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1 いざ、遺跡へ
(いっぱいいっぱーい! 人がいっぱいだぁー)
ニルヴァーナの回廊を越えて、ニルヴァーナにやって来た参加者を見て、フレイムたんは嬉しそうにくるくる回る。
ニルヴァーナの山岳地帯に住むギフトであるフレイムたんは、外で活動する際には全身が炎と熱気に包まれる。
喜びのあまりいつもより余計に回るフレイムたんを中心に、ちょっとした竜巻が起こるほどだ。
(フレイムたん……かわええ……)
と、多くのメンバーが思うものの、このパピヨン犬の形をしたギフトにはおいそれと近寄れない。
「皆、揃ったようだな」
ダイソウ トウ(だいそう・とう)は、ニルヴァーナへ渡って来たダークサイズのメンバーをはじめ、秋野 向日葵(あきの・ひまわり)を含む対ダークサイズの「チームサンフラワー」の面々などを見渡す。
「今回、お前たちに集まってもらったのは他でもない。我々ダークサイズのニルヴァーナ征服の第一歩として、向こうに見える入口より山岳地帯の遺跡へ進入し、探索、そして我々の拠点として遺跡獲得を目指すのだ」
ダイソウが指をさす先には、荒れた山脈が広がっており、その麓には岩でできた10メートル近い大きさはあるだろうか、地下への入口が大きく口を開けている。
ストーンヘンジのような岩を組み上げたものだが、ニルヴァーナが滅んで後、悠久の時を経たそれは、ひどく傷んで今にも崩れそうだ。
「中からは強力な邪気も漂っておる。お主ら、いかにダイソウトウさまと一緒だからと、ハメをはずしすぎるでないぞ」
ダイソウの隣で、選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)が注意を促す。
誰あろう、エリュシオン選定神の一柱である彼女の言葉とあって、多少の緊張感が生まれる。
そんな空気をはねのけようと、向日葵は対ダークサイズの味方たちに声をかける。
「フレイムたんと仲良くなって、あたしたちで遺跡ゲットだよ! ニルヴァーナを守って、正義の味方が大逆転だからね!」
向日葵は、今回ばかりはかなり気合が入っているようで、皆と円陣を組んでみたりしている。
「さーて、ダイソウトウ! あんたみたいなぶっきらぼうなおじさんが、フレイムたんを手懐けることができるかしらー?」
フレイムたんを懐柔することにかけては、かなり有利と見た向日葵。
いつになく強くな態度を、ダイソウに見せる。
「しかしサンフラちゃんよ……」
ダイソウは向日葵のあだ名『サンフラワーちゃん』をさらにつづめて呼び、
「あのギフトを手に入れるのは、遺跡に巣食うモンスターを倒すことではないのか?」
「うっ……そ、それとこれとは別よ! きっとそうよ。でなきゃあんなかわいい姿してるはずないもん!」
戦力において後れを取るチームサンフラワーだが、フレイムたんの感情に訴えるという作戦で、モンスターを倒さずしてギフト入手を狙う無茶な考えでいたようだ。
そんな様子を、多少の警戒を込めて見ているのは茅野 菫(ちの・すみれ)を部長とする『ダイソウ専属内偵監査部』。
思いつきの行動で周りに迷惑をかけがちなダイソウを監視するため菫が立ち上げた部署だが、彼女は向日葵たちの様子も観察している。
「あっちはずいぶん気合い入ってるね……ねえ、遺跡を手に入れるにはやっぱギフトを、つまりフレイムたんを手に入れるのがカギよね?」
という菫の質問に答えるのは、キャノン モモ(きゃのん・もも)。
「そうですね。ニルヴァーナ捜索隊が掴んでいる情報によると、ギフトは使い手を選ぶ、とあります。ギフトを倒すことで力を認めさせ獲得するようですが、あのギフトはずいぶん人懐っこいプログラムですし、少し条件が違うのかもしれません。ただ、私たちが力を示す、というのは変わらない条件でしょうね」
「力を示す、か……それは武力とは限らないな。和を尊び、絆で結ばれるのも大きな力となるはずだ」
モモの説明が聞こえてきた大岡 永谷(おおおか・とと)は、腕組みをしてフレイムたんを見ている。
それを聞いた向日葵は、
「そうそう、それよそれ! さっすが永谷くん!」
と、永谷の解釈に便乗している。
永谷は腕組みを解いて右手に【氷術】で野球ボールほどの球を作り、
「そう思って、俺も手だてを考えてみたぜ……さあ、ふ、フレイムたん」
永谷は若干緊張した面持ちでフレイムたんに声をかけ、氷の球を見せる。
フレイムたんは弾を見て、猛烈なスピードで尻尾を振って永谷の挙動に期待する。
(フレイムたんが反応した! 俺の声に……!)
犬を飼ったことのない永谷は、フレイムたんの反応にドキドキしながらボールを掲げる。
「一緒に遊ぼう。取っておいで!」
永谷が球を投げると、待ちかねたように地を蹴るフレイムたん。
フレイムたんは疾走し、球を空中で受け止めようと飛び上がり、口を開ける。
しかし、フレイムたんを覆う炎の温度に耐えきれず、氷の球はジュッと音を立てて消えてなくなる。
フレイムたんの口はカチンという音と共に噛み合わさり、その足は空しく着地する。
フレイムたんは見失った球を探して数周その場を回り、耳を垂れてゆるく尻尾を振りながら、永谷に向かってお座りをする。
「ああっ、すまないフレイムたん! でもそれはそれで、すごく……いい!」
「永谷くん! 意地悪してどうすんのよー」
「い、いや、違うんだサンフラさん。これは、この人ならこの後も遊んでくれるって思わせるためにだね……つまり、フレイムたんの気を引く作戦の一つなんだ!」
「ホントにー? てか、永谷くんまでサンフラさんって何よ……」
「いや、サンフラワーよりサンフラの方が人名っぽいじゃないか。実際ヨーロッパ辺りにいそうな名前だ」
「そ、そう?」
「ああ、くやしいが、こればっかりはダイソウトウの功績だな……」
そんな具合に向日葵たちが遊んでいるよそで、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)がダイソウたちに丁寧に挨拶をしている。
「初めまして。いつもうちの菫がお世話になっております。パビェーダ・フィヴラーリです」
「これはご丁寧にどうも、ハッチャンです」
「クマチャンです」
「ダイダルじゃ」
「アルテミスだ」
「キャノン・ネネですわ」
「キャノン・モモです」
「そして私がダイソウトウだ」
「みなさん、ご丁寧に。この度は私もお手伝いさせていただきますので」
「ちょっともう、恥ずかしいからそんな挨拶なんかいいわよ」
菫はパビェーダの裾を引っ張る。
それを見たベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、口に手を当て、
「いけない! 私も正式なご挨拶はまだでした」
ベアトリーチェはダイソウたちの元へ駆け寄り、
「先日はイコンの中から失礼しました。ベアトリーチェ・アイブリンガーです」
「これはご丁寧にどうも、ハッチャンです」
「クマチャンです」
「ダイダルじゃ」
「アルテミスだ」
「キャノン・ネネですわ」
「キャノン・モモです」
「そして私がダイソウトウだ」
「蒼フロ総選挙では、上位入賞おめでとうございます」
「うむ。突然の知らせに、ドッキリではないかと疑ったぞ」
「お祝いと言っては何ですが、【ろくりんピックまんじゅう】をどうぞ」
ベアトリーチェのお祝いの言葉が聞こえ、菫、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)とルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が、人知れずニヤリと笑っている。
ベアトリーチェの肩越しに、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が顔を覗かせ、いつものようにスタンプカードを振る。
「コハクから聞いたよ〜。全部揃ったら『ダークサイズが一日何でも言うこと聞いてあげる券』に変えてくれるんだって?」
と、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と肩を組む。
ダークサイズを攻略できるというスタンプカードを集め続けてきた美羽。
残すところダイソウのスタンプを得るのみとなっており、遺跡攻略に貢献することで、ご褒美にスタンプを狙っている。
カードを見たダイソウは、
「む、そうだったな。では今日の活躍次第で……」
と言いかけたところで、ダイソウの背後からは、クロス・クロノス(くろす・くろのす)、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)、山南 桂(やまなみ・けい)、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)といった、「ダイソウ専属内偵監査部」のメンバーが、
(お前、わかってんだろうな……)
といった雰囲気で、にらみを利かせる。
ダイソウは咳払いを一つし、
「甘いわ美羽! カード一枚ごときで、我々ダークサイズを組み敷けると思うてか!」
と、いつもより数割増しに悪役ぶって言い放つ。
「ええー! そんなのないよぉー! 見てなさいよっ!」
いまさらスタンプカードの存在を否定するようなダイソウの言い方に、美羽は腹を立てて去り、ベアトリーチェもぺこりとお辞儀をして美羽を追う。
そんな間にもフレイムたんを手懐けようとする向日葵たちを見た菫は、
「まずいね。このままじゃフレイムたんがあっちに懐柔されちゃう。ダイソウトウ、早く遺跡に入ろうよ」
「うむ。ではフレイムたんよ。遺跡の中を案内してもらおうか」
(はーい。みんなでおさんぽ、うれしいなー♪)
フレイムたんは軽やかにステップを踏みながら、遺跡の入口へ向かっていく。
喜びと熱をまきちらすパピヨン犬と微妙に距離を置きながら、ダークサイズは遺跡へと向かった。
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