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神楽崎春のパン…まつり 2022

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神楽崎春のパン…まつり 2022

リアクション

「竜司来てくれたのか……ありがとう」
 笑みを浮かべながら、優子が近づいてきた。
「あっちのテーブルに行くと、モテすぎて困るからな。こっちの野郎ばかりのテーブルにいてやってるんだ」
「そ、そうなのか」
「優子はパンつくったのか?」
 竜司の問いに頷いて、優子はテーブルの上のパンのうち、ミルクパンや、バターロールなどの一般的なパンと、魚を包み込んだパンケーキを指して、自分が作ったパンだと言った。
「番長さん、こんにちはっ」
 乾杯の声を聞いて、アレナも挨拶に駆けてきた。
「おう、アレナか」
 アレナに気付くと皆の前で堂々と竜司は言う。
「アレナの生パンをくれ」
 多くの子供達の目がアレナに注がれる。
「お、おおおお」
「竜さん、男だぜ……」
 パラ実生は息をのんで、その場を見守った。
「はいっ」
 アレナは二つ返事で、駆けていって。
 用意してあった、トーストしていない食パンを竜司にプレゼントした。
 茶色の紙袋に入っていて中は見えない。
「サンキュー! 土産にして、分校で皆で味わわせてもらうぜ」
「はいっ!」
「私のもよかったら、持って行ってくれ。帰りまでに用意しておくから」
 優子がそんなことを言い、竜司は……。
「優子からは去年は白いの(白いパン2つ)を貰ったな。今年も沢山もらった(テーブルの上のパン)が、他にもくれるってんなら、貰ってやるぜ」
 そう答えた。
(十二星華とロイヤルガード隊長の生パンを皆で味わう?)
「……すげぇぜ、番長」
 ヴェルデは顔色一つ変えずに、パンを食べながら、話を合わせておく。
「お、おお……」
 一部、番長のイケメンっぷりに、驚嘆の声を上げるものがいた。
 更に。
「礼というわけじゃないが」
 竜司は、エリュシオンの露店で買った紙の束を優子に差し出した。
 アルカンシェルから流出したものだと思い込み、渡したその紙束は――エリュシオンの土地権利書(地球の企業が勝手に売っている土地の権利書)と、映画のペアチケットだった。
 オレの優子の為と思い、店を回って、かき集めたものだ。
「竜さん……プロポーズ考えてるのか?」
「映画デートでするつもりかもな」
「ゼスタとか国頭とかに話した方がよくねぇ?」
 分校生達がそんなひそひそ話をしている。
「ありがとう」
 優子はプレゼントの意図が良く解らなかったが、竜司の言動がよくわからないのはいつもの事なので、さほど気にせず、有りがたく受け取ったのだった。
「アレナは優子のパン、食ったか? 一緒にどうだ」
「は、はい。いただきます。あの……お魚の食べたかったんです」
 と言いながら、アレナは優子に目を向けると、優子は首を縦に振った。
 嬉しそうな笑みを浮かべて、アレナは竜司の隣の席を開けてもらい、若葉分校生と一緒にパン…を楽しんでいく。
「よし、大人しい奴らが多いようだからなァ、一曲歌って、盛り上げてやるぜェ!」
 突如、竜司がマイクを取り出す。
「ちょ、ちょっと番長、それは不味い、パンは上手いが、それは不味い!」
 分校生のモヒカンが慌てて止める。
「い、いや……大丈夫だ、多分」
 しかし、優子が自信なさげに、分校生を制する。
 竜司が取り出したマイクは、優子がクリスマスに彼にプレゼントした音程補正装置付きのマイクだったから。
「俺は〜イケメン、幸せ招く、超イケメン〜♪」
 竜司の『幸せの歌』が会場に響き渡る。
 音程が自動で修正されているため、遠くに座っている者達は特に気を留めずに、幸せな気分になっていた。
「ぐほっ、げほっ……な、んか妙な気分だ。幸せなんだか、苦痛なんだか」
 竜司の美声を聞いたヴェルデが咽た。
 優子を含む近くにいた者は、生の強烈な音を外した声をも耳に入ってしまっているため、皆、ヴェルデ同様、微妙な顔つきだった。
(違和感なく入り込める席を選んだつもりだが……間違いだったんだろうか)
 アルカンシェルに入ってから、何故だかよく解らないことが多々発生している。
 でも、工作員たるもの、気にしてはいけない。それが工作員というものなのだ。
 ヴェルデはハーブティを飲んで、気持ちを落ち着けておく。
 ほのぼのする。今日は断固ほのぼの終わらせるのだ。
「アレナ、さん……」
 アレナを追って、訪れたユニコルノはひたすら驚いた。
(これが噂に聞く、若葉分校イケメン番長の歌声……。幸せな気持ちになるのに、なんだか、聴覚機能が正常に作動しません……)
「大丈夫です、ユニコルノさん……若葉分校には、音楽の授業はないそうです。ピアノとかもないです」
 アレナがそっとユニコルノにささやいた。
 ユニコルノは、若葉分校生になったばかり。
 アレナと一緒に微笑んで、ちょっと離れた位置で吉永番長のすっばらしい歌声で心に幸せを貰った。

「このテーブルには女性が沢山あつまっているんですね。私もご一緒してもいいですか?」
「勿論。こちらの席へどうぞ」
 志方 綾乃(しかた・あやの)がそう声をかけると、機敏にゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)が立ち上がって、席へ綾乃を案内する。
 椅子を引いて彼女を座らせると、給仕を呼んですぐにスープとお茶を入れさせる。
「君はどんなパンが好きかな? 甘いのが好き? 柔らかいのが好き? それとももっと別な物が欲しいんなら、遠慮なく言ってくれよな」
 耳元で、ゼスタが囁くように言う。
「何だかくすぐったですよー。えっと、優子さんが作ったパンが食べたいです」
「了解」
 ゼスタは、優子が焼いたミルクパンやバターロール、それからバターにジャムをとって、綾乃の傍に持ってきた。
「ああ、いい匂いです。この香り……たまらないです」
 出来たてパンを二つに割って、綾乃は優子の(作ったパンの)香りを存分に堪能した。
 ただ……。
(素敵な企画だとは思いますけれど……。軍事機密に一般人を招待するのはどうかとも思うんですよね)
 要人達もいるこの場に、認識の甘い一般人や子供達がいることに、危険を感じてしまう。
(まあ、優子さんが言うのなら志方ない)
 そっと優子に目を向ければ、彼女は穏やかに客たちと会話をしながらも……油断せずに、周囲の状況に気を配っているようだった。
「ゼスタさんは、優子さんのパートナーなんですよね」
「まあな、君は神楽崎のファン? 俺の方がいい男だと思うぜ」
 ゼスタの返事に、綾乃はくすりと笑みを浮かべる。
「そもそも優子さんは女性ですから、あなたの方がいい『男』であることに間違いはありません。ゼスタさんは、甘い物がお好きなんですね」
 ゼスタが自分の為に皿にとったパンは菓子パンが中心だった。
「まあな、もう少しスイーツがあったら、良かったよな〜」
「では、このパン…パーティが終わったら『甘いスイーツ』を食べに行きませんか?」
 そう綾乃が誘うと。
「喜んで。お礼に、君が俺の好物を提供してくれるっていうんなら、デート代は全て俺が負担するぜ?」
 笑みを浮かべながら言うゼスタは、口からごく軽く牙をのぞかせた。
「私でもいいのなら。あなたの好物はこのテーブルに居る女の子達ですよね?」
 ゼスタがエスコートして集めた女の子達は、ゼスタの外見年齢より若い純粋そうな女の子ばかりだ。
「スイーツの美味しさは、食ってみねぇわかんねーからな」
 にこにこ笑みを向けるゼスタに、綾乃もくすりと笑みを返しておいた。
「スイーツでしたら、こちらをどうぞ」
 メイド服を纏い、手伝っている関谷 未憂(せきや・みゆう)が、ゼスタに妖精スイーツを差し出した。
「甘いお飲物もありますよ」
 未憂が押してきたワゴンには、紅茶、緑茶、牛乳、オレンジジュース、その他果汁、お茶類など、色々な飲み物が乗っている。
「紅茶淹れてくれる? 砂糖は三杯で」
「畏まりました」
 言われた通り、未憂はゼスタに甘い紅茶作ってあげた。
「サンキュー……だけど、なんか物足りないんだよな〜」
 にこにこ、ゼスタは未憂を見る。
「それなら、このトマトジュースもどうぞ?」
 笑いながら、ワゴンの裏から顔を出したリン・リーファ(りん・りーふぁ)が、ゼスタにトマトジュースを差し出した。
 彼女もメイド服を纏っている。
「ははは、もらっとく〜。メイドなリンチャンからの赤いプレゼント」
「あまいの……ある」
 プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は、あんパン、メロンパン、動物ビスケット、ドーナツをテーブルに並べていく。
「ん? これは食えそうもないけど」
 それから何故か、ねこぱんちもテーブルに置いた。
「パン…だから」
「そう、パンだからか……。ってどういう意味だよ」
 笑いながら、ゼスタはねこぱんちを弄る。
「これ装備して、マッサージとかしてくれないかなー。それとも俺がしようか?」
 ゼスタは未憂達、そして同じテーブルにいる女の子達を見回す。
「子ども達からね!」
 はいっと、リンがゼスタの膝に、近くにいた男の子を乗せた。
「一緒に食べたいみたいだよ」
 その子だけではなく、子供達がぞろぞろと未憂達についていきていた。
「一緒にたべよー」
「ジュースいれてあげるっ」
 子供達はワゴンの上からそれぞれ、リンゴジュース、オレンジジュース、メロンジュースを取って、テーブルに運ぼうとする。
「気を付けくださいね」
 未憂は身をかがめて、子供達に付き添う。
「あっ」
「うわっ」
「あーっ」
 しかし、何故か全員一緒に何もないところで躓いて、ジュースを零してしまう。
 リンやプリムにも少しかかったが、近くにいた未憂には三色綺麗にジュースがかかってしまった。
「このままでは仕事つづけられませんね……」
「ごめんなさーい。うわーん、僕も汚れちゃった、お着替え、お風呂ー」
 べたっと男の子が未憂に抱き着く。
「あっ、そんなことしたら余計に……」
 未憂に抱き着いた子供は、更に服を汚してしまう。
「わかりました、お着替えに行きましょう」
 未憂はその子を抱き上げて、他の子供達のことをパートナー達に任せると、更衣室に向かうことにする。
「ふふーん。みゆう」
 悪戯魔女のリンは、子供達の行動がわざとであることを見抜いていた。
「あたしたちの更衣室には子供いれちゃだめなんだって。だから着替えは別々にね」
「? わかりました」
 振り向いてそう答えて、未憂は不満気な子供を連れて会場から出ていった。
「汚れてかっこ悪いから、ひなんだ」
「かくれるぞー」
 残りの二人はそう言って、テーブルの下に潜り込もうとする。
「お土産持ってきたんだけどなー。隠れた子にはあげないよ?」
 リンは透明のビニールに入れて、可愛くラッピングしたお土産を取り出して見せた。
 水玉模様のそれは……。
「貰います」
「ください」
 ゴン、ガン、とテーブルに頭をぶっつけながらも、気にせず立ち上がり、2人はリンに手を差し出した。
「僕も」
「オレも」
「わしも!」
 ゼスタの膝から飛び降りた子、集まっていた子が列を作っていく。
「家に帰ってからハサミで開封してね」
 リンは沢山用意してあったお土産を子供達に配った後。
「ぜすたんにもいっこあげよう。きっと似合うよ?」
 ふふふ、にやりんとリンは笑いながらゼスタに差し出す。
「じゃ、俺からプリムちゃんにプレゼント。絶対似合うぜ? 3人でお揃いなんてどうだ」
 笑いながら受け取った後、ゼスタはプリムにその水玉の…を持たせた。
「おそろい……」
 これは何だろうとプリムは不思議に思う。
 食べ物ではないようだ。
 なんだか……丸まった下着のように見えるけど。
「シュシュだよ。頭に付けるゴム」
 リンがそっとプリムにささやいた。