゃぐうの音もでねぇですぅ」
 本人曰く、魔王城から走ってきたらしく、未だに立ち上がれていない。
「ふむ、大魔王とやらによって一悶着はあったようだが、魔王が負けを認めたという事は我らの勝利という事だろう」
 鋭峰がそういうと、辺りから一斉に勝利を喜ぶ歓声が上がる。
「記憶がない間、うちの面々が迷惑をかけてすみません」
 歓声の中、彼女は唐や天照がしたことを謝罪するが、魔王も鋭峰も気にしていないといった。
 色花は魔王軍に参加しようとしたが、何かを食べさせられてから意識がなくなっていたとのことだ。
 しかし、意識が戻ってからは、魔王と共に燃え盛る城から脱出してここまでやってきたらしい。
「約束通り、装置は教導団に設置してやるですぅ!」
「設置に要する費用もイルミンスールの負担でお願いする」
「ありがとう、エリザベート!」
 ダリルが彼女の言葉に追い打ちをかける様に約束を押し付け、ルカルカが満点の笑顔で微笑むと、そこに彼女の逃げ道は無く肯定するしかなかった。
 それによって本物のエリザベートが頭を抱えることになるのだが、それはまた別の話である。
「いやぁ、楽しかった。 今度は空兵も兵種にいれてみぬか?」
「いいな、それ。 飛竜の軍団とかやってみてぇ」
 お互いに笑いあう淵とカルキ。
「おお! 次は蹂躙してやるですぅ!」
 そして、2人に割って入り、高らかに宣戦布告する魔王。
「皆、よくやってくれたな」
 ルカルカや蓮華、他の兵士達に労わりの言葉をかけながら鋭峰は魔王の元へと歩み寄った。
「……なんですぅ、情けなら聞かねーですぅ」
「ふむ、情け、というわけではないが、正直私は今回勝てたと思っていない」
 鋭峰は立ち膝をつき、エリザベートと同じ目線まで姿勢を下ろす。
「戦場では何が起こるかわからない、それは承知の上。 そして指揮官が私の背後を取った」
 魔王は頬を膨らませながらも鋭峰の話を聞き続ける。
「そこで私は魔王へと再戦を申し込みたい。 現実世界でな」
 鋭峰の最後の一言を聞いた時、魔王の表情はパッと明るくなる。
「よかったね、魔王ちゃん!」
 ノーンが笑顔で手を刺しのべると、魔王は笑顔で掴み立ち上がった。
「やったですぅーっ!」
 無邪気に喜ぶ魔王は本当にうれしそうだ。