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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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 幕間 むきプリ君再登場!

 来週は雨。そう言われているだけに園内は賑わっていた。遊歩道沿いには、様々な屋台も軒を連ねている。何か、イルミンスールの新制服を着た筋肉むきむきが可愛い子限定でピンク色の液体を配りにやってきていたが、下心が全く隠せていない為に可愛い子には敬遠されまくって殆どさばけていないようだ。
「どうだ! 桜色の桜味の濃厚なジュースだぞ! 花見にどうだ? そこの女! どうだ、うまいぞ! そこの……あ、そこの……」
 誰1人釣れないままに独りぼっちで液体――ホレグスリを必死こいて配る姿には哀愁さえ漂う。
「ん? お前達カップルだろう用は無いどこか行け。そして不幸になれ。……ぐはぁ!」
 しかも、やっと来たカップルは邪険に扱ってしばかれたりしている。バカだ。そんなあからさまに差別して人が寄り付くわけもない。バカだ。
 ということで、久々の登場ムッキー・プリンプトことむきプリ君である。逆だった。むきプリ君ことムッキー・プリンプトである。
 そんな孤独なむきプリ君に近付く者が1人。和原 樹(なぎはら・いつき)だ。
「ムッキーさん」
「……おお、俺のことを知っているのか? では、ホレグスリを取りに来たのだな。男だが……、それに免じて譲ってやろう。何本だ? このコップのまま持って行くか?」
 無視されたりどつかれたりしたのが効いていたのか、名前を(しかも本名を)呼ばれたということでむきプリ君はご機嫌になった。
 ずいずいと迫るむきプリ君に多少引き気味になりつつ、樹は言う。
「いや、ホレグスリじゃなくて……。噂で聞いたんだけど、安心薬が欲しいんだ。ムッキーさんを通せば手に入るかなと思って」
「……む? 安心薬か? そんなものを何に……お、そうかそうか。なるほどな、そうかそうか……」
 勝手に何かを想像して勝手に何かを結論付けたようだ。迷惑なことである。
「そうだな、人生色々なことがある。安心薬は必要だ。毎日必要なら専属契約もするぞ。どうだ?」
「あ、1本でいいんだけど……」
「ん? 1本で足りるのか? お試しというやつだな。分かった」
 そう言うと、むきプリ君は足元の特大ドラムバッグから安心薬を取り出す。ホレグスリと大して見分けがつかないので透明のビニール袋に『安心薬』という紙を貼っていたりする。ちなみに、これは自分用である。そう、むきプリ君にも色々ある。登場の度にぼこられ、9割殺しにされ借金を作り(自業自得)、果ては十二星華にまで手を出してまたもやボコられ、たまに尻の穴も痛くなり、終いには魂云々をMSが優先した結果登場が皆無になり、あまりのモテなさっぷりに陰で枕を濡らす日々(本当かよ)。ということで、安心薬はむきプリ君にとって必需品なのだ。
「受け取るがいい!」
「……ありがとう」
 無駄に尊大なむきプリ君から無事安心薬を受け取ると、樹は待っていたセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)の所に戻った。フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は一時的にどこかに行っている。
「セーフェル、俺が飲む甘酒に、こっそりこの薬を入れてくれ」
「マスターのにですか? あの、この薬は……」
 流石に怪訝に思ったのか、セーフェルは薬を手に困惑の表情を浮かべる。樹は、慌てて付け加えた。
「あ、変な薬じゃないから。気持ちが落ち着くだけで」
「落ち着く……、それならいいですけど……でも、どうしてそのようなものを?」
 桜を見に来て、自分の飲み物に薬を混ぜろ……というのはどうにも解せない部分がある。のんびりとしたお花見に必要なものとは思いにくいけれども。
 そんなセーフェルに、樹は少し目線を落として考え考え話し始める。
「えっと……、なんていうか、もう少しフォルクスのことを落ち着いて受け止められるようになりたいんだ。俺が変に動揺するから、あいつもなんか遠慮してるだろ。今はその方がいいけど、この先もずっとそれでいいかっていうと……。
 ……俺、別にあいつのそういう態度に嫌悪感があるわけじゃないしさ」
「……ああ、確かに……時折わざと茶化したりしている感じはします」
 セーフェルも、何か思い当たるのか束の間回想するようにした。
「フォルクスもあれで案外、繊細なところがあるんですね」
 柔らかく微笑むと、樹はちょっと照れたように彼に言った。
「でももし、調子に乗って変な方向に行きそうだったら止めてくれ」
「分かりました。ちゃんと様子を見ておきますから」
 そこに、フォルクスが帰って来る。樹の後ろから抱きしめるように。
「待たせたな樹、寂しかったか?」
「わっ!! フォ、フォルクス……! じゃ、じゃあ……行こうか」

              ◇◇◇◇◇◇

 そうして樹達が歩き出した頃。
「あなたがむきプリ君さんですか?」
 むきプリ君の下に待望の女子、藍玉 美海(あいだま・みうみ)がやってきた。しかも、女子というだけではなくお色気まで備わっている。
「お、おおっ! そうだ。むきプリ君さんだ!」
 またもや名前を呼ばれ、むきプリ君は悦びに目を輝かせた。『君』の後に『さん』をつけられるという妙な呼び方も気にならない。というか、とうとう自分でむきプリと言ってしまった。
「先日は、うちの沙幸さんが大変お世話になったようですわね」
「沙幸? ああ、あいつか」
 むきプリ君はかつて、空京にてホレグスリの試飲会をすると沙幸に声を掛けられていた。その時に、臨時アジト(ただのホテル)の場所を教えたのを覚えている。
 美海は、艶しい流し目を彼に向けてきた。何か、怪しく妖しい。
「ところで……この花見会場を桜色に染めてみたいと思いませんか? だからホレグスリを50本……いえ、30本ほど融通頂きたいのですが……」
「ここを桜色に?」
 エロ方面に敏感なむきプリ君は、すぐに意味を悟った。
「そうか……! お前もこちら側の人間なんだな! いいだろう。30本くらい持って行くがいい! あ、安心薬と間違えないようにな!」
「ありがとうございます」
 美海はむきプリ君のバッグから自分の鞄に瓶を移した。その時、はぐれたと思ったのか沙幸からメールが入る。
「ふふ、入手したホレグスリをジュース1:ホレグスリ9のカクテルにして皆さんに飲ませてしまいましょう」
 ――合流場所に向かいながら、美海はそっとほくそ笑んだ。