リアクション
* * * * * * * * * * 「なんだか騒がしいわね……まあ、いつも騒がしいけど」 首をかしげたのは、見回りをしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。工事現場で働いている者たちをその声で激励しつつ、基地の構造を把握していたのだが、いつもとは違う空気を感じた。 「誰かに聞いて……っ! ちょっと、どうしたの?」 話を聞こうと人の姿を探していたら、ぶるぶると震える小柄な影を見つけた。気分でも悪いのだろうか。 「変態さんなおさるさんは、駄目なの!」 小柄な影。及川 翠(おいかわ・みどり)が天へと拳を突き上げているのをしばし呆然と見た後、どうやら気分が悪いわけではなく、怒っているのだと理解。その視線の先を追いかければ、掲示板に張られた一枚の紙に目が行く。 「なるほど」 サル型のギフトが『人が恥ずかしがるようなもの』を盗んでいるらしい。その中には下着もあり、翠が言っている変態とは、このことだろう。 (下着を盗むって、変態さんだよね……? 変態さんは、捕まえて成敗するの!) 「ねぇ。私があちこちの抜け道をふさいで追い詰めるから、あなたは罠を張って捕まえてくれるかしら?」 治安(?)維持も大事な役目。そう思ってリカインが話しかけると、翠はようやくリカインに気付いたらしい。不思議そうに見上げてから、目を輝かせてうなづく。 「ありがとなの! じゃあみんなでここに罠作るの」 「ええ。お願いね」 (猿となると当然人間より小さいはずよね。なら) リカインは人では通れないがサルなら通れる個所を見つけ出し、そこを次々ふさいで行った。 「なんとかして、被害の拡大を食い止めたいところね」 翠から話を聞いたはミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、協力を快諾した。 「なるほどぉ〜、おサルさん型ギフトさんですかぁ〜。随分とぉ〜変態さんなおさるさんのようですねぇ〜……翠ちゃんじゃありませんけどぉ〜、お仕置きが必要でしょうかねぇ〜」 「不埒物な泥棒さんなら、多少痛い目に遭ってもらっても問題ないですよね?」 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)と徳永 瑠璃(とくなが・るり)もまた、同意した。 物騒なひと言も聞こえたが。 こうして始まった変態サルの捕獲大作戦。 まず翠と瑠璃が、あえて分かりやすい罠を作り。その奥にミリアとスノゥが判りにくい巧妙な罠を作る。分かりやすい罠を避けたら、その先に……という二段構えだ。 「うん。こんなものかしら」 「変態サルさん、捕まえるのー。お仕置きなのー」 「お仕置きです!」 「捕まるとぉ〜、良いですねぇ〜。たっぷりとお仕置きもしないといけませんしぃ〜」 罠を作り終えた4人もとへ、リカインから連絡がはいる。だいたいの抜け穴は閉じたらしい。そして目撃情報から、サルがもうすぐここにやってくるだろう、とのこと。 4人が身を隠し、目をとがらせてサルを待ちかまえていると……ヤツはきた。 彼女たちの想像よりも小さく、愛らしい目をしている。だがヤツは、罠に設置されたパンツを遠慮なくつかみ、逃走。 話に聞いていた通りにすばしっこく、また賢い。翠たちの罠を飛び越える。 だが罠はもう一つ。サルの足が沈む。 「キキっ?」 やったか? 喜びかけたのもつかの間、サルは尻尾の先を器用に使って、落し穴から脱却。そのままものすごいスピードで去っていく。 「待つのー! 変態さんなおさるさん」 「待ちなさい!」 もちろん、みすみす逃す彼女たちではない。全速力で追いかけ始めた。 * * * * * * * * * * 「総合病院。どこまで進んでるかなぁ」 期待と不安の入り混じった声を上げた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、「どう思う?」とパートナーを振り返る。 パートナー、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は「ふぇっ?」と驚いて東雲を見た。 「ん? どうしたの?」 「ボ、ボ、ボクのアレが……ボクのアレがないんだよ!」 今度驚いたのは東雲の方であった。慌ててポケットを逆さにしたり、カバンをさぐったり、と忙しそうな様子を目をぱちぱちさせながら見つめる。 「アレって、何?」 「え、……な、なんでもいいでしょ! ああっそんなことより、誰だ盗んだ奴はあああああ!」 どうやら2人は、まだサルのことを知らないようだ。 「探してくる!」 止める間もなく、リキュカリアは走り去って行った。なんとしてでも、早急に取り返す必要があったからだ。 何を盗まれたか? (東雲の写真だなんて言えるかぁあ! しかも女装時のだなんて言えるかぁあ!) たしかに言えるわけがない。しかし、なぜそんなものを持っていたのかは謎である。 置いていかれて途方に暮れた東雲は、どうしよう、と首をかしげた。そんな彼の目の前で同じように首を傾げるサル。背中には緑色の風呂敷。 「でも泥棒って誰だろう……あれ? こ、こんなところに可愛いお猿さんが……!」 『ウキ?』 東雲の瞳が若干、どころか眩しいほどに輝いた。 「な、撫でて良いですか? 抱っこして良いですか? 編みぐるみのモデルにして良いですか!?」 矢継ぎ早に問いかけた東雲に、サルは不思議そうな顔をしたが、東雲が差し出した指ちろっと舐めた。ぎゃーっと内心で嬉しい悲鳴を上げる東雲。 そっーと抱き上げる。 「可愛いなぁ。……でもキミはどこから来たの?」 サルが東雲にこたえるように、とある方角を指差した。東雲がそちらを向く。 「変態さんは待つなのー」 「もう泥棒なんてさせないわよ」 「ふふ、お仕置きですよぉ」 「成敗です!」 「貴様かぁっ我がオリュンポスの作戦計画書を盗んだのは!」 「下着泥棒!」 「素直に盗んだした……盗んだものを返すのです」 鬼気迫った顔をされた方々がこちらへ向かった来るではありませんか。――正直言おうか。とっても怖い。 「良く分かんないけど、ごめんなさい〜」 「あ、ちょっと!」 そして東雲はサルを抱えたまま、半泣きで走りだしたのであった。 |
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