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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【15】



「ほうほう?」
 心の猫耳をぴこぴこさせて、涼司の戦いぶりを牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は鑑賞していた。
 涼司とはとても興味深い存在に映ったようだ。
 何せ、あれほどの敵を相手にしてほとんど傷付くこともなく暴れ続ける戦闘能力。
 彼女が全力を試せる数少ない相手のように思えた。
「傾注、我らの今を試していい相手、状況、揃っているようです。参りましょう」
「是非もない、またあのリングを使わねばならないか」
 ユニオンリングでシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)と合体する。
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を魔鎧として装着。
 潜在開放で自己強化。封魔の首輪解除。魔力解放で、銀髪に黒髪の混じった姿に変貌した。
 これがアルコリアの第二形態だ。
 ミラージュとポイントシフトを駆使し接近した彼女は涼司に戦いを挑む。
「僕が正面から全力で戦いに行っても良い相手、力の制限も今回は特になしか。この機会に感謝を」
「さぁさぁ、死者が蘇る命の安いこの世界。死者が生き返ると思って歩を止めないか」
 鎧となったラズンが笑う。
「限り有る命を懸命に生きる。正しいかな? きゃはは☆ 死者が蘇っては限りもなにもなにも無い。限りを無くすため懸命になるか。命とは生とはなんぞや? くきゃはは」
「邪魔をするな……!!」
「自分のせいで、それは責任なのか。宜しい事だ、死人に口なし。更新されない事象を自分で更新していく、真意とはかけ離れても。前に進むには違いない。皆がお好きな前向きだ、きゃはっ☆」
「黙れ!!」
 涼司は地面を力づくで剥がし、手裏剣の如く投げつける。
「戦場の舞踏会だ」
 アルコリアはエンシャント・ブレスで大地の手裏剣を吹き飛ばし、接近。
 魔剣ゴッドスレイヴによる剣姫の閃き。斬撃を叩き付けるや、回し蹴りで涼司の顔面を蹴り上げる。
「!?」
「楽しく踊ろう。今日は最高の日だ」
 宙に浮いた彼の身体に無数の剣閃で斬り刻む。しかし、斬撃は走れど彼の肉体には傷ひとつ付かない。
「どけっ!!」
 涼司の放ったパンチで、アルコリアは吹き飛ばされた。
「……なるほど。手加減が過ぎたかな。
「マイロード! 我が力お使いくださいませ!」
 冒涜の魔儀にて、そこに現れたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)を吸収する。
 黒髪に戻り蒼い瞳に、黒色の翼を鮮血色の翼に変え第三形態となった。
 禍々しい闘気が氷の世界を侵食し、空間が不気味に歪むのが、肉眼でも見て取れる。
「赤き翼の祝福を。我に加持を」

「どんな化物も無尽蔵の体力ではない。肉体は生身だ。奴の体力を削れ。削って削って削りとれ」
 ダリルはイコン部隊を展開、戦車隊、無敵艦隊と共に砲撃に当たらせる。
 アルコリアを援護するように、砲弾の雨を涼司の上に降り注がせた。
「手を休めるな。息を吐かせる間もなく、彼の歩を止めろ」
 夏侯 淵(かこう・えん)はゴッドスピードをかけ、それぞれの反射と行動速度をブーストさせる。
 そして自身は、神威の矢を連射で、おそらく最も攻撃が危険と思われる涼司の右腕に集中。
「邪魔だ!!」
 腕のひと薙ぎで竜巻が巻き起こり、矢は吹き飛ばされた。
「なんという奴だ……!」
 その上、無数の矢は刺さることなく、彼の腕に弾かれ散らばっている。
「構わん撃ち続けろ! 少しでも奴の注意を逸らせればいい!」
 冷静に指示を出すダリル、だがその表情は苦悶に満ちていた。
 ――すまない山葉。花音があんな事になったのは、父が……。
 ぐっと拳を握りしめる。
 ――だからこそお前をここで止めてみせる。お前を行かせては、花音に顔向け出来ない……!
 砲撃の爆炎の中から涼司は飛び出し、上空を飛行する戦艦を殴りつけた。
 ゴオォォォォン! と空気を震わす衝撃が装甲を一瞬にして粉砕し、真ん中で艦が折れ曲がる。
 まわりの艦も無事では済まない。拳の生み出す衝撃波が周囲の艦を吹き飛ばし、谷に叩き付ける。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「!?」
 涼司は折れた艦を抱え、迫るアルコリアに叩き付けた。
 艦の大爆発に巻き込まれ、彼女は全身を灼熱に包まれる。
 身を焼く炎と爆発の衝撃は多大なダメージをもたらし、彼女の視線は朦朧と空中を彷徨う。
 けれどそれも数秒のこと。震えていた眼球はピタリと止まり、一点、涼司を見つめる。
「……ふふふ、楽しい。実に楽しいわ、山葉さん」
 肉体のダメージを、戦闘の高揚感が遥かに凌駕し、彼女の痛覚はほとんど麻痺していた。
「ああ、嬉しいな。他を顧みず、一つの事だけに集中していいなんて、それだけしてもいい相手なんて」
 ゾディアックフローにてゾディアックローブを覚醒。
 呼神の槍と震魂槍スピリットドライブを扱うアームデバイスとして展開させる。
 鼠から龍の姿に覚醒させた針龍『シェリダー』の力を乗せ、刺突と槍の投擲を織り交ぜ攻撃を放つ。
「反撃? 隙があればご自由にどうぞ?」
 マレフィキウムによって加速度的にアルコリアの力は上昇する。
 剣姫の閃きで現れた光の刃が、怒濤の勢いで涼司の身体に突き刺さり、その身を串刺しに……!
「ぐうっ!!」
「ようやく声を聞かせてくれたわね、ふふふっ……」
 覚醒状態となったアルコリアのレギオン・オブ・ドラゴン……!
「我は一にして数多、総てを収束した一撃受けてみなさい!」
 龍の吐く閃光が涼司を、そして、その周辺に存在するもの全てを飲み込み、焼き付くす。
 逃げ遅れたイコンや戦車、戦艦は一瞬にして蒸発した。
 ……だが。
「ふんっ!!」
 涼司の発した気で、それらは呆気なく一瞬にして掻き消された。
 アルコリアも怪物なら、その前に対峙する彼もまた人の世の理を撥ね付ける怪物。
 アルコリアはうっとりとその愛おしい男を見つめた。
「ああ、素晴らしいわ。貴方の死ぬところが早く見たい……」