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リアクション
いつもと違うキスを贈りたい
賑やかな祭りの喧騒に、近くを通りかかった紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は広場に設置された遊び場出店に立ち寄ってみた。
「あー……そういえば、なんか祭りの宣伝を見た気がするな。こういう時はあいつがいると楽しそうなんだが……」
チラッと唯斗は自分の肩へ視線を向けた。ある事情で人間からモモンガの姿になってしまったブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)が良く唯斗の肩に乗っていたのである。
「ついてないねぇ、ペロ子なら面白がって遊んだんだろうけど」
大罪探しの合間、気分転換出来たかもしれなかった。
「じゃあ、ここは土産でも買っていってやるか」
取り敢えず、食べ物の出店へと巡っていた唯斗の手には既にたこ焼きがあり、彼はもう一つ外せないもの――お好み焼きを探していた。
「中々見当たらない……というか、お好み焼きっぽいけどなんか違うような」
鉄板の上で焼いて作ると思っていたが、ズラリと並んだ小振りなフライパンでいくつものお好み焼きもどきを焼いている出店を見つけた。良く見てみると具が肉メイン、シーフードメイン、ちょっと変わった所でキンピラ、納豆、豆腐、白菜……といった具に分けて一斉に焼いているのだ。
「……パラミタのお好み焼きは、チャレンジャーだ」
迷った末、唯斗は1種類ずつ全て買ってみた。
「唯斗さん、これ全部ブリュンヒルデさんに上げるんですか……?」
「ああ、勿論キスで元の姿に戻してからな。何が好きか聞いておけば良かった」
たまたま、祭りに来ていた紫月 純(しづき・じゅん)が荷物持ちをかって出てくれたのでブリュンヒルデへの土産物で軽い物を頼んでいた。
「唯斗さん……ちょっと喉が渇きませんか? 暑いですし……」
純が唯斗へ訴えかけると、麦わら帽子を深く被った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がスッとラムネ瓶を純の目の前に差し出した。
「通りすがりの『瓶ラムネの少女』という者です、ラムネで一服どうですか?」
思わず手に取った純が珍しそうにラムネ瓶を見ていた。
「これ……どうやって飲むんですか?」
「えっと、まず栓を開けるんだよ。ここが第一の関門なのです。しずかーに抑えて……でないと、ぷしゅーってラムネが吹きこぼれちゃいます」
「何してるんだ?」
ラムネ瓶に集中していた純は唯斗の声に驚いて思わず力が入り、ビー玉の栓を開けた瞬間に文字通りプシューッと吹いたのでした。
ぽったぽったと純、詩穂、唯斗の顔には万遍なくラムネがかかってしまったがラムネの美味しさにあまり気にしていない様子の純に、唯斗が詩穂へ謝った。
「悪いな、せっかく開け方教えてくれてたのに……ん? ほら、あんたも顔にかかったしこれで……あれ? 詩穂か?」
麦わら帽子の下から覗き込もうとした唯斗から顔を隠すように、ノー! と頭を横に振ると「私は『瓶ラムネの少女』です」と告げて颯爽と2人から離れていくのでした。
◇ ◇ ◇
なんだかんだと夕暮れまで祭りを満喫してしまった唯斗は、花火もある事を知ると再び肩の上に視線を向けた。
「花火か……こういうのがあるってわかってりゃ浴衣も用意してたんだがな、この前うっかり触った時に測ったし」
若干、問題発言と取られかねないところではあったが、純の耳には入っていなかったらしい。
花火を見ながらなら、ブリュンヒルデが大罪探しに疲れていたところを癒してやれただろうか――
「ま、こういう風流の中で過ごす事も忘れちゃいけないわな。あー……ペロ子、もしかして木の上からこの花火見てるかもな」
丁度見つけた村外れの小高い丘には誰の姿もなく、2人きりで過ごすには最適と思われる場所だった。ブリュンヒルデを人間に戻す時はキスが必要だが、いつかは戻す為のキスではなく――
「ペロ子、お前からのキスはいつになってからだろうな。元に戻すとかそんなの関係なく出来るのは……」
少し切ない呟きを残した唯斗の声は花火の音に混じり、いつもと違うキスをいつか想う人に贈りたい――贈って、デレてくれたらもっと嬉しい、と願う唯斗であった。
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