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白百合革命(第3回/全4回)

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白百合革命(第3回/全4回)

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『1.閉ざされた部屋』

「少し時間をくれ」
 広い部屋の中。コンピューターの前にいる青年――ヴコールに竜司は言った。
 ヴコールの耳元で「奴の強さを確かめたい」というと、ヴコールは眉を顰めた。
「正面からいくなよ。まあ、時間が必要だってのなら、決行の日ぎりぎりまでなら待ってやれるが、それ以降は無理だな。頼んだぜ」
 ヴコールは竜司の肩をトンと叩いた。
(結婚の日? こいつ結婚すんのかァ〜。そりゃめでてぇな!)
 そんな勘違いをしながら、竜司は部屋から出て行った人物、ニヒルを追っていった。
「やっだあ携帯壊れてる!」
 その間、リナリエッタは携帯電話を調べていた。
「折角焔狼盗賊団壊滅の謎を探ってたのにあんまりだわ〜! 記事書けないじゃない〜!」
「ここの情報流そうとか馬鹿なこと考えるなよ。まあ、携帯の電波は通じないし、流せはしねえけどな」
 ヴコールはそう言うと、再びコンピューターの操作を始めた。
「随分怖い所に来ちゃったわね……」
 辺りを見回し、不安な表情を見せながらリナリエッタはヴコールに近づいた。
「ヴコールさんはいつからここに?
 その、地球人を快く思ってない人とどう付き合っていらっしゃるの?」
「地球人全てを快く思っていないわけじゃない。俺はパートナーとして彼らに認められている」
 いつからという問いにはヴコールは答えなかった。
 リナリエッタはコンピューターを覗き込むが、画面には知らない文字が表示されており、彼が何をしているのかさっぱりわからなかった。
「やっぱり天学生はパソコンがお得意なのね。何かここで私に出来ることあるかしら?」
「……俺の女として、身の回りの世話をしてもらう。常時俺の女としての行動を心掛けろ。それが出来ないのなら、お前もパートナー達に引渡し決定だ」
「わかったわ……でも、ダーリンが少し心配。私としてはダーリンには死んで欲しくないわ。そして……あのニヒルって人より、貴方の方が素敵に見える」
「それは当たり前だが。お前あのハゲと付き合ってんのか? どこがいいんだ?」
 ヴコールはリナリエッタに目を向けて真剣に尋ねてきた。
「魅力的なところがるの。貴方にもすぐにわかるわ。ねえ、ダーリンに何を頼んだのか教えてくれないかしら? 私は貴方とダーリンのためなら、なんでもするわ。といっても魔法が使えないなら、囮くらいにしかなれないけど」
 リナリエッタがそう言うと、ヴコールは大きくため息をついて、リナリエッタにコンピューターの画面を見せた。
『声に出すな。要塞内部の様子は全て記録されている。だが、この辺りは死角になっていて、カメラには映らない』
『あの男に頼んだのは、ニヒルの殺害だ』
 2つ目の文章は書いてすぐ、ヴコールは消去した。
(ということは、私達がニヒルって人に連れ込まれたことも筒抜けってことよね。それはバレてもいいけど、殺害指示に関しては知られちゃまずいってことね)
「便所掃除だ」
「そっか、トイレ掃除か……」
 リナリエッタは頷いて話を合せておく。
「ここのトイレって汚そうよね。男性が多いみたいだし」
 言いながら、リナリエッタはキーボードを打つ。
『ニヒルって人が死んだのならそのパートナー……グライドって人に影響は出ない? ここからの移動手段を持っているのは彼だけのようだし。そこらへんがはっきり分かれば、ニヒルに接近するわ。彼の隙を私が作ってダーリンが……でいい? 時間が掛かるかもしれないけど大丈夫かしら?』
『問題はない。俺がグライドのパートナーになるからだ』
 ぎらりとヴコールの目が光った。
 彼の野心に気づき、リナリエッタは頷く。
『お前があのハゲを捨て、俺につくというのなら行く必要はないが……出来ないのなら好きにしろ』
「汚ねえし、恐ろしく臭いぞ。あいつに任せておけ」
 そして、ヴコールは打ち込んだ文字を全て完全に消去した。

 隣の部屋は、寝室のようだった。
 いくつか置かれているベッドの一つに、中性的な外見の金髪で金色の瞳を持つ若者が座っていた。
「グライド、退屈だね。早くシャンバラを制圧して、外の世界に出たいね!」
 ニヒルはそのグライドという若者に抱き着いていた。
 グライドは真顔で、ニヒルの頭を撫でている。
「よぉ、さっきなんか絵を書いてたみてェだけど、このイケメンをモデルにしてみねえかぁァ、ぐへへ」
 竜司がニヒルに歩み寄ると、ニヒルは怪訝そうな顔をした。
「ん? なんだその顔は……オレに惚れたか!? 仲間とかアタリとか言ってたよなァ? イケメンだからアタリは当然として、オレはてめえらの仲間になればいいのかァ?」
 竜司の言葉に、ニヒルは大きく首を横に振った。
「ね、この男、地球人で力もありそうなんだ。学園滅ぼすパワーに出来そうだよね?」
 そして、グライドを見上げてそう言うと、グライドは何も言わずに首を縦に振った。
「なんだァ? パワーを貸して欲しいってか? やっぱり仲間にしたいってことじゃねぇか。
 まあ、パワー出すにはまずはメシだな。ここって食い物あるのか? 外から持ってきてんのか?」
「食料は十分あるよ。でも食べなくても、グライドの魔法で力もらえるから、大丈夫」
「そうかァ。で、その男か女かわかんねぇてめぇが、ここのリーダーなんだな?」
 竜司がグライドに尋ねると、グライドは無言で竜司に目を向けた。
「なんでこんなところに魔法陣設けたんだ? 仲間が欲しいんならよ、人が寄らない洞窟よりもっといい場所あっただろうによ」
「近かったから、ただそれだけだ」
 感情の感じられない声で、グライドはそう答えた。
「んで、オレは何すれば、ここから出られるんだ? いや、その前に女たちを開放してくれ。で、オレをこき使えばいい」
「……」
「オレァ、舎弟が待ってるから帰る必要がある。が、女たちにも待ってる家族や友がいるだろ。帰してやりてえぜ」
「地球人は死ななきゃ出られないよ、だって、君はもうこの場所を知っちゃったしね!」
 当然のように、ニヒルが言った。
「その日が来るまで、楽しく過ごしてていいよー。ね、グライド、子守唄歌って! 眠くなってきた〜」
 ニヒルがそう言うと、グライドは彼をベッドに寝かせて、子守唄を歌いだした。
 それはただの歌ではなく、魔法的な効果のある、魔法歌だった。
(ここ魔法使えねぇはずなのに、こいつは使えんのか! すげー魔法使いのようだな)
 どうにか説得してオレに惚れてるあの女(リナリエッタ)だけでも、出してもらえないものかと、竜司は考えるのだった。

○     ○     ○

 地下要塞に閉じ込められてから、随分と時間が経った。
 竜司とリナリエッタは、大部屋とその部屋と繋がっている寝室、食堂、シャワールームにのみ、行き来出来ていた。その他に大部屋には2人が立ち入ることのできない鍵のかかったドアがあり、それ以外の部屋や通路へと続くドアは存在しない。
 ヴコールはこの鍵のかかった部屋から要塞の他の部屋へと行き来しているようだ。
 彼は今、この部屋にはいない。
 今日は決行の日だとか言っていた。
(ニヒルを殺させた後、責任を負わせて始末するつもりかも……)
 リナリエッタが竜司を好いている姿勢を続けたところ、ヴコールはリナリエッタにも関心を示さなくなり、あれ以来これといった情報も聞きだせてはいない。
 その部屋ではパラミタ人達が、ヴコールと同じように日夜コンピューターで作業を行っていた。
「てめぇらは帰りたくねぇのか?」
 竜司が作業を行っている人々に尋ねた。
「時が来れば太陽の下に戻れる。パラミタの日の当たる場所へ」
 作業員達は気が向いた時にそんな言葉を返してはくるが、大抵無視であった。
 いつまで続くのかわからないつまらない日々に、焦りを感じながらリナリエッタは携帯電話を握りしめる。
 ずっと電源を切っていたため、充電は切れていないはずだ。
 多分、パートナー通話はできる。
 だが、監視をされているからには、チャンスは一度だけ。
 そして連絡をした瞬間に自分は殺されるかもしれない。
 どうすべきか。考えていたその時――。
「!?」
 突然壁が光った。
「誰が来るの? 誰かな〜?」
 寝室から、ニヒルが駆けてきた。
 次の瞬間。
「魔法封印システムが作動している。こっちは任せるわ!」
 壁の中から、女性が1人、その後から男性――ジャジラッド・ボゴル、アルファ・アンヴィル、秋月葵が現れた。
 最初に現れた魔道書を手にした女性が、阻もうとする者を躱して寝室の方へと走っていく。


『2.秘密の彼女?』

(本物のゼスタ達はどこにいるんだろう……)
 集中を始めたエリシアを見守りながら、美羽は考えていた。
 派遣したイコプラを移動させることは出来ないらしく、ダークレッドホールの先の世界の探索はまだ行えていないとのことだ。
 神楽崎優子の体調が戻り、風見瑠奈のパートナーが倒れたという話を聞いている。
(少し前までは、白百合団の団長は無事で、ゼスタは危ない状態だった。今は逆……)
 2人の身に、ダークレッドホールに突入した人達の身に、何が起きているのだろう。
 不安な気持ちと、今すぐ自分も2人がいる場所へ――ダークレッドホールの先の世界にいるのなら、すぐに飛び込んで探しに行きたい! そう思ってしまう美羽だったが。
 感情をぐっとこらえて、レグルスと話し合うためにここに訪れていた。
 彼は今、陰陽師の手配の為に動いている。
 その間、美羽はエリシアの世話と警護を自ら買って出ていた。
「片付けないとね」
 皿とカップを片付けるために、トレーに乗せて美羽はキッチンへと向かった。
 そして、カップを洗っていた……その時。
「レグルス、お水貰……」
 女性がキッチンに顔を出し、美羽の姿を見てはっとした表情を浮かべた。
 美羽はディテクトエビルを使っていたが、特に邪念などは感じていなかった。
「えっと、この家の方? お水いれるね」
 美羽はグラスに水を入れて、女性に差し出した。
「ありがとう」
 お礼を言って受け取ると、その女性はそそくさと去っていった。
(なんだか怪しい……? まるで浮気相手みたいな反応)
 美羽はソウルヴィジュアライズの能力で、彼女の心を見ていて、彼女の表情からそんな風に感じた。
 ただやはり、害意や殺意などを感じることはなく、悪人のようにも見えなかった。
(んー。でもどこかで見たことがある気が)
 美羽は洗い物をしながら、首を傾げ考えていく。
 喋ったことはないけれど、どこかで、何かの作戦で見たことがある娘だった。
 戻ってきたレグルスに尋ねてみたところ。
「交際相手、だよ。でも、親に反対されてるんだ。だから家に呼んでいたこと、内緒にしておいて」
 そんな返事が返ってきた。


『3.推考』

 留置場で舞香と共に、迎えを待ちながら亜璃珠は考えていた。
(白騎士の指輪の名を出したら、私も殺されるかしら)
 コウが既にマリザに伝えた内容までは、話しても大丈夫なようだった。
(崩城亜璃珠)
 突然、脳裏に声が響き、亜璃珠はぴくりと震えた。
(準備が整いつつある、今日中に戻ってこい)
 フェクダ・ツァンダからのテレパシーだった。
(今日中に指輪を探し出すのは無理だわ)
(古代のシステムを使用できぬのなら、他の方法で稼働させる。そのための準備が整いつつある。
 発動前に、貴様に持たせている指輪を回収させてもらう。24時間以内に戻らぬ場合は、刺客を差し向ける)
(ヴァイシャリー家の留置場に軟禁されているの。今日、迎えが来るって話だから、その後そちらに向かうわ。それでいい?)
(指定の人物を連れてくるということだな?)
(……どうにかして、白騎士の指輪を持っていくわ)
(24時間以内だ。忘れるな)
 その言葉を最後に、フェクダからのテレパシーが終わった。
「……さん。……崩城さん?」
 舞香の声に、亜璃珠は我に返った。
「あ、ごめん。ちょっと気分が悪くて」
 そう答えた後、亜璃珠は両手で顔を覆った。
(時間がない……そうよね、あれからもう1月は経ってるもの)

○     ○     ○

 接見室での話を終えた後、祥子は庭に皆を集めた。
「嘘感知の能力で見た限り、亜璃珠の言葉に嘘はなかったわ。それから……」
 祥子は手の平を皆に見せた……指に絡まっている1本の髪の毛を。
「髪の毛をサイコメトリで探ってみて分かったのだけれど、亜璃珠はヴァルキリーの女性により、指輪を頭の中に入れられているわ。亜璃珠が見聞きしたものは、その人物に筒抜けのようよ」
「そのヴァルキリーの女性の外見は?」
 優子が尋ねた。
「青みがかった黒髪。目の色は青。外見年齢は30代半ばくらい」
「秘書長……」
 舞香が声を上げた。
「ヴァイシャリー家から古代のデータや、アイテムを盗み出したと言われている人物の外見と一致するわ」
「なるほどね。私が見てきたこと、そしてツァンダの病院で行われた検査の結果からして……」
 祥子は考えながら、語っていく。
「最近の事件は少なくとも2組の首謀者がいるんじゃないかしら。1組はダークレッドホールに絡んだゼスタ達の偽物を送り込んできた者。
 もう1組は亜璃珠が行方不明中に会った……ヴァイシャリー家やツァンダ家の古王国時代のご先祖様」
「ご先祖様?」
 舞香が首をかしげる。
「さっき亜璃珠が言っていた『シャンバラのパワーバランスを危惧している人達』のことだ」
 優子が説明をし、舞香は良く分からないながらも頷いた。
「差し当たり、亜璃珠の姿をした者が自爆テロを起こすことはなさそうだから、それは安心だけど……」
 前者は優子の状態からして、ゼスタが回復したようであり、救護班も向かうことから悲観しなくて良さそうだ。
 問題は後者だと祥子は考えた。
「いくらシャンバラ女王の姻戚とはいえ、言ってることは現在のシャンバラへのテロでしかないわ」
 祥子は、百合子、優子、ティリアを見回して尋ねる。
「この件、ラズィーヤ様に報告する? ミケーレ様のこともあるし、古王国時代のご先祖様が噛んでるんじゃ判断の難しいところがでてくるけど」
「ラズィーヤさんに報告は行っていると思いますけれど、彼女はもっと大きな事件のことで手一杯な状態です。この件はミケーレさんに任されていますので、祥子さんのお考えは彼に伝えておきます。……ただ、私は2つの事件は繋がっているような気がします」
「私も百合子さんと同じ考えだ」
 優子が眉間に皺を寄せながら言う。
「革命を成功させる為に、自爆テロを起こし、他に目を向けさせた……もしくは、ダークレッドホールの対処に動くよう仕向けている。または、地球人とシャンバラ人の間に亀裂や不信感を起こさせようとしている。いや、それらすべてが自爆テロの理由かもしれない。
 だとするのなら、革命は実行間近に迫っている」
「……白百合団は、どう動いたら」
 何も言えずにいたティリアが、青ざめた顔でつぶやいた。
「あ、あの……今回の件、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 舞香が突如、頭を下げた。
「降格でも退学でも、どんな処分でも謹んでお受けいたします。ですが、お話をお聞きしたところ、今は非常時です。許されるのなら、一兵士としてでも結構ですから、今回の一件が解決するまで、何かお手伝いをさせてください!」
「いえ……いけないのは、ちゃんと指示が出せなかった私です。処分は私がお受けします」
 舞香と一緒にティリアが百合子、優子に頭を下げた。
 こつん、と優子はティリアの頭を叩き、舞香の頭には、ぽんと手を置いた。
「しっかりしろ、ティリア・イリアーノ。これからは私も一緒だ。共に皆を指揮していこう」
「は、はいっ」
 返事をして、ティリアはまた頭を下げた。
「舞香には、頼みがある。指導という名目でこれから私の部屋に来てほしい」
「は、はい。でも、優子お姉さま、お体の具合はいかがですか? 病み上がりに御心労おかけして本当にごめんなさい……」
 申し訳なさそうに言う舞香の背を引き寄せて、優子はぽんぽんと彼女の背を叩いた。
「わかってるよ、キミの思いも。亜璃珠の思いも」
「私は、指輪を預かりに行ってきますね。それから崩城さんと一緒に参ります」
「預かりにって、どこへ?」
 祥子が百合子に尋ねると、百合子は首を左右に振った。ひみつ、というように。
「任せるしかないようね……。優子さんは桜月さんに何をさせるつもり?」
 祥子の問いに、優子は不敵な目を見せて。
「亜璃珠の背に強力な小型発信器をつけた。舞香に拠点の場所を探らせる」
 小声でそう言った。