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リアクション
一週間持ちこたえれば、龍騎士に砦の中に突入されなければ、援軍が来るまで頑張れば、こちらの勝ち。
椿 椎名(つばき・しいな)は、最終防衛ラインを護るべく、幾つかある洞窟の入り口の内側に陣取った。
無理に討って出る必要は無い。
一週間守りきれば、勝ちなのだ。
攻める龍騎士側の方が、時間が経つほどきつくなってくるはずだと思う。
だから、焦る必要はない。
ぱたぱたと走ってくる足音が聞こえて、椎名は振り向いた。
パートナーの獣人、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)だ。
「マスター! マスター!」
泣きながら走って来たソーマは、椎名の胸に飛び込む。
「マスター! 偵察してきたよー」
泣きながら、にこにこ笑っている。
どうやら迷子になって泣き出したものの、こうして発見できて、泣き止んだらしい。
「サンキュ。どうだった?」
「龍の人達の他には、怪しい人はいなくてー、皆元気だった!」
この砦には、現地で雇われた獣人も多い。
彼等に、ソーマは可愛がられていた。
「でも帰ってくるのに少し迷ったあ。この洞窟、広すぎ〜」
きっとアーちゃんも迷ってるよ! と言ったソーマの後ろから、ぼそりと
「そんなわけないでしょ」
と声がする。ソーマとは別行動で偵察に出ていた、椿 アイン(つばき・あいん)だ。
「あー、アーちゃん、お帰りっ」
「こちらも従龍騎士達以外に留意すべき点は無かったわ」
報告に、椎名は安堵する。
「そう。じゃあ、あの連中さえ気をつけていれば大丈夫なのね」
――実のところ、密かに潜んでいる敵は、いたのだが。
相手が、偵察をうまく躱したこともあり、この時、二人は、それらを見逃してしまっていたのだった。
アインはこっそりと従龍騎士達を伺う。
「ここから狙う?」
「当たるの?」
椎名の問いに、多分、と答える。
「んー、でも、やめときましょ。
下手したら、ここが見つかるかも。入口の場所がバレのは、ヤバいし」
「そうね」
椎名の言葉に、アインは頷いた。
焦る必要はない。従龍騎士と戦う仲間達は、他にも大勢いるのだ。
「司令官クラスは来てないのですか?」
殆どが従龍騎士なのを見て、パートナーの魔鎧オルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)を装備した伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)が魔道書、屍食教 典儀(ししょくきょう・てんぎ)に訊ねる。
総50の内、10は龍騎士だったはずだ。
「最後方に控えておるようじゃのう」
マホロバ人である鈴鹿 千百合(すずか・ちゆり)が、
「もったいぶりおって」
と答える。
「良いのではないか。
正直なところ、司令官クラスなどが出てきては、我々では敵わぬ」
藤乃は別として、と、典儀が言った。
「指揮官を狙うのは基本でしょう」
藤乃は目を細め、呆れたように言い返す。
だが、確かに、パートナー達の言葉も最もだ。
敵わない相手にわざわざ向かって行くのは愚かである。
「とにかく、可能な限り、従龍騎士を倒して行くことにします」
どうやらそれが現時点で最良の策のようだ。
「手伝おう」
典儀が藤乃の後ろにつく。
最も、まともに戦っても足手まといになるだけなので、戦う藤乃の後ろから、ちまちまと氷術を使って援護するくらいだが。
「わらわも似たようなものじゃ」
と、遠当てでちまちまと援護をしながら、千百合もその隣りに並ぶ。
従龍騎士達を指揮して、一人だけ龍騎士がいたことを後になって知ったが、その龍騎士は、猛者達に袋叩きにあって捕虜となり、さんざん泣かされて情報を引き出されたという話だった。
龍や龍騎士、というのは、やはり、憧れの存在だ。
そんな存在が、目の前に立ちはだかっているのなら、戦って、自分の力を試してみたいと、そう思う。
「クコ、ここは一人でやらせてもらえませんか。
少し離れたところで、待っていてください」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は、レッサーワイバーンの手綱を取りながら、パートナーのクコ・赤嶺(くこ・あかみね)に頼む。
仕方ないわね、とクコは苦笑した。
実のところ、クコはこんな風に、我侭を言ってくれるのが好きなので、嬉しい気持ちの方が強いのだ。
「でも、もし万が一危なくなったら、助けに行くから」
約束を取り付けたクコに苦笑を返して頷いた霜月に、背後からぎゅっと戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)がしがみつく。
「朔望?」
不安そうな顔をした朔望は、霜月の指示を待たずに、魔鎧化した。
「……連れて行って欲しいと言ってるのよ、きっと」
クコが言う。
「不安なんでしょう。連れて行ってあげたら」
怯えている、と言ってもいいかもしれない。
このままクコ預けて行くのも選択肢だろうが、霜月は頷くと、朔望を身に着ける。
レッサーワイバーンに跨り、旋回して攻撃を仕掛けて来ようとする従龍騎士を、攻撃射程内に招き入れた。
地上から霜月の戦い振りを見ながら、援護に行く必要はないようね、と、クコは思う。
強くなった。
霜月も、自分も。
もう、相手が従龍騎士なら、安心して見ていられる。
「――不安は無くなったか?」
地に落ち行く従龍騎士を見送って、霜月が朔望に話しかけると、まとっていた不安な空気が、ふっと薄れた。
ふと微笑んで、じゃあ、次だ、と別の従龍騎士に向かおうとしたところで、違う雰囲気をまとった騎士に気付く。
龍騎士がいたのだ。
はっと身を強張らせた霜月だったが、様子を見て、ふっと息を吐く。
「……仕方ない。譲るか」
その龍騎士には、既に標的と向かうレッサーワイバーンがあった。
二頭のレッサーワイバーンが向かって来る。龍騎士テオフィロスは、それがどうやら、まともに自分に向かって来るものではないことに気付いた。
二頭のレッサーワイバーンは、くるくると細かく動きながら、じわじわと動いている。
何か思惑があってそういう動きをしているようだが、少なくともテオフィロスには、そういう風にしか見えなかった。
「……誘っている、というわけか」
上空からでは洞窟への入り口が判別できず、探索の範囲が狭まるが、龍を降りてみようかと思案していたところだった。
「罠だろうが、罠でも構わん」
要塞は、外からの攻撃にとても強く、罠だろうが行き止まりだろうが、とにかく内部に入れなくては始まらない。
テオフィロスは、ローザマリア達の誘いに乗って、龍を追わせる。
降下して行くレッサーワイバーンの進路を見て大体の見当をつけ、龍の首をひと撫ですると、飛び降りた。
ロザリアーナ達は、素早く洞窟の中に書け込み、テオフィロスを誘い込む。
「貴方が龍騎士様かしら?
ダンスのお相手を申し込むわ。一曲、踊ってくださらない?」
暗闇の中から声をかける。
「生憎、死者と踊るダンスを知らぬ」
答えながら、テオフィロスは周囲を見渡した。
「外れかと思えば、当たりか」
罠しか無いと思って来たのだが、空気が流れている。
ここは行き止まりではなく、奥があるのだ。
気配を探り、面倒だな、とテオフィロスは思った。
自分と互角に近い強さの者が、複数居る、と判断する。
ここで戦うより、無視して内部に突入すべきかと思う。
目的は殲滅ではなく、要塞の破壊だからだ。
この入り口を他の者達に伝え、自分は内部へ突入する。
その方法を考えた時、洞窟の奥から光が閃いた。
轟音が轟いた。
敵も味方も、砦で戦っていた全ての者が、一瞬手を止めて、その方を見上げる。
斜め上空に向けて、光の帆柱が空を貫き、スウッと消えると、黒煙が揺らめき上がる。
後詰めの位置からそれを見ていた龍騎士達に、それは狼煙のように見えた。
「あそこが突破口か」
また、密かに待機していた数人の者達が、ほくそ笑んでそう呟いた。
「――やはり、駄目でしたかっ」
一撃を放ち、やがて引いていく黒煙の中から、テオフィロスが姿を現す。
まっすぐに立って、ダメージを受けた様子は見受けられない。
ハンスは苦々しく呟いたが、はっとする。
薄れて行く黒煙の中、要塞内部に向かおうとするテオフィロスの前に、樹月刀真が飛び込んだのだ。
「悪いが、こいつは、俺が貰う」
誰にともなくそう言って、刀真はテオフィロスに攻め込む。
「ロイヤルガード、樹月刀真、参る!」
応戦するテオフィロスの一撃に、刀真は滑るように後方に弾かれた。
ちっ、と舌打ちをして、ちらりと外を見る。
影野陽太が、偽装をした場所だ。
「余所見とは、余裕だな」
「アレさえ動けば、こっちの勝ちだ」
刀真は冷たく言い放つ。
「切り札か。イコンでもあるのか?」
テオフィロスはくっと笑った。
「このお粗末な罠といい、な。ならばさっさと出すがいい」
自ら斬り掛かって行こうとして、テオフィロスは突然剣を構えながら飛び退く。
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の弾幕援護に、クレアやグロリアーナ達も、援護に入らなくてはと気付いた。
刀真も月夜も強いが、対一で倒せるような、生易しい相手ではないのだ。
内心はどうであれ、手を出すな、とは、刀真も言わなかった。
多勢に無勢、となった。
クレア達の援護によって、圧倒的不利になったのはテオフィロスの方だった。
しぶとく戦おうとするテオフィロスに、刀真は、金剛力を乗せた最後の一撃を、首の付け根に食らわす。
「……くそっ……!」
顔を歪め、テオフィロスは倒れた。
「……こんなものか」
あとは、天音に任せればいい。
「突破口に、させてもらう」
刀真は、気絶したテオフィロスに向けて低く言った。
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