百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

お風呂ライフ

リアクション公開中!

お風呂ライフ

リアクション

 ラルクは『マグマ風呂』と呼ばれる高温のお湯が湧き出る温泉に足を踏み入れていた。
「ぬお……意外にこれはあっついな!?」
 片足を突っ込んだだけでもその熱さが伝わってくる。
「さすがマグマ風呂だ。まぁ、入れねぇって程じゃねぇな」
 身を沈めたラルクが、ふぅーと長い息を吐き出す。
「でも、こんだけ熱けりゃ俺以外に客は……お、いた」
 湯船から立ち上る湯気の向こうに、人影が見える。
「よう! 俺が来る前から浸かっていたのか? やるな!」
「ああ、ラルクさん、こんにちは」
 先客の四谷 大助(しや・だいすけ)が片手を上げる。
「おい? 大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「え……そう言えば、オレも結構な時間浸かってますね」
「考え事でもしてたか?」
「その昔に路地裏で拾ったパートナーのアレコレを、少し……」

 大助は今日はパートナーたちには秘密で、スパリゾートアトラスを訪れていた、ハズであった。
 今日はここで温泉巡りをして、パートナーたちに振り回される苦労から解放される、という当初の目的があったためである。
 ……が。
「ルシオン、お前なんでここにいるんだよ……しかも雅羅も居るし!」
 施設に着いた大助を待っていたのは、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に水着を着せて、ミルクアイスバーを販売するルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)であった。
「牛乳なんて時代遅れッス。このアイスを沢山売って、古い考えを駆逐してやるッス!」
 張り切るルシオンが声をあげる。
「お風呂には牛乳と誰が決めた! 風呂上りはぬるい牛乳より冷たいアイスが至高! 中に練乳ソースのたっぷり入った、ミノタウロス印のミルクアイスバーを販売ッス! さぁさぁ、どうぞみんな揃って買うッス!」
「(……どうせ、牛乳コンテストに便乗してガッチリ儲けてやるッスよ! て腹なんだろう)」
「お、大さん! 良い所に、このアイスを……」
「いやだ。オレは温泉に入りに来たんだ」
 雅羅の水着姿に後ろ髪を引かれつつも、強行に温泉へ行こうとする大助。
「にひひ! いいんスか? 大さん?」
 ルシオンが、大助に耳打ちする。
「……何が?」
「これから雅羅さんのアイス試食タイムがあるッスよ?」
「……」
「水着の美少女がアイスを咥えるなんてシチュエーション。巷の健全な青少年雑誌では中々お目にかかれぬシチュエー……あががががが!?」
 大助のヘッドロックがルシオンの頭蓋骨に軋みを入れる。
「ギブギブッ!!!」
「オレは、温泉に入るんだ!」
 ルシオンに対して、華麗にTKO勝利を収めた大助は風呂場へと向かう。だが、不安を忘れることなど出来なかったのだ。

「ああ! ルシオンなんて拾わなきゃよかった!!」
 客として来ていたハズの大助はゆっくり過ごすつもりだったが、ルシオンと雅羅が気になってあんまり気を休められない。
 話を聞いていたラルクは、まぁまぁと大助をなだめる。
「人の縁てのは、粗末にしちゃならねぇ。その牛娘も、いつか大助を助けてくれることもあるんじゃねぇのか?」
「だといいですけど……。いえ、そんな不安を消し飛ばすためにもこうして熱い風呂に浸かろうと思ったんです」
「成る程な」
 ラルクはそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。
「じゃ、俺は堪能したから、また別の風呂に行くぜ?」
「ええ。この温泉は他にもワイン風呂とか塩風呂とか変わったお風呂がありましたよ」
「まさか、全部巡ったのか?」
「はい。何か、ルシオン達と顔を合わす時間を少しでも先延ばしにしたいなぁ……て」
 ラルクは豪快に笑い、大助の背中をバンッと叩く。
「ハハハッ! 考えすぎだぜ! あんまり浸かり過ぎるなよ? 俺はちょっちノボせたら水風呂入ってしゃっきりさせるかな」
「ハハッ……オレも一度風呂を出て、ルシオンの所に冷たいものを買いに行きま……」
 湯船から上がろうとした大助は、急に立ち眩みを感じる。
「おい、大助?」
「あれ。上手く歩けない……」
 ラルクの呼びかける声が響く中、大助の意識がブラックアウトしていく。