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■学園では

「……ふむ、ちとつまらんのぅ」
「日頃の行いですかね、魔王が下着姿で校内をうろついていたにもかかわらず、皆慣れたものですよ」
 学園に残り、校内を見回っていたアーデルハイトとザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はいつもと変わらぬ学園を見ていた。
「騒ぎの1つや2つでも起きとれば騒ぎに乗じて楽しめたのにのぅ」
「なら、校長はクールビズの意味を間違えて覚えて早くも実践している、とか噂を流してみましょうか?」
「おお、それはいいのぅ!」
 つまらなさそうにしていたアーデルハイトだが、ザカコの提案を聞くなりにやにやとした笑みを浮かべている。
「たまにはこうゆう息抜きも必要ですしね。 どうしましょうか、アーデルさん」 
「もちろん、すぐさま実践じゃ!」
 早速と言った様子で、アーデルハイトは歩き出す。
「こんなこともあろうかと用意しておいた新聞部に役立ってもらう時が来たのぅ」
 くくくと笑うアーデルハイトを見て、この学園もまだまだ盛り上がりそうだと思うザカコだった。


「随分騒がしいけど、何かあったの? 蓮華は生徒に話を聞くなり飛んでっちゃったんだけど」
 学園の入り口で汗を拭うアーデルハイトとザカコの元には大きな段ボールを抱えたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の姿があった。
「ああ、魔王が逃げ出しちゃったんですよ。 どうにも部下が欲しいとか言って、森に」
「調整も済んでいないのにか? 全く、迷惑な魔王様だ」
 ふう、と深いため息をつくダリル。
「しかし、その箱は……? 随分大きな荷物みたいですけど」
 ルカルカのダンボールはやけに大きく、大の大人が1人で隠れられそうなサイズはある。
「これね、魔王用の服よ。 ホントは一緒に送るつもりだったんだけど、何故か魔王の体だけ発送日が書き換えられてて結局持ってくることにしたの」
 発送日が書き換わっていた、というのは魔王がデータ世界で数字を書き換えた為だろう。
「結局自業自得ってことですね……」
 全く、とザカコもため息をついた。
「苦労してるな」
「まぁ……。 っと、森のほうが騒がしいですね……!?」
 突然魔王が入っていた森の方から生徒の悲鳴が聞こえ、ザカコが見たものは3つ首のヒュドラ。
 そして、頭に乗ってはしゃぐ魔王と疲れた顔をするエリザベートと他の契約者達の姿だった。
「どういう事、蓮華」
 自体が気になったルカルカは蓮華に話を聞くと、彼女は簡潔に事態を説明してくれた。
「つまり、角を材料にした魔王を角と勘違いしたヒュドラが魔王の友達になっちゃったってこと?」
「部下ですぅ!」
 魔王の発言はひとまず無視し、ルカルカは起きた事態を把握する。
「ヒュドラの角を材料にした結果か、ふむ……」
 ダリルには何か思うところがあったのか、目の前のヒュドラ等気にせずに思案している。
「まぁ、無事だったらいいの。 それよりもこれ!」
 がさごそとダンボールの封を切り、ルカルカが取り出したのはイルミンスールの制服だ。
「あと、パジャマとかドレスとか、魔王っぽい服もあるのよ」
「ほほう、団長も随分を気を聞かせてくれるようじゃなぁ」
 よく見ると、全てエリザベートのサイズに合っている服ばかりだ。
「2人とも、着たい服はあるかしら?」
 キラリ、とルカルカの目が光る。
「ババ様」
「いうな、わかっておる」
 エリザベートとアーデルハイトはわずかなアイコンタクトを交わすと同時に学園内に逃げ出した。
「あ、待ちなさい!」
 追いかけるルカルカの手にはやけに派手なワンピースやドレスが握られていた。
「魔王、ちょっといいか?」
「何ですぅ?」
 ルカルカの事はさておき、ダリルはヒュドラの頭に乗った魔王に向き直る。
「その体はまだ未調整はずだが、やけに動きがいいのが気になるんだが」
「ああ、そのことならそいつにやってもらったですぅ」
 ヒュドラの背には気を失ったハデスの姿がある。
「……なるほど、趣味は悪いが腕は確か、か。 しかし突貫工事では不安だ、飛行艇で調整をしたい、いいか?」
 ダリルの言葉に、魔王は「んー」と少し考え込むがすぐに頷いた。
「でも、魔王はもっと強くなりてーですぅ」
「わかっている、その為の俺だ」
 魔王がヒュドラの頭を軽く小突くと、地面に降りやすいように頭を下げる。
「よっと、じゃあ頼むですぅ!」
 少しふらつきながらも、魔王は元気よくそう言った。