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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

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●届けこの祈り!

 実に実に実に、長大な行列だった。
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は本殿前、鈴につらなる大綱を握って、これをゆっくりと降った。
 なかなか待たされた。しかし待った分、心の整理をしっかりと行う時間があった。
 祈りのテーマは決まっている。アイシャ・シュヴァーラとのことだ。
 愛しければ愛しいほど、アイシャのことを思うだけで胸は乱れ、頭はラブで溢れかえり、我を忘れるほど恋しい気持ちになる。
 だから想いをなんとか抑え、祈りの言葉となすには少々時間がかかったのである。
 二度手を打ち、祈る。
(「今年も詩穂の最愛の大切な人、アイシャちゃんと一緒にいられますように。
 アイシャちゃんにとって良き年になりますように……、アイシャちゃんのシャンバラ女王としての執務が少しでも負担が減りますように!
 プライベートのときには詩穂と二人で沢山の想い出を作って、もっともっと仲良くなれますように☆」)
 ふぅ、と詩穂は息をついた。まだ半分だ。
 シャンバラ宮殿にいる最愛の人の顔を思い浮かべながらさらに祈る。
(「誰よりも平和を願う大切な人と一緒に同じモノを、パラミタの民を護って行きたい。
 そしてアイシャちゃんがシャンバラ宮殿のプライベートルームで詩穂にだけ見せてくれる大好きな表情が曇らぬように、大切にしたいです。
 ………二人が末永く一緒にいられたら嬉しいです」)
 これでアイシャの分は終わり。
 あとは手早く、アイドル活動中の秋葉原四十八星華リーダーとしてお祈りする。
(「メンバーの芸能活動が成功するよう、こちらも祈願しておきますっ♪」)
 というわけで終了!
 なにか美味しいものでも食べて帰ろう。

 詩穂は甘味屋の暖簾をくぐり、座って何を頼もうか思案した。
 なんとも魅力的なメニューがたくさんあるではないか。
 ぜんざい、甘酒、それから……
(「……うん?」)
 しかしここで詩穂の思考は止まった。
 良い香りがするのである。
 たまらないくらい良い、カレーの香りが。
 ちょうど空腹の頃だ。お腹がグウと鳴りそうになる。
「いらっしゃいませー! 暖かいもの、ありますよっ!」
 可愛い和装ドレスの給仕がやってきてぺこりと頭を下げた。どうやら特注品の衣装らしい。淡い黄緑色にたんぽぽの花の柄で、冬の寒さを忘れさせてくれる。
 彼女は樹乃守 桃音(きのもり・ももん)、一メートルに満たぬ背丈ゆえ、動く様はなんともちょこちょことしたものだが、なかなか仕事熱心で、注文に料理運びに大活躍していた。
「あら可愛い和風給仕さん、カレーのいい香りがするんだけど、なにかしら?」
 すると桃音は張り切って答えた。
「はいっ! この店おすすめの一品ですっ! これはねじゅおねえちゃん、あ、おねえちゃんが料理人なんですね……そのねじゅおねえちゃんの得意料理のカレーをきほんにして、カレーうどんっぽく仕立てたおつゆにお餅、にんじん、鶏のひき肉をあしらった、名づけて『和風カレー雑煮』ですっ!」
 これがオーダーされたことは言うまでもない。飛ぶようにして桃音は厨房に戻る。
 厨房では、ねじゅおねえちゃんことネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、ぜんざいを器に盛っていた。防汚加工がきっちりされた、振袖風の和装ドレスをネージュは着ている。淡い桃色の地に、白兎が跳ねている模様、西陣織の反物から仕立ててもらったお気に入りの一着なのだ。もちろん、その上にエプロンもしており完璧だ。
 さて、冬の定番料理たるぜんざいであるが、選ぶ小豆の産地だけで、ずいぶん味が違ってくるものだ。味付け、煮方、それによっても与える印象が大きく違ってくることは言うまでもない。
 しかし味に関してなら、ネージュの作るものは折り紙付きといえよう。
 ネージュが努力を重ね、決して手抜きせず完成させた本日のぜんざい、ありがたいことに大好評で、まだ閉店までは間があるのにそろそろ残り少なくなっている。
「このぜんざい、三番テーブルにお願いね。注文は和風カレー雑煮? 了解!」
 お盆に乗せられたぜんざいは色が濃く、浮かぶ餅の白さが眩しいほどだ。これがゆらゆら、湯気上げて運ばれていくのである。
 さあ、熱々を召し上がれ。