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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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 今は大切な人だけに

 夏祭りにやってきた黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)と、パートナーであり伴侶でもある黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)、竜斗のパートナーで最近結婚したばかりのミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)ハルカ・セレスティア(はるか・せれすてぃあ)が揃い、所謂『ダブルデート』状態だ。
「うん……こういうのも悪くはありませんわ、でも竜斗さんとユリナさんも2人きりのデートをご希望では……?」
「え……? そ、それは……竜斗さん」
 竜斗を頼るようにユリナは彼の服をキュッと摘んだ。その仕草に竜斗はハルカの“2人きり”という単語に反応して、こくこくと首を縦に振る。
「決まりですわね、わたくしはミリーネさんとデートしてまいりますわ。結婚してから初めてのデートなのですもの」
 何となく会話から置いてけぼりを食ってしまったようなミリーネは、とんとん拍子に進む『ダブルデート』から『2人きりデート』に半ばオロオロとしてしまうものの、二手に分かれた竜斗とユリナが別の出店通りへと向かっていくのを見送ってしまった。
「主殿とユリナ殿は行ってしまったが……良かったのだろうか、いや……その、2人きりになれたのは私も嬉しいのだが」
「いいのですわ、だってミリーネさんと2人きりになりたかったのはわたくしもですもの。竜斗さんとユリナさんも、今頃仲良くデートしてますわ」
 ここは夫婦同士、別々に回りましょう! と、ハルカの勢いにミリーネもこくこくと頷いて歩き始めた。
(せっかく、結婚してから初めてのデートだ……ハルカ殿が楽しんでくれるようなデートをしたいが、頑張ろう……!)

 こうして竜斗とユリナ、ミリーネとハルカというカップルに別れてそれぞれ祭りを楽しむことになった。


 ◇   ◇   ◇


 祭りに来た時は混んでいた出店の通りも漸く落ち着き、竜斗とユリナはたこ焼きを食べながら屋台を巡っていた。
「ユリナ、どこで遊びたい? まず射的は外せないだろ、金魚すくいも捨てがたいし……お化け、あ、いや何でもない」
「……大丈夫ですよ? ちょっと怖いけど、竜斗さんと密着でき……っ、あ……いえ」
 はぐれないように腕を組んでいたユリナが言い掛けた言葉に竜斗も優しく微笑んだ。
「じゃ、しっかり俺に捕まってるんだぞ、ユリナ」
 答える代りに嬉しそうに竜斗の腕にギュッと組んだユリナだったが、良く見てみるとユリナの頬にたこ焼きのソースがついてしまっていた。ユリナは恥ずかしがると思うが拭いてやらなくては、と竜斗はハンカチを取り出した。
「ユリナ、ほっぺたにソース付いてる。拭いてやるから動かないでくれよ?」
「ええ……!? や、やだ私……いつ付けたんでしょう」
 案の定、恥ずかしがったユリナの頬を拭って綺麗にすると顔を向けられないのか、ユリナはずっと竜斗の腕にしがみついたままで射的の出店へやってきた。
「よし、ユリナ。良い物頼むぞ!」
「はい、任せて下さい! 竜斗さん、何か欲しい物は……?」
 射的で並べられている景品を見ながら、竜斗は腕組みをしたまま考えてしまった。
(あのぬいぐるみ、ユリナが好きそうだな……いや、プレゼントするなら俺が撃ち落さないと意味がないな、じゃあどうしよう……うーん)
 考えた末に出した竜斗は「ユリナの好きな物で」だった。ユリナとしては、竜斗に良い所を見せて尚且つ彼の欲しい物をという事だったかもしれないが――
「それじゃあ……あのぬいぐるみ、いいですか?」
 ユリナが指差したものは竜斗が予想した通りのものだった。思わず苦笑いを浮かべたが頷いた竜斗に嬉しそうな顔を浮かべたユリナは打って変わって真剣な顔でぬいぐるみへ狙いを定め、見事的のぬいぐるみを射止めた。

 無事にぬいぐるみをゲットし、そのままお化け屋敷へ挑戦した竜斗とユリナだったが、待っている間に屋敷から聞こえる「キャー!」とか「なにこれー! やだやだもう帰るー!」という悲鳴を耳にしながら――
「……ユリナ、やめるなら今の内か……?」
「え、でも……竜斗さん、入りたいんですよね……?」
 結局入ってしまった2人は、上から落ちてくるガイコツやら、ろくろ首に通せんぼをされる等のトラップを何とか乗り越えて出口へ出る事が出来た。暫く、ユリナは竜斗の腕を離さずにガッチリと組み、漸く離したのは花火が始まった頃だった。

 一方――

 ミリーネとハルカは食べ物出店を中心に見て回っていた。
(ハルカ殿が回りたい屋台を中心に……全て任せてしまおうと思ったが、何故殆ど食べ物系をチョイスするのだ? しかも1つずつ?)
「カキ氷に焼きそば……綿あめにフランクフルト、このくらいかしら? ミリーネさん、あのベンチ空いていますし……あそこに座って食べましょう」
「え、でも1つずつしか……」
「ああ……勿論これは、1つを2人で食べる為ですわ。さあ、取られない内に座りましょう」
(ああ、半分こにしたいのか。……そ、それも良いな、うん……少し照れるが)
 ベンチに座った2人はかき氷を食べさせ合いっこしたり、綿あめの両側から一緒に食べたりしながら道行く人を眺めていた。
「ハルカ殿、遊び場ではどこがいいだろう? ハルカ殿が遊びたいところで……」
 焼きそばをハルカに食べさせてもらいながら訊ねるミリーネに、ふと考え込んでしまったハルカは親子連れの子供が持つヨーヨーに目が留まった。
「そうですわね……ここは童心に返ってヨーヨー釣り、なんてどうかしら? ミリーネさん、わたくしのためにお願いしますわ♪」
 ミリーネに断る理由はなかった。

 ヨーヨー釣りの出店へ来ると子供が多く、四苦八苦している子から要領を得て上手く釣る子など一喜一憂している光景が見られた。
「ミリーネさん、頑張って下さいですわ」
「ああ、任せてくれ……では、勝負だ」
 紙糸をねじって強度を上げておいたミリーネは、まず狙うヨーヨーを見定める為に暫く吟味していた。上手く輪ゴムが水面から出ているヨーヨーを選ぶと、紙糸を濡らさないように針金に引っ掛けるとゆっくり引き上げた。
「……釣れた」
 ミリーネが選んだのは虹の模様が描かれたヨーヨー。花妖精であるハルカに似合うのではとミリーネの想いも乗せたものであった。
「綺麗ですわ……ミリーネさん、ありがとうですわ」
 ハルカが顔を綻ばせて喜ぶ姿に、ミリーネも自然と優しい笑顔を向ける。ヨーヨー釣りの出店では、暫し2人の世界を醸し出してしまっていた。


 ◇   ◇   ◇


 程よく時間が過ぎ、夕暮れになると花火の案内アナウンスが響いた。
「ユリナ、大丈夫か? もうすぐ花火だし……歩き疲れただろうから、どこか観えやすいとこに座って観ようか」
 お化け屋敷からずっと竜斗の腕にしがみついていたユリナは、漸く落ち着いてきた。
「そ、そうですね……そういえば、2人きりになれる良い場所があるそうです……行ってみませんか?」
「あ、それ俺も言おうと思ってたぜ。行ってみようか、ユリナ」
 花火会場から少し離れた小高い丘の上には、ベンチや座るのに手頃な岩などが置かれていかにも恋人達が過ごせるような場所のようだった。既に花火は上がり始め、光のシャワーが夜空を彩っている。
「綺麗……竜斗さんと来て、良かったです」
 凭れ掛かったユリナを支えるように抱き寄せた竜斗は、暫く黙って花火を見上げていた。雰囲気的にキスできそうな、そんなタイミングを計っていたがふと花火の音が止んでしまう。
「終りには、早いですよね……? 準備中でしょうか」
「う、うん……多分? なぁ、ユリナ」
 はい? と顔を向けた瞬間に竜斗は触れるだけのキスをユリナの唇に重ねた。ユリナも驚いたものの竜斗から離れる事なく、そっと竜斗の背に両手を回してキュッと抱き締めた。
「……愛してる、ユリナ」
「私もです、竜斗さん……」
 僅かに唇が離れた時、互いに想いを伝え合った。

 同じ頃――

 ミリーネとハルカは、竜斗とユリナが居る場所からそう遠くない所で花火を見る場所と決め込んで上がる花火を見上げていた。しかし、妙に硬くなっているミリーネはハルカの隣で色々と考え込んでいた。
(やはり、夜の花火というシチュエーションだし……ここぞと言うタイミングで抱き寄せた方が良いだろうか? あとは、その……キ、キスとか……こんな事ならば主殿に色々と聞いておけば良かったな……)
 夜空を明るい花火が照らし、ミリーネとハルカが座る場所もその明かりが届いていた。チラリとミリーネの様子を見たハルカは彼女の視線に気づかないミリーネの思考を正確に思い当てていた。
(ミリーネさんの事ですし、キスのタイミングとか色々考えて……いえ、悩んでいると言った方がいいかしら? やっぱりここは、わたくしから不意打ちでキスしちゃうのもいいかしら……ふふ、キスしちゃいましょう♪)
 一際大きな花火の大輪に目を奪われた2人は一緒に感嘆の声を上げた。
「すごいな、今の……こんなに大きな花火、初めて見た」
「わたくしもですわ……すごいですわね、ミリーネさん……」
 いいタイミングで見つめ合った2人は、一瞬目が合うとハルカが不意打ちでミリーネにキスした。
「……!? ハ、ハルカさんっ……」
「ふふ、成功ですわ。きゃ……っ」
 悪戯が成功したような表情を浮かべるハルカをミリーネが強く抱き締めた。
「……順番が逆になってしまったが、ハルカさんをこうして抱き寄せようと思っていた」
「ミリーネさん……どちらかと言うと、これは『抱き締める』だと思いますわ……」
 ハルカのツッコミに、後に引けなくなったミリーネはそのまま固まってしまったが、花火を背景にお互いの温もりを感じながらもう一度――優しいキスをかわすのでした。