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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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 同時刻。
 ロザリンドから受け取ったマップを頼りに、徒歩で宿舎に向かっていた貴音と、は街中でスーツ姿の若い男性数人に呼び止められていた。
「単刀直入に言おう。その箱と、キミ達のパンツが欲しい! 売ってくれ」
 リーダの男がそう言い、仲間達はうんうんと頷く。
「え……今日は、パンツ穿いていませんけれど? こちらのパンツは預かりものですから、売れません」
 きょとんとした表情で、歩は答えた。
「こちらもお譲りできませんけれど……ちなみに、いくらで?」
 歩きながら貴音は聞いてみる。襲い掛かられるより、会話をしながら、宿舎の方に連れて行った方が良いだろうと考えて。
「中身を確認してからだな。場合によっては、10000G払う準備もある!」
「……素敵なお値段ですわね」
「それでは、見せてもらおうか。キミのパンツと、箱の中身を〜。穿いてないなんて、嘘、通じないぜ〜」
 男達が鼻の下を伸ばして、歩と貴音に近づいてくる。
「だから、見てのとおり、私は今日はパンツは穿いてな……えっ、もしかして、ズボンのことじゃなくて、下着のことですか」
 歩はようやくそれに気付いて、ちょっと後退り。
「あたしはそういうのは運んでませけれど……。でもどうしてそんなこと……」
「欲しいからだ! さあ、見せてくれ、我らが求む秘宝を!」
 接近した男達は歩と貴音に手を伸ばす。
「そうですね、でもこちらのものをお見せする前に、皆様同士で見せ合ってみてはいかがでしょう?」
 十分接近させた後、貴音は光条兵器で攻撃。
 男達の上着だけを裂いた。
「ひっ、あああっ、服だけ脱がすなんてその能力、素晴らしい!」
「見せ合いたいのなら、素直にそう言え〜。本部に連れてってやるのにぃ」
 男達は隠そうともしない。
 彼らが穿いていたパンツは……イチゴの模様のパンツに、フリルのついたパンツに、かぼちゃパンツ。
 全て女性ものの下着だった。
 歩はびっくりして固まる。
「も、もしかして最近噂の下着マニアの人ですか?」
「うんそう。俺たちの仲間にならないかーい。色々穿かせてやるぜっ」
 男達はパンツいっちょで、歩と貴音の腕を引っ張り、肩を抱いてくる。
「すみません……遠慮します」
 逃げたいところだけれど、そのまま帰すわけにもいかないと、歩は子守歌で男達を眠らせる。
「……荷物が増えますけれど、仕方ありませんわね。引きずっていきましょう」
 貴音は、眠った男達を縛っていく。
「パンツ……下着のことだと思わなくて、穿いてないなんていっちゃった。街の人に変に思われなかったかな」
 歩は少し赤くなって、周囲を見回した。その時。
「あ……」
 そらから、ふわり、ふわりと、柔らかな軌跡を描いて、美しいものが、舞い降りてきた。
「うおー!」
「オレのだー!」
「救世主のお慈悲だ〜!」
 街中が騒然としだす。
 降ってきたのは、若者向けの可愛らしいショーツや、花嫁の衣装のような、優美なショーツだった。
 ……沙耶達が運んでいたダミーの箱から落ちてきたものだ。
 風に飛ばされて、宿舎の周りを踊り、美しく舞い飛んだ。
 変態達は大喜び。
 歩と貴音もなんか見とれてしまった。

「こ、このパン……は……。いえ、違います、違います……」
 高務 野々(たかつかさ・のの)は、降ってくる下着を箒で掃いて、街を掃除していた。
 ネットには、アレナの下着だけではなく、有名人の持ち物を称したものが白百合商会の名で沢山流れていた。
 今回の事件を聞き、野々も確認してみたところ……彼女は、見てしまった。
 『ヴァイシャリーに出没する謎のメイドさん愛用の白パン…』
 という品を!
 まさかと思い、入札に参加した野々だけれど、メイドの仕事中にどこかの誰かに落札されてしまった。
「まさか、あの品があんな高額で売れるなんて……巡り巡って、この中にないでしょうか」
 切実な思いで、野々は降り注ぐパンツたちを箒で集めていた。
「うひゃー」
「ここに沢山あるぞ」
「持ち帰って、検分だ!」
 そこに、ばたばたと男達が集まってくる。
「あっ」
 彼らは野々が集めたパンツを拾いあげて、懐の中へと入れていく。
「うっ、ああっ」
 野々はその中に、既にパンツを被っている人物の姿を見た。
 真っ白なそのパンツには見覚えがある……。
「わ、私はそのネットに出品されていたソレの持ち主、だと思われる者です」
 駆け寄って、男の前に出る。
「なお、私の愛用は水色と白の縞々です!」
 顔を赤らめながら、野々は精一杯主張する。
「白はいつかメイドとして誰かに仕える日が来た時のために取ってある正装です! そこのところ間違えないでください!」
 ざわざわ。
 魅力的なメイドさんの大胆な発言に、変態達だけではなく、街の人々の目が集まっていく。
「確認させてもらおうぜ〜」
「複製して売ろうぜー。カメラカメラララ」
 男達はえへらえへらと笑いながら、野々に近づいてくる。
 このままでは縞々なメイドさんパンツもネットで大量販売されてしまうかもしれない。野々の写真つきで!
「ええと、今のはナシです。間違えました。愛用なんてありませーん!」
 野々はデッキブラシを手にとって、男のパンツを磨き脱がして奪う。
「寧ろ、パン…なんてメイドに必要ありません。穿かなくても仕事できますから……!」
 そう叫んだ後、真っ赤になって百合園に走り戻っていった。

 降りしきるパンツの中、美羽ベアトリーチェは変態達と対峙していた。
 パンツマスクを被り、顔を隠している変態達の手の中には、美羽達が運んできたダンボールがある。
 ひらひら舞い落ちるパンツに夢中になった隙に、奪われてしまったのだ。
「このダンボールとキミのほかほかパンツ、交換してやってもいいぞ?」
「降ってくるパンツもこの中身も、新品ばかりだしなぁ」
 ダンボールの中身を確認しながら、変態達は美羽とベアトリーチェに近づいてくる。
「んん? スーツケースが入ってるぞ」
「あっ、それには見られたくないものが……っ」
「お願いします、それは開かないでください」
 美羽とベアトリーチェは少し恥ずかしげに言う。
「げへへへ、そういわれると、見ないわけにはいかないなあ」
 下品な笑い声を上げながら、男達はスーツケースを開いて覗き込み、中に入っていたパンツを取り出した……途端。

ちゅっどーーーーーん

 パンツが大爆発を起こした。
「……見るなといいましたのに」
 ふうと、ベアトリーチェが息をつく。
 スーツケースからパンツを取り出すと爆発を起こすように、爆弾をセットしておいたのだ。
「げふっげふっ」
「むきゅー」
「ふふ……」
 倒れてぴくぴくしている変態ににこにこ笑顔で美羽は近づいた。
「こちらも、無事な分は持って行きましょう……あ、美羽さん、命までは奪わないでくださいね」
 ベアトリーチェは、ダミーのダンボールを回収し、本物のアレナの荷物の上に重ねて少し避難しておく。
「乙女の下着を狙うような変態は……」
 笑顔が一瞬にして鬼神のような顔に変わる。
「とりあえず死ね!」
「ふ……が、ぐがががががががが……!」
 美羽は変態達に立て続けに、ミニスカ美脚ストンピング!
 もちろん美脚のパンツの色を確かめる余裕も与えはしない。
 爆発でぼろぼろになっていた男達の服が剥がれ落ちていく。
「止めだ、オラオラオラオラオラ!」
「ぐぶべぐぶごばぐへごへぼ」
 男達はギブアップの声を上げることも許されず、ズタボロになっていく。
 脚を止めると、道路に散らばったボロ雑巾を美羽は冷酷な目で見下ろす。
「フッ、汚物が」
 低く言い放った後、美羽は携帯電話で通報をする。
 全てを終えると、ベアトリーチェの方に駆けていく。そしてベアトリーチェの隣で、自分に急ブレーキ。
「パンパーティ楽しみ〜。お土産ももらえるみたいだしねっ」
 すっきり。爽快な笑みを浮かべた可愛い少女に戻っていた。

 ちなみに、街中には多くの人の姿があったのだが、誰一人助けには来なかった。
 降りしきるパン…に夢中だったのか、変態達が変態だったからか。それとも……も っ と 恐 ろ し い も の を見たから、か……。