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リアクション
レイトウモロコシの調理は他の契約者に任せ、荒神とアルベールはサンプルをテレサ・カーマイン(てれさ・かーまいん)のラボまで持ち帰っていた。
「ようこそ私のラボへ……。さぁて、楽しい楽しい実験の時間だ!」
未知の研究素材を前に、興奮するテレサ。狂気じみたその笑みはマッドサイエンティストそのものである。
「じっくりと……研究を楽しもうじゃないか」
零の頭を両手で掲げるテレサは、まるで洗礼者ヨハネの首を持つサロメのように妖艶であった。
いっぽう、八紘零の動向を注視する及川 猛(おいかわ・たける)は、ラビットコインのハッキング事件を調べ上げていた。
ラビットコインのシステム上、盗まれたコインを取り戻すことはできない。だが、そもそも及川にとって葦原島の財政は二の次であった。狙うは八紘零の足どりである。
ハッキングは完璧で、情報通信に長けた『パラミタデータバンク』の社長である彼でさえ、追跡は困難を極めた。
八紘零は、仲介コンピュータを経由してデータをルーティングしており、発信源を偽装している。さらにトーア――経路の特定を妨害する匿名通信――を仕込み、難読化したトラフィックを撒き散らしていたのだ。
及川が解読しつつ不正侵入されたプロキシコンピュータを辿っていくも、その追跡はいつも偽の発信源で途絶えてしまう。
「……八紘零。よう、ケツを割りよるのぉ」
苦虫を噛み潰したような顔で、及川が吐き捨てた。
及川が苦戦するなか、レイトウモロコシ研究を進めるテレサはある疑惑を抱く。八紘零は、自身の目的をアポカリプスの開闢――パラミタの人間のDNAを自分のものに変えることだと言った。しかし、果たして奴の狙いはそれだけなのだろうか……。
レイゲノムには、なにかそれだけでは収まらない力を感じるのだ。
テレサは思案しながら、解剖したレイトウモロコシが入ったシャーレを覗き込んでいた。
及川、そしてテレサの執念は、ついにある成果のもとで結実する。
ラビットコインのハッキングは追い切れなかったが、及川はその過程で、八紘零が書いたと思われる未発表の科学論文を見つけたのだ。
それは、ZERO細胞と名付けられた、人工多能性幹細胞に関する内容であった。
論文のデータは散在しており、すべての内容を網羅することはできない。しかし、この情報は、八紘零の今後の行動に大きな関わりを持つだろう。
及川はすぐさま、ZERO細胞にまつわる情報を、他の契約者にむけて発信した。
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