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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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リアクション

「せ、セラさん? ここって試着部屋だよね?」
 リビングで休んでいた琳 鳳明(りん・ほうめい)は、パートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)に、試着用の部屋に連れ込まれた。
 ハンガーや、籠の中に入れられた服、主に下着類を見て、鳳明はそわそわしだす。
 更に、セラフィーナはなんだか怪しげなスーツケースを持っている。
「鳳明も『恋する乙女』なのですから、もう少しお洒落をした方がいいと思います。まぁ、確かに親に仕送りもしている訳ですし、金銭面はそれほど豊かではないですが……。それにしたって鳳明は私服が少ない」
「……いや確かに私、私服少ないけどさ。お金もないし、それに割と制服で十分かなって……ダメなの?」
「頻繁に学校外へ制服で出かけるのはどうかと思います。そして……その色気のない下着!」
 びしっとセラフィーナが鳳明を指差す。
 思わず服を押さえる鳳明。
「って! 何で私の下着知ってるの!?」
 ちゃんと服を纏っているので、下着が見えるわけはない。
「あ、そかセラさんが洗濯してるもんね、そりゃ知ってるよね……」
 はふっと鳳明は息をつく。
「ほら、着替えて、着替えて」
 そんな彼女の服を、セラフィーナは手伝って脱がしていく。
「というか何で晒なんて巻いているのでしょう?」
 鳳明の体には、晒が巻かれている。これが下着だ。
「だってほら、包帯代わりになったりとか晒って色々便利なんだよ?」
 鳳明のそんな言葉に、セラフィーナが大きなため息をついて首を左右に振る。
「……ダメなんだね、うぅぅ」
「派手な物をとは言いませんが、もう少し何とかならないでしょうか」
「うーん」
 鳳明が考えている間に、巻いていた晒が外されていく。
 露になっていくのは、女性にしては逞しい体。
 修練の成果も相まって筋肉質で引き締まった体となっていた。
「だってほら、もっと柔らかさというか、えっと何て言うか……。こんなお腹割れてるのって、女の子っぽくないじゃない?」
 女性らしい格好がしたくないわけじゃない。
 だけれど、今の自分には似合わない気がして。
 試着をしている他の女の子らしい体つきの女の子達を見て、小さくため息をついた。
「……で、な、なななななにこれ!!??」
 気付けば、鳳明はセラフィーナにシースルーのブラジャーをつけられていた。
「見せるものじゃありませんし、こうして上着を着れば……」
 セラフィーナは、キャミソール、薄桃色のワンピースと着せていくが、いずれもシースルー。
「こ、この姿で外を出歩いたら、犯罪だよっ!」
「……確かに、そうですね」
 肌の色が透けてしまっている。
「残念ですね、可愛いのに透けてしまうなんて……」
「わざと透けるように作ってあるみたいだけれどね。そうだセラさん着てみなよ! その服の上からで大丈夫だよ……セラさんは私のような体つきじゃないしね」
 言って、鳳明は今脱いだ、シースルーのワンピースを、セラフィーナに着せていく。
「え……? 確かに、ワタシの方が似合うかもしれませんね……」
 ワンピースを纏ったセラフィーナは鏡に映った自分の姿を見て納得する。
「鳳明にはどんな服が似合うのでしょうか……ご意見いただけますか?」
 セラフィーナは、鏡の前で色々な際どい服を試している舞香と、綾乃に尋ねてみた。
「そうねぇ、鳳明お姉様の場合、体型を隠そうとせずに、こういったぴっちりした服なんかいいと思うの」
 舞香が選んだのは、チャイナドレスのような服だった。背中が大きく開いており、深いスリットが入っている。
 色は薄い金。牡丹の刺繍が施されている。
「となると、下着はこれかな。紐パンか、ハイレグ〜」
 綾乃が選んだのは、白い紐のショーツと、ハイレグのショーツ。
「こ、こんなの着るの……?」
「選んでいただいたのに、こんなのとは失礼ですよ」
「そ、そうだね。ごめん! 素敵な服だよね、着てみるね」
 鳳明はどきどきしながら、少し派手なその服を纏っていく。
「セラフィーナお姉様はワンピースとっても似合ってるけれど、もうちょっと色々強調した方がいいと思うの!」
 舞香はセラフィーナに『寄せてあげて谷間を作る』タイプのブラジャーを渡す。
「中の服はこっちに変えてね」
 綾乃が差し出したシャツは、胸元が大きく開いている。
「そっちも素敵だね。セラさんも着替えようねー」
 こそこそ下着をつけながら、鳳明はそう言った。
「……そうですね。試させていただきます」
 そして、セラフィーナが服を脱ごうとワンピースに手をかけた時だった――。
「出たなっ!」
 カーテンが僅かに揺れたことに、舞香が気付いた。
「現れたのね、あ、でも武器は隣の部屋」
 綾乃は武器になりそうなものを探すが見つからない。
「で、でたって何が?」
 鳳明はわたわたと服を着ようとするが、子供のように絡んでしまいきちんと着ることが出来ない。
「見つかったのなら仕方ない。今纏っていたその下着……いただくぞ!」
 パンツマスクで顔を隠した男が、カーテンの裏から姿を現す。
 予め部屋の中にいたわけではない。
 運搬を手伝ったパラ実生がバルコニーを伝って、窓から潜入したのだ。
「わわわわわ!? こ、来ないで来ないで来ないで!?」
 鳳明は服を被ってばたばたしている。
 そしてずぼっと服から顔を出すと、ぎゅっと拳を固める。
「っていうか見たもの全部忘れちゃえー!」
 パンツに向かって突っ込んでくる男達のコメカミを狙って則天去私。
「最低ッ!」
「最悪ーッ!」
 舞香と綾乃はそれぞれ男達の急所を蹴り上げた。
 あまりにも強烈な攻撃に、快感を感じることもなく男達は奇妙な悲鳴をあげて倒れていく。
「……これが役に立ちそうですね」
 セラフィーナが手に取ったのは、鳳明のしていた晒だった。
 鳳明に殴られ、星を飛ばしながら目を回している変態と、舞香と綾乃に急所を蹴られて泡を吹いている男を全員まとめて縛り上げておく。
「ううう……記憶消えたよね……消えた、よね……」
 鳳明は完全に白目をむいている男達をガクガクゆすっている。
「ケダモノ!」
「鬼畜!」
 舞香と綾乃はげしげしげしげし男達を踏みつける。
 意識がなくても踏みつける。
 そうして、彼女達は変態達の息の根を止め……る直前に、騒ぎを聞いて駆けつけた優子達に止められたのだった。

「……というわけで」
 騒ぎが治まり、一息ついたところで。
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が、寝室の片付けをしている優子に問いかける。
「優子さん……あなたの下着を貰えないかしら」
「サイズが合わないだろ」
 即答に、亜璃珠の眉間に軽く皺が浮かぶ。
「それはどういう意味かしら。いえ、良くとらえておくわ。使うために欲しいわけじゃないのよ、下心があるわけでもないわ。私はそれより下着の下の柔肌に興味があるし……いつか一緒にお風呂でも」
「お前は一体何を考えてるんだ……?」
 優子は軽く苦笑する。
「……話が逸れたわね」
 咳払いをして、亜璃珠は話を続ける。
「別に本物や使用済みでなくてもいいの、「限りなく本物に近い」ものが欲しいだけ。……真面目な話、それを分校生への賞与代わりに使いたいのよ、勿論転売禁止でね」
「私の下着を賞与……?」
 優子が訝しげな目を向けてくる。
「パラ実では流行らしいのよ、若葉分校の生徒会役員曰く。優子さん……ロイヤルガードの宿舎に引越しをして、よりロイヤルガードの仕事中心の生活になっていくんでしょ? 今より分校より距離が開いてしまうかもしれないし、それに白百合商会の事……商品が商品だもの、釣られて分校生が犯罪に走らないとも限らないわ」
「分校生が犯罪に走るのは困るが……」
 先ほど捕らえたパラ実生も、若葉分校に顔を出したことのあるパラ実生だ。
 ブラヌが一味として、自分達の衣服を狙ってきたことも、報告を受けていた。
「そこで敢えて此方で信頼性の高いモノを出す事で彼らを繋ぎ止め、上手く行けば商会の奴らを釣る事もできるかもしれないわ。と、いうことで……ちょっと一肌脱いでもらえないかしら」
「いや、出回らなくても、旗のように下着を掲げるヤツが出てみろ。ロイヤルガードとしての私の信用が、ガタ落ちだぞ」
「それなら、持ち出し禁止。下着は若葉分校で厳重管理。触れることが許されるのは管理人として選ばれた者だけってことでどうかしら?」
「ん……。別に下着の一枚や二枚、提供しても、何に使われても気にはならないんだが……」
 困り顔の優子の言葉に、亜璃珠は「よく言った!」と、マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)をその場に召喚する。
「亜璃珠様のお申し付けで、ご用意させていただきました」
 マリカはてきぱきと簡易更衣室を広げていく。
「よろしければ、こちらにお着替え下さい」
 代わりのショーツとして、リーブラ・ランジェリーも用意してある。本物を提供してもらう必要はないので、こちらを脱いだパンツとしてもらってもいいようにと。
「それから、こちらとこちらもどうぞ。全身着替えた姿を、部下達にお見せした方がよろしいかと思いますし、亜璃珠様のご希望でもありますし……」
 サジタリウスの服とされネットで売られていた数々の衣服、そしてロイヤルガードのコスプレ衣装をベッドの上に広げた。
「あ、うん。ロイヤルガードの制服って中々素敵だし、でも、今までゆっくり見ることもなかったから……」
 優子がこの制服を纏っている時は、緊迫した状況下だから。
「下着……と、ロイヤルガードの制服か……それならこういうのはどうだ?」
 優子はクローゼットに向かうと、中から本物のロイヤルガードの制服を取り出した。
「統一後に新調したんだ。こっちは使い古しの方。下着じゃなくて、これじゃダメかな?」
 その制服には、落ちない血や油のシミが模様のように沢山ついており、傷だらけで、ぼろぼろだった。
「悪用されないよう、紋章は外させてもらうけどな」
「……そうね、悪くはないかも」
 でも……と、亜璃珠は優子をじっと見つめる。
「念のため、下着も預からせて。本物と信じさせる為にも着替えは必要だわ。なんなら、着替え手伝ってあげましょうか?」
 亜璃珠は優子を更衣室に押し込め、エプロンの紐を解いて剥ぎ取った。
「ち、ちょっと待て亜璃珠!? お前やっぱり、私を脱がしたいだけじゃ……うわっ」
 ばたんどすん
 簡易更衣室が倒れて、2人は床に転がった。
 乱れた服の下の今日の優子の下着は、スポーツタイプのブラとショーツだった。まるでろくりんピックのユニホームのような……。
 結局。亜璃珠は使い古したロイヤルガードの制服と、新品のショーツを一枚預からせてもらった。
 新品のショーツの方は、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)からプレゼントされたものだそうだ。
 色は黒で、サイドリボンでハーフバックの優美なショーツ。
 パラ実の講師でもあるゼスタが優子のものだと承認してくれるはず。だからこれで許せと言い、優子は部屋から逃げていった。