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秘密のお屋敷とパズリストの終焉

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秘密のお屋敷とパズリストの終焉

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【屋敷西】

「この部屋はまだ調べて居ないようですわね」
 二階を捜索していたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が手を掛けたのは、屋敷西側にあるパトリックの私室だった。
 既に他の部屋は扉が開いていたり、人の姿があったりと探索が行われている気配があるが、この部屋は扉が閉まったまま。
「何でだろ」
 アデリーヌと手を繋いでいる綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が首を傾げた。
 が、とにかく調べてみないことには始まらない。アデリーヌがコンコンと扉をノックすると、まって、とドアの中から声がする。それから暫くがさごそする音がして――扉が開いた。中からパトリックが顔を出す。
「す、すみません。ここはおれ、いや、僕の私室なもので――」
 はは、と慌てた顔で苦笑いするパトリックに、二人は顔を見合わせる。なるほど、それで他の人達も調べていなかったのか。
「散らかり放題だったから、さすがにお客様にいきなり見られるのは……ね。はは……」
「それはそうだね。で、中に何か怪しいものはあった?」
「いや、ざっと片付けをした範囲だけど、特に変なものはありませんでしたよ」
 とりあえず、絶対見られたら困るもの諸々はしっかりまとめて封印することに成功したパトリックは、少しばかり余裕を取り戻している。良ければ探してみますか、と、二人を部屋に招き入れた。
 招かれるままパトリックの部屋に入った二人は、辺りの探索を開始した。
 パトリックの部屋は殺風景でよく片付いている。「散らかり放題」と言っていたのは、まあ、プライベートなものを見られたくないという方便だろうから、二人は余り気にしていない。
 部屋は絨毯敷きで、壁や柱こそ屋敷本来の重厚な意匠が施されているが、置いてある家具は大きなデスクがひとつと、ベッド、あとは衣装箪笥がひとつに大きな本棚くらいだ。ものを隠せるような箇所は少ない。
「片付けをしたパトリックさんが気付かなかったなら、ココにはないかも知れませんわね」
「うん……あんまりモノが隠せそうな所もないし……」
 デスクの裏など、片付けをしても見ないであろう箇所を重点的に探してみるが、特に何か怪しいものは見つからない。
 別の所も探しに行こうかと、二人が考え始めた時。
「っと、先客が居たか。失礼」
 ひょい、と部屋を覗き込んで来たのは、やはり二階を捜索していたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だ。その後ろにはジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)の姿もある。
「どう、何か見つかった?」
 ジブリールからの問いかけに、さゆみが首を振る。
「そろそろ切り上げようと思ってたところよ」
「そうか……じゃあ他を当たった方が良さそうだな」
 一応念のために、とベルクが部屋の中をぐるりと見渡して見て居ると。
「あ、霞姉さん? うん、うん……分かった、連れてくよ」
 ジブリールの持つ携帯に連絡が入った。通話を終了させたジブリールは、おおいとベルクを呼ぶ。
「霞姉さんとお母さんが、下でそれらしいプレート見つけたってさ!」

 連絡を受けたジブリールとベルク、それから、居合わせたさゆみとアデリーヌは、一階のホールにやってきた。
 先ほどまでパーティーが行われていたホールは、しかし今はガランとして居る。捜索に当たっている者の姿もほぼ無い。机の上に、食べかけのスイーツたちだけが寂しそうに並んで居た。
「後でゆっくり仕切り直したいわね」
「事件が片付いたら、ですわ」
 残念そうな顔でそれを見詰めるさゆみに、アデリーヌが励ましの言葉を掛ける。今日は二人にとって貴重なオフの日だ。後できちんと仕切り直しをしたい。
「お母さーん」
 そんな二人をよそに、ジブリールはホールの隅で待っていた別の二人組の元へ駆け寄る。その声に気付いて手を振り返したのはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。隣には結城 霞(ゆうき・かすみ)の姿もある。
「よく見つけられたな」
 ベルクが感嘆しきりという声でフレンディスを労う――若干、見つけられるとは思わなかった、というニュアンスが強いようにも聞こえるが。
「はいマスター、よく見たら、あちらのケーキの並んだ机にどーんと置いてありました!」
「……ケーキ、食おうとしてただろ」
「はっ!」
 バレた、という顔でフレンディスは顔を赤くする。
 その脳天気さに思わずベルクはため息を吐くが、結果謎が見つかったのだからヨシとする。
「で、その謎ってのは」
「こちらですわ」
 そう言って霞が、一枚のプレートを差し出す。そこには大きく、【5↓ 3←】とだけ書かれていた。
「なんだこれ」
 覗き込んだジブリールが正直な感想を漏らす。
「見せて貰ってもいい?」
「勿論」
 さゆみの声に、霞がプレートをそちらへ渡す。しかし、さゆみ達もなんだろう、という様子で顔を見合わせる。
「んー、数字と矢印……って言ったら、スマホのフリック入力、ってのがよくあるパターンだけど」
 真っ先に口を開いたのはジブリールだった。頭の中でフリックの操作をしてみる。5に指を置き下にスライドすると「の」。3から左へスライドすると「し」。
「……のし?」
「えーっと、贈答用の品に掛ける紙のことを、熨斗、って言いますね」
 自分で言っておいて煮え切らない様子のジブリールにフレンディスが助け船を出すが、しかし、「のし」だけではやはりいまいち意味が分からない。
「テンキーの配列じゃないかな」
 そう提案するのはさゆみだ。
「電話のテンキーか、電卓のテンキーかは分からないけど……電話配列なら5の下が8、3の左が2で『8・2』。電卓配列なら、5の下も3の左も『2』だよ」
「なるほど……確かに導き出さなきゃならないのは数字だしな」
 さゆみの言葉にベルクが頷く。
「私はなんとなく、『2』の方がスッキリすると思うんだけど……アディはどう思う?」
「……『8・2』、だと思うのだけど……何となく」
 さゆみとアデリーヌはそれぞれ別の主張をするが、どちらもこれという決定打に欠ける。二人はフレンディス達の方に視線を遣った。
「どう思いますか、マスター」
「うーん……俺は『8・2』だと思ったんだが」
「『2』ではない、とも言い切れませんわね」
 ベルクは『8・2』説贔屓のようだが、やはり今ひとつ煮え切らない。霞がそんなベルクの言葉を引き継いだ。
「あ、そうだ、さっき誰かが情報交換しようって言ってたよな。他の答えと合わせれば何か見えてくるかも」
 これという決め手に欠ける状況で、はたと閃いたのはジブリールだ。携帯を操作して、情報交換用のプラットフォームにアクセスする。
 そして、手早く現状を書き込み、他の捜索状況を確認するのだった。


 その頃、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は玄関ホールを調査していた。先ほどまでホールを覗いて居たのだが、フレンディス達が調査していたのでここは良いかと判断したのだ。その代わり、誰も探している様子のない玄関ホールにやってきた。
 玄関ドアには相変わらず、大きな錠前。それから、ホールの真ん中にはあからさまに怪しい時計。これは屋敷に元々あったものではないと主達が言っていたし、ザカコには見覚えがあった。
「ふむ……以前の時も、こんなようなものが有りましたね」
 さらりと表面を撫でてみる。何とも言えない質感だ。ちくたくちくたく、ハートとスペードのマークが付いた針が、静かに時間を刻んでいる。
 だが、それが存在する、ということ以外、取り立てて怪しい箇所は見当たらない。継ぎ目くらいはあるものの、開きそうなところや、ネジ、鍵穴、その他何かを差し込めそうなところもない。ついでに、謎も仕掛けられていない。ただの時計だ。
「あからさまに怪しいんですがね……」
 ザカコは煮え切らない顔で、しかし、ひとまずここには何も無いと判断した。時計以外の扉や階段の裏、柱の陰など、ものが隠せそうなところも一通り調査してみたが、何も出てこない。
 ひとまず、ホールには何も無かった旨を皆と共有し、探索を進める。