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爆弾魔と博士と恐怖のゲーム

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第4章 佐々木 夕

「今頃動き始めたところで無駄だよ、ペーパ博士」
 モニターが壁中に張り巡られた一室で、監視映像を見ながらその女はつぶやいた。
 佐々木 夕、彼女はゲームのフィナーレを飾るべく最後の処理をすませていた。
 最終兵器を作ることが出来たのは、平助に拾われ、その部下としてペーパの研究所へ入ることが出来たからこそ。
 そんな出来レースのような事の運びように、自分自身笑いが堪えられない。

「動くなっ!!」
 突然、大きな轟音と共に部屋の扉は開かれた。
 同時に映し出されていたモニターの電源が真っ黒になる。
 夕は、さっと体を捻らせモニターから離れると、そこにダリルが現れた。
「電子に変換して入り込んできたか」
「警察よ、神妙に縛につけ!」
 ルカルカを始めとし、平助達がずらりと部屋へと入ってくる。
 逃げ道を塞がれ完全に囲まれた夕だが、その表情は未だ余裕が見て取れる。
「くくくっ、感謝するぞ平助刑事」
「何がだ」
「あなたの部下になったから、こうやってプランを実行することができた。復讐の……な」
「復讐……だと?」
 夕は1つの小さな箱を取り出した。
 ルカルカたちは目配りし、一斉に襲いかかろうと姿勢を取る。

「まあ、落ち着けよ。これは危険な物じゃない、言うなら『世界中の人々から企み、陰謀を消し去る道具』さ」
 笑みを浮かべて箱をくるくると回す夕。
 ルカルカは小さくダリルに「あれを調べれる?」と耳打ちする。
 だが、ダリルは首を小さく横に振る。
「……あれを直接回収するしかないな」

 何か難しい顔で考え込むルカルカをサポートしようと、淵は質問を投げかける。
「しかし佐々木殿。何故かようなテロ行為に走ったのだ?」
「時間はあるんだ、話をしてやろう。おい刑事さん、数年前マッドサイエンティストが危惧された事件しってるか?」
「?」
「知らないか、知らないだろうな。そんなものさ空京の人達なんてさ」
 夕はまるで、自分が悲劇の主人公とでも言うような、哀愁のある笑いをはき出す。

「昔、優秀な発明家の卵が居ました」
 夕はうすら笑みを浮かべ、話を続ける。
「優秀な発明家の卵は、『人の心を操作し、人の心へ平和を作り出す』発明品を作り出しました。
さあ、これで世界中は平和になる……はずでした。そう発明家は確信しました。でも、平和にはなりませんでした。
なぜなら、それを望んでない人達がたくさん居たのです。
どうしたことか、発明家の卵は空京中の人達に『マッドサイエンティスト』だと蔑まれ、
2度と発明家として表には立てなくなってしまいました。おわり」
 夕は「くくっ」、と笑った。
「傑作を作った結果、人として扱われなくなる。これこそ、傑作だね。
わかるかい、同じ人間に”汚い”、”近づくな”と言われる心が」

「だからって……復讐は何も生み出さない!!」
 ルカルカは腕を上げ、合図を送った。
 カルキノスと淵、ダリルは一斉に走り出す。
 ルカルカが”超加速”を淵とカルキノス、ダリルにかけていたため、一瞬だった。
「大人しくしろや。ああっ?」 
「わ、わかった、大人しくする!!!」
 カルキノスが”業魔の咆哮”をあげ、夕の動きを止める。
 夕はあっという間に押さえつけられてしまった。

「なーんてね」
 刹那のことだった、カルキノスの目の前から夕が光となって消える。
 夕はルカルカの目の前に居た。そのまま夕はルカルカへと殴りかかる。
 突然の事に受け身が間に合わず、後ろへ吹き飛ぶルカルカ。
 一瞬の出来事に、ルカルカ達は何が起きたのか理解は出来なかった。

 平助は素早く夕へと銃を向ける。
「てめぇ……今、何をやった」
「銃がふるえていますよ、警部」

 かつて部下だったはずの佐々木は、笑みを浮かべたまま平助を見る。
 だが、その表情は冷たい笑みであり、思わず平助は寒気を覚えるほどだった。

 ダリルはようやく、今まで見ていた夕の姿が高度な”機晶技術”によるホログラムだったのだと気がついた。
「失念していた、今は空京全域がこいつのおもうがままか」
 舌打ちするダリルに、夕は笑った。
「そうだね、今の空京は俺の発明品がフル展開されてる。つまり、こんなことだって簡単なんだよ」
 夕は手を前に差し出す。
 すると、次々と名状しがたい者達が地面からにじみ上がる。
 平助は名状しがたい者に向けて銃を発射するが、弾は大きく逸れた。

「さて、君たちはそこで見てるといい。『世界中の人が俺に操られる様』をね」
「それがゲームの裏に隠された目的か……なぜわざわざ爆弾なんて仕掛けやがった?」
「恥ずかしい話だけど、この発明品は発動するためには対象者全員が恐怖心を抱いてないといけないんだ」
 夕はそれ以上喋らずに、四角い箱を操作する。
 間も無くしてピポッという音と共に四角い箱が光り始める。

「はっはっは!! これで世界は俺の物だ! ペーパを出し抜いてやったぞ!!」
 四角い箱は夕の手元から離れ、くるくると回りながら宙を回る。

「くっ、あれをはやく止めるのよ!!」
「分かってんだが――くっ、邪魔するな!!」
 カルキノス達は四角い箱へと近寄ろうとするが、名状しがたい者達がそれを邪魔する。
 四角い箱はどんどん回る速度を上げていく。
「世界はペーパではない俺の物だ!!」