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リアクション
気付いた想い
時間を越え、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は緑広がる森が間近に見える丘の上に居た。
「え……ここが未来? というか、どこだろう?」
「りゅーき、ここ教導団ではありません……もしかしたら、何年か後には国軍を退いているのかもしれないです?」
少し様子を見ようと瑠樹とマティエは丘の上から平原に広がる村を暫く見下ろしていた。その中で見覚えのあるシルエットが森の街道を歩いている姿を見掛け、瑠樹が身を乗り出してその姿を確かめようとする。
「あ、あれ……オレじゃないかねぇ? くせ毛が結構派手だけど」
「ええ……背格好は、りゅーきに良く似てると思います。心なしか、今より何だか逞しいですね」
2人顔を見合わせ、気付かれないように後を付いていった。
大きな荷物を肩に担いだその人物は、村の入口に程近い家に向かっていた。家に近付くと、いつの間にか彼の足元にはいつの間にか小さな猫ゆる族がぞろぞろと纏わりついている。
「「「「おかえり、おとーさーん!」」」」
――おとーさん!?
瑠樹とマティエは目を丸くしながら物陰に隠れつつも、その光景から目が離せなかった。金色と銀色の子猫ゆる族、赤、青、緑の少し小さいちび子猫ゆる族、他にも沢山のゆる族の子供達が駆け寄って足に纏わりついたり、手にぶら下がったりと一緒に家路についた。
「……どの子も可愛いけど、あれ全部オレの子供?」
「いえ、私に訊かれても……あ、あれっ!」
マティエが指差した方を見ると、子供達の後に家から顔を出して「おかえり」と声を掛けているのはマティエの家族であった。
「お父様、お母様! おじ様も……お元気そうで、って……あら? なぜ彼らが未来のりゅーきと一緒に……」
マティエの疑問はすぐ確信に変わった。今より少し大人びたエプロン姿の白猫ゆる族がマティエの両親とおじの後から顔を出して瑠樹と子猫達を出迎えている。
「あれ……マティエだよねぇ」
答えないマティエの代わりに、瑠樹の声は限りなく優しく響いた。そういえば、未来は願望が強く影響するとあの魔道書達は言っていた事を思い出し、瑠樹の胸に1つの想いが形になった。その自覚をするのはもう少しこの未来の様子を見届けた後になる。
家族が多いためか、天気が良いからか、食事は庭に設置された大きなテーブルで食べるようだった。2人は高い垣根で姿を隠し、覗き見聞き耳してしまうが未来の自分達は気付く様子は見られない。
「りゅーき、来週ここへ来るゆる族の子供達は何人です?」
「んー、確か3人のはずかなぁ。男の子2人と女の子1人の兄妹だって話だよ、今年は家も増築しないとねぇ」
話の内容から、どうやら養子として引き取って育てていると見られた。という事は、ゆる族の子猫達はみんな養子? と思ったがそうではないらしい。最初に未来の瑠樹に飛びついた金色と銀色の子猫、次いで纏わりついた赤、青、緑のちび子猫達はどうやら自分達の実子のようだった。
「おとーさん、ぼくたちもおとうとといもうとがほしいよ」
未来の瑠樹とマティエに強請る赤、青、緑のちび子猫達がそれぞれ袖を引っ張ってほしいほしいと繰り返す。そんな光景をマティエの両親やおじのゆる族は目を細めて眺めていた。覗き見ながら瑠樹は隣のマティエへそっと視線を移すと、懐かしそうに両親やおじの様子を見ている姿にふと思う事があった。
(そういえば、契約してからずっとシャンバラにいるからなぁ)
マティエの両親――父は英国紳士風の風貌、母は銀色長毛猫で彼女のおじに当たるゆる族の猫は青いマフラーをつけた、足の速そうな猫であった。故郷への思慕が強くなったのか――不意にマティエは瑠樹の腕に肉球を押し付ける。
「そろそろ、現代に還りましょう……りゅーき」
マティエの言葉に、未来の自分達をもう一度見遣った瑠樹は魔道書達が待つ丘の上に戻り、現代へと帰還した。
◇ ◇ ◇
見てきた未来は、小さな子猫達とマティエの両親と共に暮らしていた。何よりマティエが瑠樹を支え続けていた事に、漸くマティエへの気持ちの正体を知った。
「あー……そっか。オレの願望って、そういう事かぁ……」
「りゅーき……?」
瑠樹の小さな呟きは、次の行動へ移る為に必要な言葉で――
「マティエ……今まで、ありがとう。そして……」
マティエを正面から見つめ、ゆるい気質はそのままではあるがそれだけに彼女に向けられる真剣な眼差しは瑠樹の本気を物語っていた。それを感じてか、マティエも口を挟めずに言葉を待っていると――!
「……結婚を前提に、お付き合いして下さいっ!」
突然の告白であった。
一瞬、頭の中が真っ白になったマティエだったが、すぐに顔を真っ赤にして大慌てする。
「な、こ……ここで告白って……り、りゅーきのばかああぁ! ここ、教導団の敷地内ですよー!? し、しかも……双子の魔道書さん達がっ」
瑠樹の一大告白に、イーシャンは居心地悪そうに頬を掻いて明後日の方を向き、シルヴァニーは「ひゅーひゅー」と大いにからかってきた。
怒るマティエだが、その怒りは照れ隠しで彼女もまた、瑠樹への恋心を自覚し始めていた。
あの未来が本当に訪れるようにする為に、いつか――瑠樹の気持ちに応えるマティエの姿を見る事が叶う日も、そう遠い事ではないのかもしれないのでした。
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