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現れた名も無き旅団

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現れた名も無き旅団

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 イルミンスール魔法学校、廊下。

「あの旅団結成に双子が関わっていたとはらしいと言えばらしいよね」
「エース、随分楽しそうですね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)達から聞いた事情を話題にしながら廊下を歩いていた。エオリアはこれから始まる気苦労に溜息を吐く一方エースは目に見えて楽しそうであった。
「いや、ほら双子達が普段どうやり過ぎな実験をやらかすのかを知るチャンスじゃん。今のところまともに作ってるって言ってもさ。あの双子が普通の薬なんか作れるわけないし」
 双子をよく知るエースは遠慮なく双子に酷い事を言い放った。双子がこの場にいたらさぞ文句を垂れていた事だろう。
 その上
「……それには僕も同意しますけど、今回はやり過ぎの魔法薬を作らせ使わせずに廃棄物にする必要があるという事で自然と僕達も危険と隣り合わせですので監視はしないといけないかと」
 エオリアも同意し双子のフォロー無しである。むしろ自分達に危険が及ぶ事を警戒している。毎回双子に巻き込まれているため手慣れ感に満ち満ちていた。
「分かってるよ。でもあの二人が気付いていないだけでどこか妙な効果が上乗せされてるんじゃないかな。今までだって大抵そうだし、どの位暴走するのか本人達だって判っていない物が多かったじゃん」
 エースも双子の暴走には慣れているため巻き込まれに行くのに全く恐れが無く逆に呑気である。
「確かにそうですね。エース、例の話は黙っておきましょう。名も無き旅団結成と関わっている事は」
 エオリアは忘れずに大事な事を言った。
「心得てるよ。うっかり正直に言うとあの二人の事だから暴走薬が無かったらどうなるのか見てみたい! ってなるのはほぼ確実だからね。この俺も聞いた時は少しわくわくしてしまったし。まぁ、それはそれで原因が別の並行世界になるだけで変わらないって気がするけど」
 とエースは双子の考えそうな事はお見通しなのだ。
 何やかんやと話ながら歩いている内に
「ここですね、エース、とにかくうっかりはしないで下さいよ。本当に危険ですからあくまでも自然に振る舞い目的を悟られないように……」
「分かってるよ」
 エオリアとエースは双子がいる実験室に到着していた。気を引き締めてから実験室へ入った。

 実験室。

「やぁ、相変わらず元気に騒ぎを起こしているかい」
 エースは爽やかな笑顔で何気なく双子に挨拶をした。
「!!」
 双子は知る声に身体を震わせ
「おいおい、何だよ」
「いつもオレ達が悪い事しているみたいな言い方じゃねぇか」
 双子は恐る恐る振り返った。
 そこに
「来たよ! 二人共元気してる?」
 元気に片手を挙げて挨拶する美羽と
「じゃーん、あたしもいるわよ!! 相も変わらず悪さ全開の顔をしてるわね」
 てきとうな擬音と共に野次馬根性丸出しのセレンフィリティと
「実験室はまだ無事なようね」
 セレアナが登場。
「失礼だな。今日はいつもより調子がいいんだ。この通り!」
 セレアナの発言に立腹しながらヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)は完成したばかりの悪戯用の魔法薬を見せつけた。
「何だ、いつもと同じじゃん。まともな物を作ってるって聞いて来たのに」
 悪戯でない魔法薬だと思っていたセレンフィリティは見るからにがっかり。
「何だよ、そのまともって、訳分かんねぇ。でも変な事起きないし、ヒスミもやらかさないし、順調だぞ」
 キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)は出来上がった妙な色の液体が入った小瓶を皆に見せながら言った。
「……まともと言うのは、やりすぎが無い悪戯用の魔法薬という事ね。それはそれで珍しいわね」
 セレアナは珍獣でもみるかのようにヒスミの顔を見て言葉を洩らした。
「……」
 セレンフィリティは無言でつかつかと双子に近付くなり二人の額に手を当てる。
 その瞬間、
「……な、何だよ!!」
「まだ何もしていないぞ。これはロズの研究の息抜きだからな」
 何かされると感じた双子はぎゃあぎゃあと喚いた。
 そんな声は無視し彼らの額から手を離し
「熱はないみたいねぇ」
 セレンフィリティは少し小首を傾げた。
「ねぇよ。この通りぴんぴんしてらぁ」
 ヒスミがむっとしながら元気アピールをすると
「そうね。やりすぎがない悪戯の薬だって聞いたから何か悪い物でも食べたんじゃないかと思ってそれか頭を打ったとか思ったんだけど」
 セレンフィリティは隠す事無く先程の行動の理由を明かした。
「失礼な奴だなぁ。で、何しに来たんだよ。あの説教ババアに言われて邪魔しに来たのか?」
 キスミはセレンフィリティに口を尖らせてから不満顔で集まった面子を改めて確認するなり何かしらの意図と首謀者を察した。双子には皆が思っている通り真相を話すと調子に乗るとエリザベート達も考え話していないのだ。
「違う違う、様子を見に来ただけだよ。元気に魔法薬作りに励んでいるのかなって」
 美羽が思いっきり否定する。真相を知られると何かと面倒。知られるとしても事が終わってからの方がいい。
「……何かおかしい」
「お前らグルになって何かしようとしてるだろ」
 双子は訝しの目で五人をにらんだ。これまで何やかんやで説教や痛い目に遭わせられた人達ばかりなので。ただ、どれもこれも双子の自業自得の事ばかりだが。
「そんな事はないわ(さすがに説教慣れしているだけはあるわね)」
 セレアナも美羽と同じく否定しつつも双子の敏感さに感心していた。
「いえ、全く他意はありませんよ。美味しいお茶とお菓子で双子を囲んでお茶会でもと思いまして、皆さんもどうですか?」
 エオリアは持参したお菓子などを見せて遊びに来ただけアピールをする。
「是非! ね、二人共参加するよね?」
 美羽はエオリアの誘いに即答するなり双子にも声をかけた。
「そりゃ、美味しいから食べたいけど。なぁ、キスミ」
「あぁ、やっぱ何かあるだろ?」
 『調理』を有するエオリアの菓子は何度か食し美味しさが折り紙付きなのは知っているが、疑いの方が強く即快諾はしない。
「無いよ。随分疑り深いね。ほら、エオリアがお茶会の準備が出来るまでまだ時間が掛かるから作業の続きでもしたらどうだい? そもそも今回は何の悪戯薬を作ろうとしていたんだい。怒らないから、正直に言ってごらん」
 エースはにこっと奥に他意を含めた笑顔で双子の大好きな魔法薬の話を振りこれ以上疑惑の目を向けられるのを防ごうとした。
「それは……」
「正直にってどうしたんだよ……」
 じと目でエースの笑顔を見つつも完成した魔法薬を次々と紹介を始めた。どれもこれも本日暴走が無いため普通の悪戯用魔法薬であった。
 そして、双子が魔法薬を紹介するのを聞きつつ煽り役も気を引き締めていた。

 一方。
「では僕は準備を整えますので、もう少々お待ち下さいね」
 エオリアはお茶会用にテーブルを一つと人数分の椅子確保や持参したお菓子などの準備をゆっくりと始めた。

 双子が今日の成果を紹介する中、
「今日のは何だかあまり面白くないね。何というか二人の個性が見られないというか」
 美羽が物足りなそうな表情と口調で評価。本来ならこのままの方が安全でいいのだが。
 そこに美羽が煽っている間にわずか3秒で思いついたセレンフィリティが
「そうそう個性の欠片も感じられないわ。こんなショボイ薬しかつくれない様になったんじゃあ双子も終わりよねー、もっとこう、パンチのきいた薬ってないの」
 煽りに参加。ただしわずか3秒で思いついただけあって内容はいい加減だが、そこは口調や身振り手振りでカバー。
「そうかぁ?」
 ヒスミは口を尖らせつまらなさそうにしょんぼり。
「だったら、これはどうだ?」
 キスミが別の発明品を見せつけると
「それも大したレベルじゃないわね。素人でも作れるわよ?」
 セレアナがすかさずだめ出しをする。
「何だよ」
「やっぱりあの説教ババアの回し者か!?」
 だめ出しばかりに双子は再び猜疑心を抱くが
「違うわよ。正直な評価をしただけよ。とりあえず……なぜか微妙なゆる族になっちゃう薬とかどう?」
「他には薬を飲んだら超合金五神合体するとか、もっとこう面白い悪戯薬を作れないの?」
「そうそう、何か派手で面白い物とか」
 セレアナとセレンフィリティと美羽がとんでも薬を提案すると
「よし、だったらもっと良いのを作ってやるよ」
「文句が言えねぇような物をな」
 双子は三人の思惑通りやる気が刺激され作業を始めた。

「……(完成時だけじゃなくて工程の途中で何か起こる可能性もあるし気を付けなきゃ)」
「……(何が起きても言いように警戒をしなければ)」
 美羽とセレアナは火の粉が降りかかる事を警戒するが
「ああもう、じれったい。あたしにちょっと貸しなさい!!」
 セレンフィリティは双子から作業途中の魔法薬をかっさらい手近にあった瓶をを手にし、瓶の中身である訳の分からぬ液体を注ぎ込んだ。
「ちょっ、おい!!」
「何するんだよ!!」
 魔法薬を強引に奪われた双子は大慌て
「……セレン」
 セレアナも多少呆れたり。
「これも入れた方がいいわね。他には何か無いかしら?(目的は失敗作を作る事なんだし、これくらいしても問題無いわよ)」
 セレンフィリティは手近にあった素材を製作中の魔法薬にぶち込んだ。目的は失敗作製作なのでセレンフィリティの行動は全く問題無いが、魔法薬がどんな効果を発揮するかはもはや不明どころかカオスである。

 セレンフィリティに声をかけられた双子は
「だったらこれも入れたらいいぜ」
「ついでにこれも」
 怪しげな素材や液体を次々とぶち込んで行った。
「これももっと派手な方が楽しくなると思うけど」
 美羽が近くの発明品を指し示し、何とかやり過ぎを起こさせようとしてみる。
 それを聞きつけるなり
「だったらこれを入れてみるか」
「おいおい、ヒスミ大丈夫か?」
 双子は追加素材をぶち込む。しかもヒスミのやり過ぎが発現。
 途端、
「おわっ!!」
「何だよ、これ作成途中で暴れやがって根性が悪いぞ」
 双子は意味不明な物体に襲われ攻撃が向かうその瞬間
「危ない!!」
 美羽は素速く強烈な『鉄壁飛連脚』をかまし物体を蹴り倒した。

 戦闘終了後。
「二人共、無事? 変なのが出たけどさっきよりは面白いよ!」
 美羽は振り返り双子の無事を確認しつつ魔法薬への褒め言葉も忘れない。
「だろう! でも助かったぜ」
「ちょっと本気を出せばこんな感じさ。危なかったぜ」
 双子は口々に安堵と褒め言葉でいい気になり始めていた。

「調子を取り戻したみたいね」
「そうね(先の魔法薬の方は何も起きないみたいね。回収するまで油断は出来ないけど)」
 セレンフィリティとセレアナは調子に乗る双子に肩をすくめていた。
「……ようやく起きたね」
 エースは待ってましたとばかりにやり過ぎの瞬間をのんびりと見学していた。

 この後、双子は皆に煽られやり過ぎを発揮する魔法薬を多く作り出した。途中、危険な目に遭ったりするが、煽り役の皆の力により事なきを得ていた。