校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 空から落ちてきた出会い ■ あれは、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が地球で旅をしていた頃。 世界中の国を旅して、その国の人の生活や生き方に触れながら、忍は自分の夢ややりたいことを探していた。 現地の人と触れ合う自由気ままな旅は楽しかった。 けれど、幾つの国を回っても、忍の夢は見つからなかった。 このまま旅を続けていても、自分の夢は見付けられないかも知れない。 そんな考えが兆し、旅を止めようかと忍は日本に戻ってきた。 どこに行けば自分の夢は見つかるのだろう。 そう思いながら忍は海のある方角を眺めた。 国土からは見えないけれど、日本領海の上空にはパラミタ大陸が浮かんでいるという。 地球ではないあの大陸なら、ここでは見付けられないものも見つかるのではないか……。 「けど、パートナーもいないし、パラミタに行くなんて夢のまた夢だな……」 契約していない地球人は、パラミタに拒絶される。 今の自分ではパラミタに行くことは出来ないと、忍は肩を落としてとぼとぼと実家に向かった。 その途中。 古びた神社の前を通りかかった忍は、ふと気が向いてお参りをしていくことにした。 困ったときの神頼み。 それだけでパラミタに行きたいという夢が叶うとは思えないが、気休めにはなるだろう。 苔むした鳥居をくぐり、ゆるゆると歩いて行くと。 空がきらっと光った。 何だろうと忍は目を凝らす。 きらきらと光を弾く何かが、空から――落ちてくる。 「こっちに向かってる!?」 焦るうち、その光は神社の境内に落ちた。 落下音と振動が忍の全身を揺るがせた。 何が落ちてきたのか確認する為、忍は神社の裏手に走り込んだ。 そこにあったのは、細長い形の透明なものだった。 「水晶、か? 何でこんなものが……」 近づいてみると、水晶の中には人影があった。 長い茶の髪の、かなりの美少女だ。目を閉じて眠っているように見える。 「空から落ちて……まさか、この水晶の中にいる女はパラミタ人なのか」 思わず忍が触れると、空から落ちた衝撃にも無傷だった水晶は、簡単に割れ落ちた。 砕けた水晶が輝く中、少女はゆっくりと身を起こした。 「あなたが封印を解いてくださったのですか?」 質問された忍は迷った。 自分が水晶に触れたのは確かだが、これが封印を解いたということになるのだろうか。けれど、少女が目覚めるきっかけは恐らく、自分の行動だと思われる。 「あ、ああ……そうなるのかもな」 混乱しながらも忍は首を縦に振った。 「ありがとうございます。私は……」 少女は嬉しそうに礼を言ったが、そこで言葉を途切れさせた。 「私は……誰、なのでしょう……」 「分からないのか?」 忍の問いに、少女はこくんと頷いてうなだれた。 「どうして水晶の中に封じられていたんだ? 名前が分からないことはそれと何か関係があるのかな?」 「分かりません……」 気が付いたらここにいて、それ以前の記憶が無いのだと少女は答えた。 「俺も、水晶が落ちてくるのを見ただけだからな……あ、俺の名前は桜葉忍だ。よろしくな」 「よろしくお願いします」 「おまえは……って名前がないと不便だな」 「はい……」 「俺がつけてやろうか」 忍はしばらく考えた後、こんなのはどうだと提案してみる。 「東峰院香奈、という名はどうだ?」 「東峰院香奈……良い名前ですね」 「気に入ってくれたなら良かった。厭じゃなかったら本当の名前を思い出すまで、この名を使っていてくれ」 「はい、そうさせていただきます」 名前をつけてもらい香奈となった少女は、丁寧に頭を下げた。 香奈は記憶が無いため、忍はこの世界のことを簡単に教えてやった。それとともに、自分のこと……夢ややりたいことを探して旅をしていることなどを話すと、香奈は興味をもったようだった。 「私もあなたの旅について行ってもいいですか?」 他にすることも思いつかないし、一緒にいけば手助けも出来るだろうという香奈の申し出を、忍は二つ返事で受けた。 「うん、別に構わないよ。1人で旅をするより、誰かと一緒に旅をするほうが楽しいしな」 「ありがとうございます!」 忍の返事を聞いた香奈は、花が咲くような笑みで礼を言った。 忍はその後、香奈とパートナーとなり、パラミタに受け入れられる契約者となった。 世間知らずのお嬢様のようだった香奈もこの頃には少し打ち解けてきて、この契約を機に、 「しーちゃんって呼んでもいい?」 と、忍のことを渾名で呼ぶようになった。 2人はパラミタに行き、一緒に自分のやりたいことや夢を探し。 そして――恋人同士になり、近いうちに結婚する予定でいる。 香奈と出会えたことで、忍の世界は広がり、色褪せかけていた旅は以前よりいきいきと蘇った。 楽しくてたまらない今の状況も、香奈との出会いがあったからこそ。 龍杜で過去の出会いを振り返ったこの機会に、忍は心から思う。 香奈と出会わせてくれた運命に、お参りをする前に願いを叶えてくれたちょっとせっかちな神社の神様に、そしていつも明るく自分を支えてくれる、今は桜葉 香奈(さくらば・かな)となった彼女に。 ――ありがとう。 と。