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リアクション
いつまでも新婚気分で
夏祭りが行われるというイルミンスールの近郊の村に着いた高円寺 海(こうえんじ・かい)と高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)はごった返す人混みに一度出店通りを押し出されてしまった。
「思った以上に人の出入りが凄いな、せっかく柚との新婚デート……なのにな」
海は自分で『新婚デート』と言ってから顔に熱が集まるのを感じたのか、柚から目を逸らしつつ、彼女の手はしっかり握って出店の通りから少し離れた広場の方へと向かった。柚も海の様子に気付いたか気付いてないか――ツッコミせずに海に付いて広場に行くと遊び場としてお化け屋敷や金魚すくいなどが並んでいた。
「柚、先にこっちで遊んでから向こうの出店行かないか? 今ならお化け屋敷も混んでなさそうだ」
「……うん、そうだね。でも、さっきから悲鳴が聞こえるけれど……」
お化け屋敷の前で入場を待つ海と柚の耳には、先程から「いやー!」とか「もう帰るー!」「おかーさーん!」と若い女の子や子供の悲鳴が上がっているのだ。
「いや、夏祭りのお化け屋敷だし、そう怖い事はないと思うけどな……怖かったら、オレに捕まってろ。大丈夫だから」
お化け屋敷のスタッフが2人に声をかけ、暗い屋敷の中へ足を踏み入れた。
お決まりの作り物お化けから、笹の葉が生い茂る通路からいきなりゾンビのようなペイントをした手が柚に迫ったりと、その度に悲鳴を上げて柚は海に抱き付いた。
「海くん、ここ……夏祭りのお化け屋敷、よね?」
「……そうだと思いたいけどな、って、何だ!? 誰か足を掴んで……っ」
柚の前、と思うと海は必死で声を上げるのを抑えた。ライトを顔の下から照らした、これまたゾンビメイクのお化け役がニヤニヤと海の足を掴んでいたのである。
「か……海くん、どうしたの?」
不安そうな柚の手をしっかり握り、海は足を掴まれたまま振り切るように速足でその場を通り抜けた。どうやら柚には手を出さなかったようである。その後は流石に慎重に進んだ海と柚も、漸く見えてきた出口にホッと肩の力を抜いた瞬間――
「三途の川はこっちだよ〜……」
出口ならぬ三途の川へ誘い込もうとする幽霊達の一団が2人を取り囲んだが、それでも一応(?)脱出口が作られた隙から出口へ駆け抜けた。明るい夏祭り会場に出ると、2人はぐったりとベンチに座り込んでしまっていた。
「ねえ……海くん、パラミタに三途の川ってあるのかな?」
「さ、さあ……というか、懲りすぎ……あのお化け屋敷」
暫く、2人はお互いしっかりと手を握り合ったままだった。
流石に空腹感があった海と柚は、落ち着き始めた出店通りへ足を運んだ。
「やっと歩けるな、柚は何が食べたい?」
「ん、そうね……焼きそばでしょ、たこ焼きでしょ、フライドポテト……」
腹を壊すぞ、と言いたげな海に柚は上目遣いでお願いした。
「海くんと半分こして食べたいなって思ったの」
可愛い妻のお願いに、海はあっさり折れたのでした。
たこ焼きやフライドポテトをお互いに食べさせ合いっこしてみたものの、海は照れ臭いのか、柚から食べさせてもらう事に最後まで抵抗していた。それも柚の最強技『お願い』攻撃で、耳まで赤くしながら柚から食べさせてもらう海だった。それでも、始終幸せそうな表情で食べる柚の姿が見られたのは海にとっても幸せな時間だったのです。
◇ ◇ ◇
夕暮れになると、花火のお知らせアナウンスが祭り会場に響いた。出店から見る人、花火会場へ足を運んで鑑賞する人、後はとっておきの場所へ移動するなど様々な中で、海と柚は買い食いした出店の人に聞いたり、祭り会場の周りを探してみたりと花火が上がる前に漸く落ち着き先を決めた。
「良い場所見つかって良かったね、海くん。誰もいないから本当に2人きり……」
「ああ、教えてくれた焼きそば屋のオジサンに感謝しないとな……柚、もう少しこっちに」
さりげなく抱き寄せた海に凭れ掛かった柚は、そのまま海の肩に頭を預けるように甘えてみた。既に上がり始めた花火は2人の前で大輪の花を咲かせている。
「あ! 海くん、今ハート型が」
「ああ、随分凝ってるな……柚、今度は星型だぞ」
大輪、ハート、星と続いた花火に興奮してしまうと子供のようにはしゃいで見上げていた。
ドキドキが止まらないのは、花火のせいなのか、抱き寄せる海の温もりのせいなのか――
「……柚」
「ん? 海くん、どうしたの……?」
顔を上げた柚を見つめる海ともろに目が合ってしまった柚は、自然と顔を赤らめた。
「……ほら、オレ達結婚したんだしさ。なんていうか……海って呼んでもいいんじゃないか?」
「……あ」
言われて柚も気が付いたが、いざ呼ぼうとすると中々出来なかった。しかし、意を決して柚が海の名を呼ぶと柔らかく微笑む海に柚は目が離せなくなる。
「意地悪言って悪かった、ありがとな……柚」
最後の花火が上がった瞬間、海は柚に唇を重ねた。
花火を背景に1つになったシルエットが浮かび上がり、一際大きな花火が散るまで2人は幸せなキスをかわすのでした。
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