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リアクション
「蜂蜜酒だよー! 美味しい蜂蜜酒だよー! トロールさーん、要りませんかー?」
マイクを持ち、【震える魂】と【名声】を使用した【幸せの歌】を交えつつ、蜂蜜酒の売り込みのため荒野を歩いていたのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)であった。
「プップー! パラピレロレー!」
どこかズレたチャルメラを吹くのは、ノーンの横を歩く金元 ななな(かねもと・ななな)。
「なななちゃん、それ気に入ったんだね?」
「ええ! なななの情報によると、これを吹きながら歩くというのが最も客寄せに効果があるのよ!」
「金元ななな、出来ればそろそろわたくしと代わって頂けると嬉しいのですけど?」
【ダークビジョン】、【ディテクトエビル】、【殺気看破】で危険察知をしつつ彼女たちの後方を歩いていたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が口を開く。
「メイガスのわたくしには、少し荷が重いですわ」
「ふっふっふ! 了解よ! やはりこのなななが最後の砦にならないと駄目なようね!」
チャルメラを持ったななながエリシアが引いていたリアカーに走る。
「ふぅ……それにしても、ノーン。わたくしは警備員のアルバイトと聞いていましたが……?」
「うん! だから、こうしてお外を守っているんだよ。それに提案してくれたの、エリシアちゃんだよね」
「……そうですわね」
明るく笑うノーンに、エリシアもつられて苦笑する。
「さぁ、行くわよ!! プップップー!!」
チャルメラを吹きながらリアカーを引くなななが、二人を追い越していく。
蜂蜜酒の瓶やコップがが並べられたリアカーの荷台を見て、もう一つ溜息をつくエリシア。
「蜂蜜酒が欲しいだけなら、飲ませてあげたらどーかな? お客さんになってくれるかも?」
「ノーンちゃん! それ、とても良いアイデア! M76星雲平和賞ものよ!!」
「……どれほど頭の悪い銀河なのですか? そのM76星雲というのは?」
三人はそれぞれ蒼木屋の警備員仲間同士であり、最初は地道に店の外の哨戒活動等をおこなっていた。ノーンが言い出すまでは、である。
「えへへ……だからね、屋外に出張販売スペースを設けて、売り物の蜂蜜酒を大量に仕入れて、トロールさんに振る舞おうよ! ね?」
ノーンの提案にエリシアが助言を与える。
「成程。トロールとの争いの種になるのは蜂蜜酒。ならば、それを最初からトロールに分け与えればよい……そういう事ですわね、ノーン?」
「うん! わたしお酒飲めないからよくわからないんだけど、きっとトロールさん達も陽気な気分に浸って、気分良く帰ってくれるんじゃないかなぁ?」
「む!」
なななのアホ毛がピンと立つ。
「ノーンちゃん、年齢サバ読み疑惑をキャッチしたわ!」
「えへへ、バレちゃった……なななちゃん、わたし実は自分の年齢あんまり覚えてないの」
照れたように笑うノーンにエリシアが語りかける。
「ノーン、良いアイデアだと思いますけど、肝心の蜂蜜酒は分けて貰えるでしょうか?」
「あ、そうか。うーん……」
危なっかしいノーンをフォローするため、一緒にアルバイトする事にしたエリシアが策を考え始める。
「また、販売スペースを蒼木屋から少し離さねばいけませんわね」
「何で?」
「万が一の事態でも、店や他の警備員達に迷惑がかかってはいけません」
「平気よ! このスーパー警備員&蜂蜜奪取員のななながいれば!!」
「金元ななな? 何処に行くのです?」
エリシアの問いかけをスルーして、なななが蒼木屋に走りだす。
「エリシアちゃん、お店の前で販売しちゃ駄目って言ったけど、何処で販売するの?」
「そうですわね……」
エリシアが周囲を見回すと、蒼木屋で今は使われていない小さなリアカー(台車)が置かれてある。
「移動しながら、歌いながら、というのはどうでしょう?」
「わー! それ素敵!!」
ノーンがエリシアの提案に胸を踊らせる。