百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

地球に帰らせていただきますっ! ~2~

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ! ~2~
地球に帰らせていただきますっ! ~2~ 地球に帰らせていただきますっ! ~2~ 地球に帰らせていただきますっ! ~2~ 地球に帰らせていただきますっ! ~2~

リアクション

 
 
 
 誰が呼んだかコンクリートモモ
 
 
 
 時計の針が午後8時を告げようとしている。
 チッ、チッ、チッ、チッ……正確に刻まれていく時。
 それを柱の陰で秒読みする影1つ。
「まだだ……まだ、早い」
 ギヌロ。
 目的のブツを鋭い目で確認すると、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)は時計の針に視線を戻す。
 チッ、チッ……そして時計の針が8時を指した途端、柱の陰から飛び出すと素早くソレをかっさらった。
「パック寿司ゲーット!」
 勝利を確信した声。
 しかしそれは一瞬の後、驚愕へと変化する。
「ちょっと……、半額になってないじゃない!」
 近くにいる店員を捕まえて問いただしてみれば、
「あ、悪いっスね。年末年始はタイムセールしないんっスよ」
 金髪に鼻ピアスのバイト少年がまったく悪いと思っていない口調で答える。
「それ、買わないんなら元の位置に戻しといてくださいよ」
「か、金ならあるのよ」
 モモは定価のままのパック寿司を買い物籠に入れると、これみよがしにレジに向かった。
 
 帰り道、モモは予想外の出費に財布を覗いた。
 親の仕送りを断ってバイトで生計を立てると誓ったのだけれど、年末の道路工事の仕事で得た金も残り少ない。ため息をつこうとした途端。
「にょっ!」
 つまづいてパック寿司をひっくり返してしまった。
 味には変わりないからと、ぐちゃぐちゃになったパック寿司を持ち帰り、パートナーのハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)との侘びしい年末。せめてお茶でも入れようかとモモが席を立っている間に、
「ん〜、パック物のわりにはなかなか美味ネ〜」
 ギルティに寿司ネタだけをきれいに食べられてしまい。
「あ〜っ! この馬鹿猫!」
 崩れシャリだけの寿司の哀しさに、もうおうち帰る……、とモモは実家に帰ることにした。
 
 熊田家は和風の大豪邸だ。ギルティには猫のふりをさせておいて、何食わぬ顔で実家に戻ったまでは良かったけれど、すぐに父の熊田 巌に見つかった。
「ここに座りなさい」
 びしっと畳を指されて、モモとギルティは並んで座る。
「よくぞ帰ったな。熊田家の娘としては、当然もうエースパイロットになったんだろうな」
「なれるかよ、整備科だっつうの……」
「まったく、お前は何をやっても駄目だな。さっさとパイロット科に転科しなさい!」
「あんたら自分の娘、戦闘の最前線に立たせたいのかよ」
 ギヌロ、ギョロリとにらみ合った後、巌はしかたがない、と渋面を作った。
「校長に手紙をしたためておいてやる。1千万ぐらい包めば大丈夫だろ。まったくお前は自分じゃ何もできない屑だな」
 モモだけでは飽きたらず、母親に向かっても巌は悪態をつく。
「桃はお前に似たからこうなんだ。心が弱いのはたるんでる証拠だ!」
 母親はしくしくと泣き出した。反論もせず、ただただ泣き続ける。
 そんな中、真っ先にきれたのはギルティだった。
「この男……頭部を偽装している罪、ギルティ!」
 それは父親への有罪宣告。今、父の前でコントラクターとしての能力が発揮される!
「ライトニングブラスト!」
 閃光に包まれ、親父のヅラが一瞬で吹き飛んだ。
「熊田桃じゃないわ……あたしの名は、誰が呼んだかコンクリートモモ!」
 ズガガガガ、ドゴォン!
 モモは削岩機で壁を破壊し家を出る。
「……二度と帰ってこないから」
 捨てぜりふを残し、モモは外に走り出た。
 ――彼女が何故普通に玄関から出ないのか、それを知るのはモモ自身と地面に散乱するコンクリート片だけ……なのだった。