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―第六章:闇の空での死闘―

「ドラゴンでも出てくるかと思ったら、鳥とはな……」
 操縦桿を握るグラキエスが呟く。
「ですが、グラキエス様。向こうの方が機動力は上です」
「わかっている。エルデネスト、【偵察】で敵の急所を探るんだ。そこを俺が【急所狙い】で、的確に仕留める」
「かしこまりました」
「それと、下に注意しろ。戦いに勝っても目的を忘れるのは愚かなことだ」
 グラキエスが、下の荒野を爆走するルカアコの乗るエアカーに視線を移す。
 エルデネストが素早くコンソールを操作する。
 二人のイコン、ツヴァイと闇夜の空中戦を繰り広げるのは、パラミタジャイアントイーグル。羽を広げるとイコン二体分の大きさにもなる巨獣だ。
「クエェェェーー!!」
 甲高い鳴き声と共に、ツヴァイに向かって突進するイーグル。
「ちぃ!」
 【高速機動】と【回避上昇】を使い、突進をかわそうとするツヴァイ。イーグルの爪がかすったためか機体が大きく揺れる。
「ロア! ダメージを報告しろ」
「装甲に軽微です。エンド、気にせず戦闘を!」
 20ミリレーザーバルカンで牽制するツヴァイの周りを、グルリと回るイーグル。
「グラキエス様。急所は胴体です。心の臓を狙って下さい」
 分析の済んだエルデネストが声をかける。
「了解だ。ビームサーベルで接近戦を仕掛ける」
 ツヴァイを空中で一回転させたグラキエスが、ペダルを踏み込み、機体を加速させる。
「待ってください! 真正面からは危険です!」
「クチバシと爪に注意すればいい!」
「しかしッ!?」
「駄目なら俺もそれまでの男ということだ!」
 背筋にゾクリとしたものを感じるエルデネスト。グラキエスの狂った魔力を一時的に鎮める事ができるのは彼だけであり、その代償はグラキエスが死んだ後、自分のものになる事だったはず……これはその喜びか? それとも……。
「加速します!」
 沸き起こった雑念を振り払うかのように叫ぶエルデネスト。コックピットに常人が耐えられる限界ギリギリのGがのしかかる。
 闇夜を水平に駆ける流星の如きツヴァイと、イーグルが、それぞれ一直線に相手に向かう。
 ツヴァイがビームサーベルを二本抜刀し、イーグルへ突っ込む。
ガシィィーーーンッ!!!
 激しい衝撃にコックピットが揺れ、アラート音が響く。
「やったか……?」
 目の前に大きく見えるイーグルの頭部。その目がギロリとグラキエスを睨む。
「左肩破損!! 関節系統に異常発生!!」
 ロアの悲痛な声が響く。
 グラキエスが見ると、右腕のビームサーベルしかイーグルの胴体には刺さっていない。
「クエェェェェーー!!」
 イーグルのクチバシがツヴァイを襲いかかろうとした時、
「すまないな。出来ることなら一撃で仕留めてやりたかった」
 グラキエスが呟き、操縦桿のスイッチを押す。
ドドドドドドッ!!
 ツヴァイのゼロ距離での20ミリレーザーバルカンがイーグルに炸裂する。羽が空に飛び散る。
 ビームサーベルを引きぬかれたイーグルは地上へと落下していく。
「ふぅ……。ロア、損害は?」
「左肩および左腕が動きません。他の損傷は軽微です」
 シートに身を預けたグラキエスが溜息をつく。
「データだけを蓄積してやるつもりだったが……済まなかったな、ツヴァイ」
「グラキエス様、ツヴァイの心配もよろしいですが、私達も肝を冷やしましたよ……」
 苦笑するエルデネストに頷いたグラキエスが、落下したイーグルを見下ろす。
「蒼木屋を焼き鳥屋に変える計画は駄目になったな……肉をズタズタにしすぎた」
 珍しく冗談を言うグラキエスに微笑むエルデネスト。
「どうされますか? もう一度蒼木屋に戻り、警備を?」
「そうだな……」
 グラキエスが点滅するエネルギーゲージに目をやる。彼にはそれが激戦を続けたツヴァイの訴えに見えた。
「給料分の仕事はしたんだ、戻ろう。ツヴァイもそう言っている」
「はい」
 その給料は、きっとツヴァイの修理費に消えるのだろうな、と思いながらエルデネストが頷く。

 荒野を飛ばすエアカーの前方に、見慣れた闇の荒野以外の灯りが見え始めていた。
「おお、エアカーよ! あれが蒼木屋の光だ! ……なんてね」
 イーグルの襲撃の恐怖から解放されたルカアコは少し落ち着きを取り戻していた。先ほどまでは、アクセル踏みっぱなし、ハンドルを左に右にと恐ろしく忙しかったのだから無理もない。
 闇夜をツヴァイが飛び去るのを、エアカーのバックミラーで確認したルカアコが、チラリとそちを見る。
「派手に戦ってたけど大丈夫かなぁ、あのイコン……助けてくれたし、ルカに頼んで修理費は店持ちにしてあげようっと……ん?」
 ルカアコの耳にふと何か聞こえてくる。
「歌……?」
 目を凝らすと、荒野の中で群衆を前に歌を歌う人影が見える。
「あれは……」
 ルカアコはその正体に気付いた。しかし、今は遅れた分を取り戻すため、一刻も早く蒼木屋に戻らないといけない。
 彼女は、興味を引かれたその者達を横目に蒼木屋へエアカーを飛ばすのであった。