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空京神社へ



『にゃにゃっにぎゃあぁぁぁぁぁー!!』
 バタバタぎゅいんぎゅいんと空京神社の参道をドリフトして登ってきたネコトラが、広い社殿内にある結婚式場の玄関前に堂々と止まりました。
『ぎにゃあーぉ!』
 ネコトラが一声高く鳴くと、ドアが開いて一人の女性がタラップを下りてきました。
 さっきまでかけていたゴーグルをバッと外してネコトラの中に放り捨てると、着ていた豪奢な十二単の裾を勢いよく翻して式場へとむかいます。
 彼女こそ、立川 るる(たちかわ・るる)です。
 今まで一年近く表舞台から姿を消していましたが、その間は有名な服屋のカリスマ店長をやっていたとか、動物しか住んでいない村の村長をしていたとか、少人数のチームでモンスターを狩る仕事をしていたとか、女性だけの艦隊の提督として活躍していたとか、イコンに乗ってコロニー独立戦争に参加していたとか、コーヒーが苦い街で傭兵をしていたとかいろいろと噂がありますが、定かではありません。
 ふと駐車場に目をやると、見慣れた自転車がおいてありました。御人 良雄(おひと・よしお)の自転車に相違ありません。
 立川るるがいない間に、彼女の彼氏であった御人良雄にもいろいろとあったようです。エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)をパートナーに迎え、剣の花嫁である彼女が立川るるとそっくりな顔に変化した後、なぜかアスコルド皇帝と同化し、エリュシオン帝国のトップに立ったのでした。それも束の間、融合が解けて、今ではただの人、プータローです。
 パートナーのエメネア・ゴアドーは、一時期、皇帝のパートナーということでぶいぶい言わせてユグドラシル内のスーパーを買い物で席巻していましたが、御人良雄がただの一般人となってしまったため、あっけなく権力を失ってしまいました。
 けれども、吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)が製造者、すなわち父も同然と分かってからは、ゲルバッキーのカードを使い放題、再び買い物三昧の日々に戻っていたのですが、ゲルバッキーが全財産を失い、惚けてほとんどただの犬になってしまったため、あっけなく財力をも失ってしまいました。
 おまけに、エメネア・ゴアドーはしょっちゅう洗脳などを受けていたため、ちょっと現状認識能力が衰えていたときに、坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)にプロポーズされ、よく分からないうちに結婚が決まっていました。けれども、決まったものと思い込んだとたんの行動は早いものでした。あっという間に坂下鹿次郎の資金で今日の結婚式の手配をしてしまったのです。
 ある意味とんでもない経過なのですが、思いの叶った坂下鹿次郎としては結果オーライで、すでにラブラブです。
 いったい御人良雄は何をしていたのかというと、何もしていませんでしたので、ほとんど自業自得です。ほったらかしにされていた立川るるとエメネア・ゴアドーこそいい迷惑なのでした。
「はい、御祝儀です」
 受付で芳名帳の一ページまるまるを使って大胆にでっかく名前を書くと、立川るるが、受付係をさせられていた山中 鹿之助(やまなか・しかのすけ)に御祝儀袋を渡しました。
 まあ、今までのつきあいもありますから三万円、プラス、おまけだ一万足してやる、ということで四万円です。きっちり割りきれる数ですが、あまり気にしません。適当に別れたとしても、他人の人生、それはそれ、これはこれです。
 立川るるが披露宴会場に姿を消すと、順番を待っていた橘 カナ(たちばな・かな)が次に記帳しました。
 新郎側の友人ということで招待状が来たときに、つい物珍しくて参加の方に丸をして出してしまったのです。まだ結婚式というのを見たことがなかったので、物珍しいということもありました。というわけで、参加となりました。
 招待状には、「必ず巫女装束で参加してほしいでござる」と坂下鹿次郎の但し書きがありましたが、なんとなく罠臭いのでスルーです。学生は制服が礼服というわけで、蒼空学園の制服で参加です。
 異様にだだっ広い披露宴会場に入ると、新郎新婦以外の招待客は、そのほとんどがすでに着席していました。肝心の二人の到着が、少し遅れているようです。司会からは、到着するまで料理を食べつつ御歓談くださいとアナウンスがあります。
 立川るるはエメネア・ゴアドー側の招待客ということで来ていますが、上座に父親ということで吉井ゲルバッキーが、隣に飼い主として吉井真理子が座っています。その隣が、パートナーということで御人良雄。そして友人ということで立川るるでした。新婦のエメネア・ゴアドー側の招待客はこれで全部です。親戚やらパートナーやら友人やら昆虫やらで賑わっている新郎の坂下鹿次郎側の招待客と比べて、明らかに見劣りしています。
「エメネアちゃん、交友関係少なすぎるんじゃ……。あ、良雄君もいたんだ」
 しっかり元はとろうと料理をパクつきながら、立川るるが、今さらながらに気づいたふうを装って、御人良雄に声をかけました。一応社交辞令です。
「良雄くん、久しぶりー」
「久しぶりッスね、るるさん」
 本当に久しぶりだというのに、御人良雄はいつも通りです。いろいろと気にならないのでしょうか。
「エメネアちゃん、突然だよね。相手は蒼大生かー。やっぱり空大生とは雰囲気違う感じなのかなあ。そいえば良雄くんは大学どこ行ってるの? 空大に邪神枠で合格したって聞いたけど、キャンパスでは会わないよね」
「あはははは、そういえばそうッスねー。るるさん、いつもどこにいるんッスかあ」
 まるで他人事のように、御人良雄が言いました。
「これだから……」
 陰で、立川るるは深い深い溜め息をつきました。いったい、今まで何をしていたのでしょうか。
「いやあ、ちょっとポムクルさんにさらわれて、新たな『機動神殿群イーダフェルト二号』にされそうになっていたッス。ほんっと、危ういところだったッス。けど、無事に逃げられたッスよ」
 そう言う良雄の頭には大砲が生えています。いったい、どこが無事だったというのでしょうか。
「で、それはなあに?」
「えっ、ああ、何かついてるッス? あっ、でも、格好いいから、問題なしっす。なんだが、ゲームキャラっぽくて、格好いいと思いませんか、るるさん?」
「全然……」
 立川るるが即答しました。そのうち、シャンバラ宮殿のてっぺんのオブジェにでもなりそうです。まあ、それもいいかもしれませんが、上から見下ろされるのは、ちょっとむかつきます。
「大学はちゃんと行ってたッスけど、いつの間にか苗字が『飯田』にされていたんッスよ。ポムクルさんって、お茶目っすよねえ、るるさん。なんで、『飯田良雄』になってたんで、誰にも気づかれなかったんッス。いやあ、役所に変更を届けたりとか、元に戻すのに時間がかかって、大変だったッスよ。でも、昨日、やっと元に戻ったッス」
 なんでもなかったように話す御人良雄ですが、それで、よく招待状が届いたものです。