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手を繋いで歩こう

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第1章 一緒にお買いもの

 先月より少しだけ、暖かくなっていた。
 空京の一角を飾るイルミネーションも、雰囲気も。
 先月より少しだけ、穏やかな優しさと暖かさを感じる、色になっていた。
 ホワイトデー大感謝祭が行われている街の中心に、広場が存在している。その広場には、大きな木が立っていた。
 まだ葉のついていないその木には、白い雪のような綿や、金や黄色のお星さま、沢山のお菓子に、ピンク色をしたハートの飾りが、散りばめられていた。
 そんな街の中を、天司 御空(あまつかさ・みそら)は、思いを寄せている水鏡 和葉(みかがみ・かずは)と手を繋いで、歩いていた。
 恋人同士、ではないのだけれど。
 はぐれたりしないようにと、迎えに行って。
 道を歩くときにはこうして必ず、彼女の手を握りしめていた。
 何せ、前回のデートの時には、和葉は待ち合わせの場所にたどり着くことが出来なかったのだ。
「ありがとう、御空先輩っ! ……ボク今年の目標『道に迷わない』でいい気がしてきた」
 そんな風に、微笑と苦笑を見せる彼女に、御空はくすりと笑みを返した。
「あ、この服いいかも?」
 和葉が指差したのは、ショーウィンドーの中のマネキンだった。
 若草色のシャツに、ジーンズ。
 シンプルだけれど、春のすがすがしさを感じる服を着ているマネキンだった。
「では店に入ってみましょう。和葉さんに春物の衣装、見立てていただきたいですし」
「え……? ボクが御空先輩の洋服、見立てていいの?」
 お願いしますと頷いて、御空は和葉と手を繋いだまま、一緒に店の中へと入る。

「んーっと普段着てるのはモノトーンで割とフォーマルな感じの服が多いんだけど、カジュアルなのだとこんな感じのとか?」
 店の中を回り、御空はいくつか服を並べて和葉に見せる。
「和葉さんはどんなのがお好みです?」
 そう言って、御空は首を傾げた。
「うーんと」
 並べらた服の中から、和葉はベージュのフード付きジャケットを手に取った。
「これ……うん、ボク好きかもっ」
「では、こちらに決めます。……どうでしょう」
「似合う似合う!」
 鏡の前で合わせた御空に、和葉はそう微笑みかけた。
「ところで……」
 自分用の服を籠の中に入れた後、御空は店内を見回して女性物売り場の方に目を向けた。
「和葉さんにこんなの如何です?」
 そして、御空はマネキンを指差し、近くにかけられていた服を手に取り、にっこり微笑んで和葉の方へと向けた。
「え……」
 向けられた服に、和葉の表情が固まる。
 マネキンは、桃色をベースにした可愛らしいフリルのワンピースに、白くてふわふわで柔らかそうなカーデガンを纏っていた。
 御空が手に取った服は、桜色のスプリングコートだ。
「……うん、ごめんねっ」
 向けられた服に触れることもなく、和葉はとっても良い笑顔で遠慮する。
 男の子として育てられた和葉は、女の子らしい格好にはまだ抵抗があるのだ。
「ボクには似合わな……あ」
 和葉の目に、パステルカラーの裾ティアードパーカーワンピ―スが映った。
 迷いながらも近づいて、和葉はワンピースを手に取ると、少し心配そうに御空の方に目を向けて、彼を見詰めた。
「これなら着れるかも。似合うと思う……?」
「とても似合います。すごく可愛いですよ」
「う……っ。あ、ありがとっ」
 わずかに照れながら、和葉はそのワンピースを購入することに決めた。

 買ったばかりの服に着替えて、2人は再び街に出て。
 ジュエリーショップや、ゲームセンターに立ち寄った。
 和葉が欲しがっていたのは、翼のような形の、ブルーの宝石がついたピアス。
 同じものを、御空も購入した。
 それから一緒にゲームセンターでプリクラを撮って、最後に抽選会場へと向かう。

「ボク、このガラガラも初めてみたかもっ」
 和葉は目を輝かせながら、抽選機を見詰める。
「それでは、和葉さんが全部引いてください」
 店でもらった抽選券をすべて、御空は和葉に渡した。
「うん! でも、折角だし……御空先輩、一緒に回してみないっ?」
「そうですね、では一緒に」
 和葉がハンドルを掴み、彼女の手に御空が手を添えて、一緒にゆっくりくるりと回した。
 3回回して出た玉は、白2つと、黄色1つ。
「おめでとうございます。4等が当たりました」
 担当者がお菓子2袋と、木の葉の飾りがついたストラップを2つ取り出して、和葉と御空に差し出した。
「あ、お揃いだ。それじゃ和葉さん好きな方どうぞ?」
 白とピンクのストラップだ。
 御空の言葉に少し迷うものの、御空にピンク……よりは、自分の方が合うのかなと、ピンクのストラップを選んだ。
「お揃いって……何だか特別な感じかもっ」
 そんな和葉の言葉に、御空は白いストラップを受け取りながら強く頷く。
「では、帰りましょうか。もう少し遊んでいたいですけれどね」
 御空ははぐれないように……それだけの理由ではないけれど、和葉の手を優しく握りしめて、一緒に歩き出す。
「うん、やっぱり御空先輩と一緒だと、楽しく過ごせるねっ! 御空先輩もそうだと嬉しいな」
 そう満面の笑みを浮かべる和葉に、御空もすごく嬉しそうな笑みを浮かべて。
「俺の方こそ、今日はすごく楽しかったです。……また、誘ってもいいですか?」
「勿論っ。楽しみにしてるね」
 和葉は繋いでいる手を、子供のようにぶんぶんと振りたくなっていく。
 とっても楽しくて、心が凄く弾んでいた。
 今日、2人で接近して撮ったプリクラは、ほんの少しだけ互いに緊張していたけれど。
 次はきっと、今のような笑顔で写ることが出来そうだ。