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【創世の絆】冒険の依頼あります

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◆第三章1「セレスティアーナ調査隊出動!」◆


 暗闇の中、パッと一部だけが明るく照らされ、文字が浮かび上がる。

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『遺跡調査エンターテイメント』
セレスティアーナ調査隊が行く!
脅威! 古代遺跡で代王達を襲う未知の生物達!?
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 背景には西で発見された遺跡。そしてその遺跡を感動した面持ちで見つめるセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)の姿。

『ニルヴァーナ。
 そこは、古代パラミタにも数多くの影響を与えた人々が住んでいた大地。
 今も私たちの理解を超える技術の遺産を残してる彼らの遺跡に、今彼女達が決死の覚悟と熱い気持ちで挑もうとしていた!』

 聞こえる声はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)のもの。ロザリンドは今回の遺跡調査を撮影し、ドキュメンタリー風にしあげ、娯楽の一つとして基地で放映していた。
 調査隊のメンバー紹介を戦闘シーンなどを混ぜながら終えると、今度は遺跡の全体像が映される。
 遺跡中央にひときわ大きい建造物があり、その周囲に小さな建物が並んでいた。まるで小さな町、のようだ。

『この構造物は一体なんなのか! 彼女達を待ち受けるものとは!?』


* * * * * * * * * *



 中央の建造物……からやや離れたところを歩いているのは源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。真ん中の建物はセレスティアーナたちに任せ、周辺の建物群を調べていた。
「やはり町か。そう大きくはないみたいだが」
 言いながら突然銃を放つ鉄心。一瞬遅れて聞こえた獣の鳴き声。ドサリと地面に横たわった狼の額には銃痕が。
「すっかり魔物の巣になっているようですね。
 イコナちゃん付いてきたいって言うかと思ったけど、素直に聞いてくれて良かったですね……こんな危ない場所だと心配だし」
 開いたままの狼の瞼を降ろしたティーが、ここにはいないもう1人のパートナーを思った。

「人見知りする子だけど、セレスさんはちょっとおば……あ。ええと、ああいう性格だし、親しみやすいのかもですね」
 ごほんと咳払いするティー。今、何を言いかけました?
「足手まといが減ってこちらとしても楽だしな」
 さらにそこへ鉄心が上乗せする。何を乗せたか? もちろん。愛である。

 それから辺りを見ていると、気になるものがあったのか。鉄心は眉を寄せ、とある一軒の家に近寄った。
 石造りの小さな家だ。家の中には生活家具や道具が散らかっている。おそらく魔物たちに荒らされたのだろう。
 問題はそこではなく、家の壁。その一角がひどく崩れていた。古くなって壊れたわけでないことは、焦げ跡から分かった。それは、まるで何かに襲撃されたかのような、そんな跡だった。
「インテグラル、でしょうか?」
「その可能性は高いな」
 頷きながら、鉄心は家の中をくまなく調べていく。朽ち果てた家。気になることがあった。
「狭すぎると思わないか?」
「え? でも1人だったら十分」
「それはないだろう。少なくとも3人。ここに住んでいたはずだ」
 家具や食器を指差す。壊れているものがほとんどだが、たしかに1人暮らしには多い。そしてこの家は……いや、ここにある家のほとんどが、狭い。
 カツン。
 その時、足元でわずかな違和感。鉄心はかがんで土ぼこりを払い、床の感触を確かめる。
「やっぱり……地下があったか」
 四角く区切られた床を外すと、広い空洞があった。中は暗いが、かなりの空間があるらしい。
 襲撃の跡。地下に隠された空間。つまり、ここに住んでいたものたちは襲撃があることを予感していたのだろう。
 しかしそうなると、また別の疑問がわいてくる。
「襲われることが分かっていて、一カ所に定住しようと思うか?」
 しっかりした作りの家々――考え込みそうになった鉄心だったが、一先ずセレスティアーナの本隊へと、情報を伝えた。
「行くぞ、ティー」
 そして地下へと足を踏み込んだ。


* * * * * * * * * *



「さぁ、行くぞ。皆の者!」
 無駄に偉そうに無いむ……ごほん。ぜっぺ……げふん。あー……そう。ふんぞり返っているのは、我らが代王セレスティアーナだ。
「行きましょう、セレスお姉さま!」
「うん。一緒にがんばろうね、セレちゃん、イコナちゃん」
 そんなセレスティアーナの両隣りに立って、同じく無いむ……ではなく。ふんぞり返るイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
 見目はまるで違うが、こう並んでいると仲の良い3姉妹のようだ。
「ふふ。3人とも、足元には気を付けてくださいね」
 温かい目でセレスティアーナたちを見つめていたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、口もとに手を当てつつ注意をすれば、「はーい」と同時に帰って来る返事。
 まるで遠足の引率をする先生と生徒のようだ。
「あらー、代王様。そんなとこでボケっとしてたら置いてくわよ」
 からかい口調で声を発したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、セレスティアーナの横を通り過ぎていく。揺れるロングコートの下からは、白い肌が惜しげもなくさらされている。
 その際、互いのとある部分をちらと見あう。どことは言わない。
 勝ち誇った顔をするどちらかと、悔しげなどちらか。どちらがどちらとも、決して言いはしない。
「ちょっとセレン! 申し訳ありません、セレスティアーナ様。セレンが失礼なことを」
 慌ててパートナーのことを謝るセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だが、セレスティアーナはセレアナのも見て、

「私は別に羨ましくなどないぞ!」

 大きな声で叫んだ。なぜかイコナと美羽も同じく叫んだ。天高くこぶしを突き上げて。
「素直に言ってみたら? ほら、そこの子も大きいじゃない」
「え?」
 ベアトリーチェを巻き込みながらセレスティアーナたちをからかうセレンフィリティ。しかしセレスティアーナに見えない角度で銃型HC弐式を操作し、遺跡内部の地理情報を記録しているのだから、さすがと言えばいいのか何なのか。
 物見遊山なふりをしているようにも見えるが、本気でセレスティアーナたちとのやり取りを楽しんでいるようにも見える。
「セレン! 少しは真面目に」
「いいじゃない。そんな力んだって何も見つからないわよ。……それとも」
 パートナーの暴走を止めようと口を開いたセレアナに、当の本人は何食わぬ顔をして近づき、「それとも、嫉妬してるの?」とささやく。
 すぐに身体を話したセレンフィリティーは遺跡について「どうやら居住空間みたいねぇ」とセレスティアーナたちと話し始めたが、時折セレアナにニヤニヤと笑いかける。
 セレアナはむすっとして、誰にも聞こえない声で呟いた。
「知らないわよ、そんなの」
 図星のようである。

「よろしいですか、セレス様。これが虹のタリスマン。『禁猟区』を施してありますので、必ずずっと身につけてください。
 そしてペンタがいざという時守ってくれますので離れないようにしてください。
 あと念のためにポータラカマスクもお預けします。毒はもちろん、水の中でも呼吸ができます。それから――」
「おっ? おお」
 説明しながら、色々なものをセレスティアーナに渡しているのは酒杜 陽一(さかもり・よういち)。陽一も渡しすぎだとは自覚していたが、彼女の安全のためだ。
「あと勝手にどこかへ行かない。あちこち触るのも駄目です。どんな危険があるか分かりませんからね」
 注意事項も付け加える。

 THE・セレスの保護者誕生の瞬間である。
 とでも、放映されたかもしれない。真相を知りたい方は、ロザリンドのところへ行ってみよう!(宣伝)

「あ、そうだった。あのね、これ【おしゃべりティーカップパンダ】。一緒にいると良いことあるんだって。
 だから、絶対何か発見できるよ!」
 美羽が持っている2体のティーカップパンダの1体をセレスティアーナの肩にのっけた。
 そんな様子を見ていたイコナも負けてはいなかった。
「セレスお姉様、これを……パラミタに戻った時に買ってもらった地球さんの高級メロンですわ。他の皆さんもいかがです?」
「うむ、いただくぞ」
「ありがとう、イコナちゃん」
「えと、じゃあもらおうかな」
 切ったメロンを嬉しげに受け取るセレスティアーナと美羽、に戸惑いつつ陽一。他の面々は、苦笑しつつもとりあえず受け取る。

 遠足のようだ、ではなく。完全に遠足だ。いいのか、これで? 楽しそうだし、きっといいんだろう。

 メロンを食べつつ歩いていると、セレスティアーナが足元に段差につまづいた。近くにいたベアトリーチェが支える。
「大丈夫ですか?」
「うむ。助かった」
 その際、メロンが床に落ちてしまった。捨てていくわけにもいかないので、美羽がそれを拾おうとかがんだ。砂やほこりがついてしまっているメロン……突如聞こえた羽音。美羽がそちらを見ると、拳ほどの大きさもある、虫、のようなものが。
 形はハチに似ている。しかしその身体はガラスのように透き通っていて、少し意識をそらすと見えなくなってしまう。
 そのハチが美羽の方へと一直線に飛んでくる。ベアトリーチェがハチに気付き、弓で少しハチの気を引きつける。
「セレスティアーナ様、お下がりを」
 続いて陽一が声を張り上げて、周囲へと鋭い目を向ける。一体とは限らない。深紅のマフラーを伸ばしてセレスティアーナを覆うように展開する。
「はっ」
 ハチの気が一瞬それたのを見て、美羽が蹴りを放ちハチを床に落とす。手加減したためか、まだ生きてはいるそれをサンプルとして回収する。
 一瞬安堵の息をついた後、陽一はわずかながら羽音を聞きつけ、そちらへと拳を突き出した。だがセレスティアーナは気づかなかったようで、美羽の元へと駆けていく。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ……言うなよ?」
 突き出した陽一の拳には、針が刺さっていた。すぐに抜き取り、毒を吸い取り吐き出す。酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)がカメラを置き、セレスティアーナに見えないよう治療していく。
 美羽はそんな様子に気付いていたが、2人の気持ちを察し、笑顔でセレスティアーナに話しかける。

「早速いいことあったね、セレちゃん」
「おおっそうだな」

 セレスティアーナが楽しそうに笑うと、他のみんなもまた、楽しげに笑った。

「あなたのような可愛らしい方といられるだけで、参加した価値があると言うものです」
 そこへエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が入り込み、セレスティアーナの手を取った。
「なっななななな!」
 異性の相手が苦手なセレスティアーナにとって、ただ会話するだけならまだともかく、手を取られたうえに「可愛い」と言われることは、刺激が強すぎたようで……石化の効果をもたらした。
 もしかしたらこれは、彼なりの気遣いで、陽一たちへと目が向かないように……。
「おや、こちらのお嬢さん方もお可愛いですね。私はエッツェル。お嬢さんたちのお名前を窺っても?」
 固まっているセレスティアーナに気付いているのかいないのか。エッツェルは次々に周囲の女性へと、呼吸をするように自然な態度で声をかけている。
 どうやらこれは彼なりの挨拶らしい。
 彼の挨拶がすんだところで、セレスティアーナの石化は解けた。セレスティアーナの左足が一歩前へと出て、彼女が腰を低くする。

「おや? セレスさん、どうし」
「わあああああああああああああああああああっ」
「ごぼぁ!」

 混乱しまくったセレスティアーナによる、究極のアッパーがエッツェルの顎に決まった。その場にいる誰もが反応できないほどの速度――もしかしたら護衛必要ないんじゃ――で行われた妙技。
 それを偶然とらえたものがいた。
「お兄ちゃん、見て見て! 今の瞬間バッチリ撮れたわ」
 治療が終わり、再び遺跡の撮影をしていた美由子が、嬉しげに陽一へ報告した。陽一はただ苦笑する。
 偶然連射で撮影されたそれらの写真には、お手本にしたいぐらいに素晴らしい角度で拳を振り上げるセレスティアーナの姿がばっちりすっぱり写っていた。
 見事な踏み込みに、全身のばねを使った伸びあがり。拳を突き出すタイミングと角度。
 これから作られる格闘技の本に、この写真が使われる……かもしれない。

 ちなみにこの写真はロザリンドの上映会にて流され、みなの笑いを誘ったと言う。