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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 蝉時雨の寺 ■
 
 
 
 ミーンミンミンミンミンミー……。
 ミンミンゼミが姦しく鳴いている。
 相変わらず蝉のうるさいところだと、榧守 志保(かやもり・しほ)は手を庇にして周囲を見やった。
 山々と眩しい緑と、ほんとうに降ってくるような蝉時雨と。
 似たような景色の場所はパラミタにもあるけれど、やはり違う。
 バスを降りて実家に向かって歩いていた志保は、ふと一緒に来ていた骨骨 骨右衛門(こつこつ・ほねえもん)を振り返った。
「骨骨、その恰好暑くないか?」
「電車やバスに無賃乗車するわけにもいかぬであろう」
 骨右衛門は雨合羽に雨傘という、この天気には似合わない出で立ちだ。これならば、ちょっと天気を心配しすぎる、ただの痩せたゆる族で通るだろうとの目論見だ。
 まあ怪しいことは怪しいが、ゆる族には変わった外見を持つものは少なくない。同じ乗り物に乗り合わせた人はちらりと骨右衛門に視線を送りはしたけれど、そんなものかと納得したのかそれとも目を合わせない方が良いと思うのか、すぐに目を逸らして窓の外へと向けていた。
「もうすぐ家だから、雨合羽は脱いでもいいんじゃないか。ほら、あそこが家だ」
 前方に見えてきた寺を志保は指さした。正確に言えば実家は寺の近くに建っている民家なのだが。
「寺……なのか」
 表情は変わらないが、骨右衛門が動揺していることが志保に伝わってきた。
「榧守のご実家が寺とは今まで知らなんだ。どうりで長期休みに帰省すると、妙に疲れて帰ってきた訳だ」
「そんなに不思議に思っていたのなら一言訊けばいいだろう、というか、そう言えば話してなかったんだな」
「気になってはおったのだが、詮索は拙かろうと思うていたのでな」
 契約者には訳ありの者も多い故、と言いながら、骨右衛門の足取りは微妙に遅くなってゆき……そして遂には止まってしまった。
「疲れたのか? 寺まですぐだからあとちょっと頑張れないか?」
「いや。拙者はここまでにしておくでござる。榧守は遠慮せず、手伝いに行かれるがよろしかろう」
 その言葉に、ここまで連れてきたのだから当然家族に骨右衛門を紹介するつもりでいた志保は驚いた。
 けれどいくら勧めても骨右衛門はそれ以上、寺に近づこうとはしなかった。ただ離れた場所からじっと寺を眺めている。
 志保自身は来週辺りまた来るつもりだったから、手伝い云々は問題ない。今日は骨右衛門に付き合うことにして、遠くから自分の実家である寺を眺めつつ、説明する。
「寺から少し離れたところにある建物が住屋だ。ここからは少し見辛いがその隣に墓地があるから、お彼岸辺りになるとやたらと窓の外が賑やかになるんだ」
「窓を開けたら墓地という環境で育ちながら、榧守は何故お化け嫌いなのでござろうな」
 不思議だと骨右衛門は頸椎を捻った。そういう骨右衛門も心霊現象は苦手としているのだからお互い様というところだ。
「あ、今出てきて掃除を始めたのが兄貴だよ」
「おお、向こうにおられるのが兄君……榧守と同年代に見えるのは拙者の目の迷いでござろうか」
「兄貴だよ、間違いなく。俺が老け顔なだけだ」
 兄が特に若く見えるというのではないのに、志保は一回りも歳の違う兄と同年代に見える。まあ、寺の手伝いをするには少々……でなくても年上に見てもらえる方がやりやすいから良いのだけれど。
「本当に逢わなくていいのか?」
 こんな離れているところから、兄に頭を下げている骨右衛門に志保は確認してみたが、返ってくるのはやはり頷きで。
「えりーと校に進んだ弟のぱーとなーが斯様に不気味な骸骨では、兄君も肩を落とされるであろう。こうして連れてきてくれただけでも過分」
 兄はきっとそんなことは無いと思うのだが、等の骨右衛門が頑なに逢うことを拒否するのだから仕方ない。
「……しかし、そうさな。“いつか”、立派なゆる族になって堂々と挨拶してみたいとも……思う」
 そう言って骨右衛門は、今は雨合羽の下になっている自分の骸骨を軽く叩くのだった。
 
 
 そうしてしばらく実家を眺めた後、2人は元来た道を引き返した。
 本数の少ないバスを待つ間に、志保は骨右衛門の故郷にも行ってみたいと伝えてみた。
「拙者の故郷でござるか」
「ああ。ゆる族は特徴的な種族だから、そういうことは秘密にしているのかもしれないが、おまえの今までの話を聞かせてくれるだけでもいい。そうだな……“いつか”、楽しみにしてる」
 
 いつか。
 いつ来るのかは分からない。
 だけどいつかきっとくる。
 そんな“いつか”を楽しみに、今は蝉時雨の中を通り抜け、パラミタに帰ろう――。