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リアクション
ところ変わって、こちらは再び葦原島B地区。
死屍累々のレイトウモロコシを、花澤愛音羽が睨みつけていた。
八紘零への憎悪がダダ漏れの彼女に、コハク・ソーロッドが話しかける。
「そういえば愛音羽って、どうして八紘零と関わることになったの?」
「……妹が、白血病なんだ。ちょうど発病したころに、八紘零が白血病を治す新薬を発表してよ。それを使ったら、治ったようにみえたんだ」
「本当は治ってなかったの?」
「むしろ、逆だったんだ。その薬は遺伝子を操作して白血病を促進させ、肉体改造を促すシロモノだった。あたしの妹は人体実験にされたってわけさ。にもかかわらず、あたしの親は治ったと思い込んで、八紘零を崇拝しはじめた」
「愛音羽は、両親を説得しようとしたんだね?」
「ああ。だが逆に、零のヤローに洗脳されちまったのさ。ったく、ふざけやがって!!」
過去を思い出して怒りがこみ上げた愛音羽は、足元に転がっていたレイトウモロコシの粒を踏みつぶした。顔面が砕け散り、眼球がコロコロと地面を転がる。見ようによってはダンディな零の顔立ちが、一瞬にして失敗した福笑いみたいになった。
「――愛音羽さん。人は皆、過去を抱えて生きています。たとえそれが、如何なる闇であっても、向き合わねばならない時が来るのです」
富永佐那が、宥めるように言う。
「たしかに八紘零の所業は許し難いものです。――しかし、彼は人の怨嗟すらも手玉に取る人物。怒りで我を忘れてしまえば、それこそ零の思う壺なのではありませんか?」
「でもよ。奴を思うと腹が立ってしかたねぇんだ!」
「怒りを抱くな、とは言いません。ソフィーチカ……あの娘もまた、あの歳で支えきれぬほどの怒りや悲しみを背負わされてしまいました。ですが、今ではそれを分かち合う事ができるんです。こうして私たちと前を向いて生きているのですから」
「……」
「だから、愛音羽さん。あなたの怒りもまた、分かち合う必要があると思います。怒りの根源をひとりで抱えず、私たちにも分けては貰えないでしょうか?」
「ああ。これからは、そうさせてもらうよ。――ありがとな」
愛音羽は滅多なことでは下ろさない頭を、佐那に向けて小さく下げた。
「――ま。今は、できることをするっきゃないよ!」
小鳥遊美羽が元気よく言った。思いの外シリアスになってしまった空気が、パアッと明るくなる。
「あのトウモロコシを放って置くのも、みぐるしーからねっ! さっさと工場に運んじゃおうっ!」
美羽を先導にして、バラバラになったレイトウモロコシをまとめ、予定していたバイオエタノール工場へと搬送していった。
そして、レイトウモロコシからは当初の計画通り、バイオエタノールが精製できることが判明。
零の顔が脂っぽかったのが功を奏したのかは定かではないが、そのおかげでクリーンエネルギー政策の一助となったのである。
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