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リアクション
★未来へ向かう?04★
「あそこにある青年像。素晴らしい肉体美ではないか?」
変熊 仮面(へんくま・かめん)(ちゃんとロイヤルガードの制服を身につけている。ほんとだ。嘘ではない。2回目)の示す先にあったのは全裸の青年の像だった。
「はわっ」
自然と指先を追ってしまったセレスティアーナは、顔を赤くして意味不明な梅木……ならぬ呻きを漏らした。
直視するのが辛いのだろう。
しかし
「おおおっこれはすばらしい。バランスのとれた肉体。このポーズも良いですね」
まず最初にイキモが褒めた。同意するように息子のジヴォートも頷く。
「無駄のない身体って感じだな。それを忠実に表現か……モデルでもいたのかな? えーっと製作者はヘンリー・クマダ?」
「聞いた事無い名前だな。ジヴォートは知っているか?」
「いや、しらねーな……ってか、これ何でできてるんだ? 大理石っぽい加工してるけど、なんか違う気がする」
感心している2人を横目にし、セレスティアーナはそうだ、これは芸術なのだと顔を上げた。
そうして違う目で見てみると、たしかに素晴らしいもの……に見えてきた。
聞こえてくる賞賛の声に、変熊はふふふふふと笑った。じつはこの青年像。彼の作品であり、彼自身を3Dプリントしたものなのだ。
ちなみにヘンリー・クマダは本名だ。
「……んー?」
にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)はそんな師匠を横目に、じーっと青年の像を見つめた。
いや、正確には青年の像の一部――アソコである。
にゃんくまは青年像が変熊だと知っている。その上でじーっと。それはじぃーっと見ている。にゃんくまは首をかしげた。
(若干、本物より比率が大きい気がするにゃ)
そう思ったにゃんくまは前足を伸ばし、
ボキッ
へし折った。何をか? ナニをだ。
「大理石じゃないんだ。3Dプリンタって言ってたしね」
納得してから、セレスティアーナにはいっとそれを渡した。
「ボク、今ぐらいの大きさの方が本物に近いと思うんだけど、セレスティアーナ様はどう思います?」
ぽてんと手の上に乗ったソレ。セレスティアーナは一瞬といわず数秒。ソレがナニか分からなかった。だが、ソレがナニであるか分かった時。彼女の頭の中が真っ白になった。
いくら芸術だと思っているとはいえ、さすがに彼女の中の何かに限界が来た。
「わっわあああああああああああああああああっ」
大声と共に、ソレは宙を舞った。
「ああっ! 師匠のお×××がー!」
セレスティアーナの全身全霊が込められた一振りにより、ものすごい勢いでソレは飛んでいった。
話は、ソレが飛んで行った方向にいる人物達へと変わる。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
白衣に眼鏡。そして高笑い。そう。ドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
ハデスがビシィッと指差したのは、
「ハーリーよ! この会場の各所には爆弾を仕掛けてある!
人質を無事に解放し、爆弾も爆発させられたくなければ、この展示場を寄越すのだ!
正直、テント生活は腰が痛くなってキツイのだ!」
ハーリーは爆弾の言葉にちらと目で部下達に合図をしてから、ハデスの注意を引くために口を開き
「ぬあっ」
そこに何かが飛んできた。見事なぐらい、綺麗にハデスの頭部に向かって飛んできたソレは、防弾眼鏡ではじかれて壁に当たり、なんと砕け散ってしまった。
眼鏡が防弾でなければ危なかったかもしれない。
それを見たにゃんくまの台詞が
「ああっ! 師匠のお×××がー!」
であった。
「ぐっ。狙撃するとは……ならば、強引にこの展示場をいただくまで!
さあ行け、我が部下達よ!」
ハデスの眼鏡が黒く染まっていく。
「はぁっ? ちょ、待て」
ハーリーが慌ててとめようとするが、もう騒ぎになってしまっていた。ジヴォートがその騒ぎを覗き込み、あっと嬉しげに声を上げた。
「ヒーローショーやってるのか。セレモニーの日に呼ばれるなんてさすがだな」
懐かしいな、と思い返しながら言うジヴォートに、セレスティアーナもそうなのかと納得する。
その状況をこれだ、と思った女性がいた。
『ちょ、ちょっと、兄さんっ! なに占領宣言してるんですかっ!』
慌てて兄を止めようとしていたできる(料理については触れない)妹、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は頭を抱えていた。どうしようかと思っていた彼女だが
(けど、このままじゃ、会場が混乱してしまいますね。
ここは、観客の皆さんにヒーローショーだと思ってもらわないと……!)
「ああっ、突然現れた謎の悪の秘密結社! 誰か、この会場にヒーローの方はいらっしゃいませんでしょうかっ!」
司会のお姉さんとなることにした。
「おおおおっ私がヒーローか」
「よーし、じゃあ俺は悪役するか。勝負だぜ、セレスティアーナ」
「負けんぞー」
ふぉおおおっと突っ走っていった2人を、保護者達は
「あらあら。楽しそうですわね……ふふふ。では私も悪役というのをさせていただこうかしら」
「は? 何お前までおかしなことを」
「ラン様とドブーツ様はセレス様をよろしくお願いいたしますわね。では今から私達は敵同士ということで」
にこやかに参戦する保護者に、呆れる保護者に分かれた。
「僭越ながら、お手伝いさせていただきますわ」
「キーッ!」
「ム? おお、ジヴォートと……誰かしらんが、よし! いくといい!」
あっさりと受け入れるハデスに、慌てたのは咲耶だった。
「アルテミスちゃん、頼みましたよ」
「お任せください。
そこまでです、悪の秘密結社オリュンポス! あなたたちの悪事は、この正義の騎士アルテミスが許しません!」
「うむ。許さんぞ」
名乗りを上げた騎士、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)……とおまけのセレスティアーナ。
アルテミスがりりしい顔でハデスを見る。もう彼女は自身の正義を疑っていない。しっかりと地を踏みしめ、オリュンポスと対峙した。
襲い掛かってきた下っ端をその剣で叩き伏せる。
「戦闘員ごとき、何人居ても同じです! まとめて相手にしてあげますっ!」
「ふっ来たか。だがこれはどうだ? ペルセポネ!」
「了解しました、ハデス先生! この会場を占拠します!
機晶変身っ!」
名を呼ばれて作品の影から飛び出てきたのはペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)だ。
(ちょ、ちょっと緊張しますけど、アルテミスお姉ちゃんたちもいますし、大丈夫、なはずです)
「アルテミスお姉ちゃんがヒーロー役ですね! リミッター解除!」
正義の鉄槌を下そうとしていたアルテミスは、その出現に驚きの声を上げた。
「オリュンポスの悪の改造人間ペルセポネがお相手します!」
「ペ、ペルセポネちゃんっ?! ヒーローって……くっ」
アルテミスが来たなら本気で行くように、というハデスの指示の元、ヒーローショーだと信じているペルセポネの全力の一撃が、隙を作ってしまったアルテミスの横腹に突き刺さる。
寸前で外套箇所の皮膚を硬化させたものの、その衝撃や熱までは防げない。
膝を着いたアルテミスを見たペルセポネは、そのまま追撃を加え、アルテミスの手から剣を遠くへとはじく。
「か、身体が動かない……来ないでっ!」
身動きとれず、剣も手放してしまったヒーローアルテミス。セレスティアーナは偉そうに胸を張ったままだが、特に誰も気にしていない。
「だれかー、他に、ヒーローの方はおられませんかー?」
焦ったのは咲耶もである。このままだと、本当に大変なことになる。
周囲に誰かいないかという呼びかけに、1人の男が反応した。
「ふっふっふ……呼んだか? 俺様という英雄のことを!」
バサァッと音と同時に服が脱ぎ捨てられる。仮面も取り払われた状態の彼の姿は、そう。あの青年像だ。
「この作品を見たとき、君は、君たちはきっとと言葉では言い表せない『ときめき』みたいなものを感じたはずだ……なぜなら、そう。君たちのはずっと、心の英雄(ヒーロー)である俺様を求めていたからだ」
服を脱いだ状態。それはもう見事なぐらい何も身につけていない変熊が、青年像とおなじポーズをとり、ペルセポネを指差した。
「さあ、そのときめきを胸に、俺様の前に立ちはだかったことを後悔するとい」
鍛えられた身体を惜しむことなくさらしながら、一歩を踏み出した変熊だったが、
「きゃーーー! ヘンタイよー!」
叫び声にかき消される。
一体誰が叫んだのかは分からないが、周囲にはショーを見るために子供連れが増えてきたのでその母親だろう。
「なんて猥褻な作品なの」
「指差している方角がよくわからん」
「やっぱり全裸は問題だろう」
「ねーねー、なんであのお兄ちゃん裸なの? 寒くないの?」
「しっ、見ちゃいけません」
「んー……ちっちゃくない?」
等々、彼と彼の作品についての非難が飛び交う。
「さあ、どうした? ふっ俺様の美しさに見惚れているのだな。……ん? なぜ作品を動かしているのだ? 何? ちょっと来て欲しい? なるほど、サインが欲しいんだな。いいだろう」
こうして青年像があったところには諸事情により展示不可という看板がかけられ、公然猥褻の罪で作成者は当局へと連れて行かれ、作品は作成者の元へ送り返された。
「師匠、薔薇学の寮にはこんなの置く場所無いにゃ」
「うむ。返却は無用だ!」
が、拒否され、右翼曲折を経て、青年像は全暗街のとある広場の噴水に用いられることになったとかならないとか。
どの部分がどのようにして噴水となるかについては、ご想像にお任せする。探しに行くか行かないかもお任せする。
その流れを見なかったことにし、ショーは再開……と、うまくはいかなかった。
突如展示されていた一つの水槽が割れる。
噴出した自ら出てきたのは、巨大なアワビだった。
「???」
現状を理解できるものは誰もいない。当然だ。それはマネキの展示品であるアワビであり、本来なら普通のもののはずだった。
だが
『さて、養殖場は、確保した……花火大会では、大量のアワビを売りさばいてくれる! そしてそのためには我が愛しきアワビの為に常に水の循環は行わねばならないな……そういえば先日見つかった泉があったな』
そうして循環させる水に、洞窟の水を使うことにした。浄化装置からパイプを引っ張りここまで繋ぐ労力はすごい。
とまあ、最初は上手く行っていたのだが……ここで一つ問題があった。それは簡単なこと。浄化装置は完全ではなかった。
試作段階なのだ。
完全に浄化できぬままにアワビの水槽へと送り続けられた水。それがアワビを巨大化させたのだった。
どうやらこの水には、細胞を活性化させる効能があるらしい。
ちなみにハーリーはこのあと、マネキへと水槽や展示場の損害を請求した上で、
『お前のおかげで水の効能が分かった。助かった』
という嫌味を大目に含んだ手紙を送った。
ハーリーが元々マネキの企みに気づいたうえで放置していたかは不明だが、そうとも取れる記述に、マネキが怒りの声を上げたのは想像に難くない。
『小商人がー!』
『今回は俺の勝ちだな』
そんな声を両者が上げていたかはさておき、その喧嘩? に巻き込まれるセリスとしては見てみぬフリをするしかない。
話を戻そう。
割れた水槽から飛び散った水。そのうち微量がアルテミスへとかかり、なんと彼女の身体を癒したのである!
「これなら……オリュンポスの好きにはさせません」
立ち上がるアルテミス。皮膚の焼けた痛みに彼女の眉間に皺がよるも、痛みを感じたのは一瞬。
泉の水も、用量を間違えなければ良い効果をもたらすようだ。
「さすがアルテミスおねえちゃんです。でもこれで終わりです」
ペルセポネがビームソードを構えて、再び駆け出す。振り上げられた剣が振り下ろされようとした時、
時計の秒針が12を刺した。
パキンっと何かが外れる音。ばらばらと崩れていく音。
「へっ?」
それは――ペルセポネの装備限界が来た音。はがれて行く武装に、彼女は一瞬あっけにとられ
「へっ? きゃあああっ!」
悲鳴を上げながら装備を押さえようとするが、効果はあまりない。今回の読者サービスである。
ありがとうございます!!!
「くっやりますわね! 素手で彼女の装備を破壊するとは」
しかしながらライラがペルセポネの姿を隠すように立ち塞がり、ジヴォートが上着をそっとかける。
「放送事故はさけねーとな……まあ、さっきの変熊ですでにアウトな気もするけど」
ぽつりと呟くジヴォートは、番組制作会社の社長であることを改めて書いておこう。くそぅ。
「さすが私たちのヒーロー、アルテミス! さあ、みんなも応援を」
咲耶が声をかけて、観客達の声援が送られ、アルテミスが床を蹴る。そして瞬時に剣を手にし、ハデスへと振り下ろした。ハデスは魔剣で受け止めるも、苦しげな顔をして後ろへと下がる。
「くっ。仕方ない。今回は譲ってやろう! 覚えておくがいい!」
こうして無事にショー? は終わりを告げた。
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