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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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序章  事前準備


「み、御上先生?なんか、明らかに書類の量が多いような気がするんですけど……」

 御上 真之介(みかみ・しんのすけ)によって、事務机の上に山積みにされた書類を前に、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が面食らって言う。

「え?これで全部だけど……?」
「いやだって、オラコン参加団体って、全部で10くらいでしょう?これどうみても、50くらいはありますよ!」
「あ?……あぁ!それは、各校を通して申請があった分だけだよ。生徒が関係しない一般の団体は、学校を通さずに直接申請があるからね」
「き、聞いてないっスよ、そんなの!」
「あれ?言わなかったっけ?」
「ま、まぁ確かに『万博でブースが10件だけってのも、やたらに少ないな〜』とは思ってましたけどね……」
「静麻さん?無理なさらずとも、出来る範囲で結構ですので……」

 静麻に気を使って、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)が言う。

「い、イヤ!モチロン、全部片付けますよ!想像してたのより量が多かったんで、ちょっとビックリしただけですって!」

 と、強がってみせる静麻。無理言ってオラコン実行委員会に参加させてもらった以上、ここで弱音を吐く訳にはいかない。

「いつぞやの雪山の時のことを考えたら、これくらい、どうってことありませんて!」
「あぁ。じゃ、僕たちはパビリオンの担当者と打ち合わせがあるから、あとはよろしく頼むよ」
「すみません、よろしくお願いします」

 手を振って、にこやかに2人を送り出す静麻。
 部屋のドアがパタンと閉まり、足音が遠ざかっていくのを確認すると、静麻は、ため息をつきながら椅子に座り込んだ。
 
 先日静麻は、レンタルした中型飛空艇をとある事件で壊してしまい、100万ゴルダという負債を抱えることになってしまったのだが、その費用を円華が肩代わりしてくれたのである。
 モチロン、円華自身は「別に返済の必要はない」と言ってくれたのだが、大きな借りが出来てしまったのは紛れも無い事実だ。
 そこで『金銭的に返すのが無理ならせめて肉体的に返そう』と、オラコン実行委員会に参加を申し出たのだが……。

「しかしな〜。コレはちょっと厄介だぞ……」

 静麻は、目の前の書類の山をペラペラとめくりながら、頭の中で作業スケジュールを練り直していた。

(書類審査のあとは、提出してもらったサンプルの確認をしないといけないし、次に各パビリオンの担当者とブースの出展スペースの割り当てについて話し合って……。いや、コレは今御上教諭たちが行ったな……。それで……。あぁそうだ、警備担当者の再配置について鉄心と話し合うんだったっけ?あと確か要注意人物のリストも回ってきてたな……それから搬入物のチェック体制についての打ち合わせをして……?)

「うわ……。寝るヒマあるのか、オレ?」

 考えればまだまだ出てきそうな業務の数々を思いながら、嘆息する静麻だった。



「ふぅ……」
「疲れましたか、円華さん?」

 パビリオンの担当者との打ち合わせの帰り、ふとため息を漏らす円華に、御上が尋ねた。

「あ、いえ。そういう訳では、ないんですけれど……」

 薄笑いを浮かべて否定する円華。

「葦原とマホロバのコトが、気になるんですか?」
「……はい」

『パラミタのローカルな魅力を発信して、地域振興につなげる』という目的の元、開催が決まった今回のオラコン。その対象地域の中でも、特に円華が気にかけていたのが、自分の故郷であるマホロバと、葦原島である。
 最近円華はある事件を通して、葦原藩で起こる争いの原因が、貧困であることに気づいた。
 円華がこの企画を考えついたのも『産業を活性化することで、少しでも貧困の解消につながれば』との思いがあったからである。
 しかし、円華の思いとは裏腹に、その葦原とマホロバから参加した団体は、極端に少なかった。
 葦原藩からは、かろうじて一般参加が3団体あったものの、明倫館からは一件もなし。
 マホロバに至っては、学生・一般を含めて、一つの参加者もなかったのである。

 その事を、円華はずっと気に病んでいた。

「どうして葦原藩とマホロバは、こう閉鎖的なんでしょうか……」
「まぁ、マホロバは仕方ないと思いますよ。何せ遠いですし、マホロバ以外の、エリシュオン帝国の版図からの参加団体も、他と比べるとおしなべて低調です。今回の万博にも、皇帝がその威信をかけて乗り込んで来てはいますが、そうした上層部と一般の民衆との間には、明らかに意識の乖離があるんだと思います。そもそも『地球と繋がっている』という意識を持っている市民なんて、ほとんどいないんじゃないでしょうか。それは、きっと、マホロバも同じだと思います」
「それじゃ、葦原藩は?」
「葦原島の場合は、そもそも小さい島ですから。経済の規模自体が小さいことに加えて、本格的な開発が始まったのは藩が移ってきてからですからね、産業の多くが未発達なんです。他の地域のように、『今あるモノを紹介する』という姿勢ではなくて、『一から育てる』ぐらいの意気込みが必要なんじゃないでしょうか」
「一から育てる……」
「なんて言ってますけど、僕自身、参加団体の少なさを見てから気づいたんですけどね。『こんなコトなら、経済学を専攻しとくんだった』と今更ながら思いましたよ。経済政策とか」



「御上せんせ〜い!円華さ〜ん!」

 話し込んでいた2人のトコロに、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が駆けてくる。
 何やら、ただならぬ雰囲気だ。

「どうしたんですか、イコナさん?そんなに慌てて」
「す、すぐに本部に戻ってください!鏖殺寺院の関係者からと思われる、内部情報のリークがあったんです!」
「なんですって!」
「わかった。すぐに戻る」

 本部に戻った2人を、源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)が厳しいで迎えた。
 鉄心たちには、パビリオンの警備以外にも、警備統括責任者として本部に詰めてもらうことになっている。

「これを見てください」

 鉄心が差し出したのは、しわくちゃになった手紙だった。
 つい先程、何者かがこれを本部に投げ込んでいったのだという。
 そこには、『テロが起きるのはオラコン当日の13時。各パビリオンで一斉に爆弾が爆発する』とあった。

「どう思います、この手紙?」
「う〜ん……。『善意の協力者がいる』と思いたいところだけど、ソースがまるではっきりしないからな……。悪戯かも知れないし、こちらを誘導しようという、敵の手かもしれない」
「俺もそう思います。明らかに、撹乱を狙っているとしか思えません」
「それじゃ、これは無視するんですか?」
「う〜ん、無視するというか……。信頼できる情報かどうか分からない以上、『頭の片隅に留めておく』以上の対応は、出来ないですし、しないほうがいいでしょう」

 円華の問いに、鉄心が答える。

「見たところ、一般的なコピー紙にプリンタで印字したみたいだけど……《サイコメトリ》は?」
「これからです」 
「まずはそれを試してみよう。あとは万博の警備本部に連絡して、鑑識に回してもらうか。とにかく、少しでもソースを推測できるような情報が欲しい」
「周知はどうします?」
「鑑識の結果も含めて、前日までには周知しよう。ただし、あくまで予備情報としてだけどね」
「了解です」
「とにかく、万全の警備体制を敷く。僕らに出来るのは、それしかない」
「分かりました。それで、御上先生と円華さんに、一つお願いがあるんですが−−」

 鉄心はかねてから温めていた計画を、2人に打ち明けた。



 そして、オラコン当日−−。

 晴天に恵まれた会場では、コンテスト開始前から、開場待ちの列が出来るほどの盛況ぶりを示していた。
 両手いっぱいに荷物を抱えた日下部 社(くさかべ・やしろ)は、その様子を横目で確認しながら、ブースへと急ぐ。

「大変や!お客さんがぎょうさん、列作って待っとるで!コレは俺らも、気合入れてイカンとな!ガレットさん、ケーキの焼き具合はどんなモンですか?」
「うん、取り敢えず試食用と販売用と、10ホールずつ焼けてるよ」

 ホカホカと湯気を立てるパンケーキを手に、ガレット・シュガーホープ(がれっと・しゅがーほーぷ)が奥から顔を出した。
 2人とも、明るい色彩の民族衣装を着ているのだが、同じ服でも、社が何処か祭りの衣装のように見えるのに対し、エプロンをつけたガレットはちゃんとケーキ屋さんの制服に見えるから不思議だ。

 社とガレット、それに五月葉 終夏(さつきば・おりが)日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)響 未来(ひびき・みらい)の5人が手がけるのは、ジャタの森の奥にあるガレットの故郷、『橙(とう)の村』名産の蜂蜜を贅沢に使ったパンケーキ、その名も『一人前の蜂蜜パンケーキ』だ。
 橙の村には、『巨大ミツバチの巣から蜂蜜を採って来る』という成人の儀式があるのだが、村ではそれにちなんで、蜂蜜を使った料理には「一人前の」と付けるのがしきたりとなっている。

「さすがはガレットさん。準備はバッチリですね!……って、あれ?ちーとオリバーは何処行きました?」
「今オリバーが、ちーちゃんの衣装を着付けてるよ」
「衣装?」
「やー兄!」

 後ろからの声に振り返る社。
 そこには、橙の村の春の野原をイメージして、生成り色をベースに黄色やオレンジといった暖色を散りばめた衣装を着た千尋が立っている。

「ちーちゃんも衣装に着替えてきたよー!えへへ♪似合うかなぁ?」

 エプロンの裾を握りしめ、はにかんだ笑みを浮かべる千尋。

「お〜♪ちーは相変わらず、何着てもかわええな〜♪」

 重度のシスコンである社は、クルクルと回ってみせる千尋に、すっかり顔を崩しっ放しである。

「ゴメンねー、遅くなってー。ちょっとサイズが大きかったもんだから、スカートを裾上げするのに手間取っちゃって……」

 遅れて入って来た終夏が着ているのは、白をベースに、淡い赤や青、明るい緑などを巧みに組み合わせて格子柄に折り上げた、未婚女性のみが着る事が出来る衣装である。

「お、オリバー……」
「ど、どうかな……。に、似合ってる?」

 どことなく自信なさ気に、上目遣いに社を見る終夏。
 慣れない格好に気恥ずかしいのだろう、頬をほんのりと紅く染めている。
 そのあまりの可憐さに、思わず目を奪われる社。

「やー兄?オリバーちゃん、聞いてるよ?」
「え!お、オゥ!も、モチロン似合っとるで!」
「ほ、ホントに?」
「あ、あぁ。ホントに、見違えてしまうくらいや……」

 終夏につられるように、顔を紅くしていく社。
 どちらからとも無く、見つめ合う。
  
「皆様、大変長らくおまたせ致しました。只今より、『オラの村が世界一!コンテスト』開催致します!」

 場内に、運営委員会の代表である円華の声が響く。

「ちょっとみんな、オラコン始まったよ……って、どうしたの、2人とも。見つめ合っちゃって」

 ブースに駆け込んできた未来が、キョトンとした顔で2人を見ている。

「べ、別に何でも無いがな……。と、とにかくガンバるで、みんな!今日は絶対、グランプリ取ったるんや、ええな!」

「「「「「オー!」」」」」

 ちょっと照れ隠しを交えつつ、激を飛ばす社の声に、皆が応える。

 こうして、オラコンの幕が切って落とされたのだった。