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第10章 タイマンで修行だぜっっっっっっっっ!!

「私はイカしているのです☆ そして私の妙技をたっぷりと味わってもらいますよー☆」
 富永佐那(とみなが・さな)は、マイクを通して、そう声を張りあげていった。
 佐那はいま、魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナの姿に扮していて、まるで、プロレスのマイクパフォーマンス合戦のようなノリでしゃべりまくっている。
 実際、本人たちはプロレス形式の修行をするつもりなのである。
 ところで、そのプロレスのリングはどこにあるのかというと、もちろんシャンバラ大荒野の上にあるのである。
 ただし、ロープやマットはない。
「はい、魔法少女ろざりぃぬ登場!! こっちに注目しなきゃダメだよ!! 佐那さん、特別に許可する!! ろざりぃぬのブーツで、あなたの可愛いお尻をお仕置きすることをね!!」
 九条ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)も、負けじとマイクを通して声を張り上げた。
「ヒート! ヒート!」
 ヒートネイツたちが、九条に声援を送る。
 九条は、しばし口を閉じて、声援に耳を傾けた。
「ヒート! ヒート! ヒート! ヒート!」
 声援が、一層高くなっていく。
「ちょーっと、ちょっと☆ それこそ、注目する相手間違えてるよ★」
 佐那は、負けじと声を張り上げた。
「えー、海音☆シャナ伝3章16節いわく、『ろざりぃぬをやっつけて欲しい奴はヘル・ヤーと叫べ』と、書いてありまして☆ そこのところが肝心ですよー海音☆シャナかく語りきなのです☆ いいですか、身の程を知るのです☆ そしてかかってくるといいのですよ☆ お仕置きホテルにぶちこんであげます☆ わかったかーこのタコー★」
 最後の部分を特に強調して、佐那はありったけの声で侮蔑した。
「ずいぶん気合が入っているな。その意気だ。応援しているぞ」
 空の高みから、足利義輝(あしかが・よしてる)は、満足げにうなずいて、佐那を見守っていた。
「どこまでやれるか、お手並み拝見といきましょう」
 立花宗茂(たちばな・むねしげ)もまた、美輝の隣から、佐那を見守っていた。
「ヒート! ヒート!」
 ヒートネイツが九条に送る声援は、いっこうに鳴り止まない。
「ひっこめー! ひっこめー!」
 いつしか、声援は、佐那を攻撃するものへと変わっていった。
「魔法少女を、タコといったね、タコとー!!」
 九条は、まだ試合が始まらぬうちから、マイクを持った佐那に突進していった。
 悲鳴と怒号が飛び交う。
 パイプ椅子が振りあげられ、叩きつけられた。
 佐那もまた、紙テープを投げつけて応戦している。
 いわゆる、試合前の乱闘の状態であった。
「えー、それでは本日のメイン修行、ノーロープ密林エニウェアフォール式デスマッチの開始です!!」
 乱闘が途切れた瞬間に、佐那は自分でゴングを鳴らして、試合開始を宣言していた。
 ノーロープ密林エニウェアフォール式デスマッチとは、リングがない密林、あるいは大荒野で行う破天荒なプロレスを指す。
 どこにもリングがない関係で、どこでもいいから技をかけて3カウントを奪った方の勝利である。
 また、自然のあらゆるものを武器として使えるので、技の幅が非常に広がっている試合形式だった。
 佐那と九条がぶつかったとき、誰しも、どちらが勝利者となるか、想像もつかなかったという。

「よし、いい修行場じゃないか。さあ、かかってこいよ!!」
 神条和麻(しんじょう・かずま)は、指を折り曲げて、修行の相手である曹丕子桓(そうひ・しかん)をさし招いた。
「おお、和麻が相手をしてくれるんだな! ちょうど最近腕がなまっていたところだ。闘えるのは嬉しいが、失礼のないよう、全力であたらせてもらう! だから、お前もその力の全て、示してみせろ!! うおおおおおおおお!!」
 曹丕は、胸をそらして、思いきり力んでみせた。
 バリバリバリ!
 服が避けて、筋肉の盛り上がりを露呈させる。
 よくみると、曹丕の額には、不思議な布が巻きついている。
 だが、和麻は、一般的な鉢巻きではないかと考えた。
「ほおおおおお!! いくぞ!! あたたたたたー!!」
 曹丕の拳が、和麻に襲いかかる。
「いわれるまでもない。俺も全力だぜ!!」
 和麻は、軽い動きで曹丕の攻撃をかわしながら、攻撃を入れてまた避けるという、ヒットアンドアウェイの要領で仕掛けていった。
「ふふふ。俺は手出ししないからな、二人とも正々堂々、全身全霊を尽くして闘ってくれ!!」
 二人の闘いの様子を遠くからビデオに録画しながら、柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)がいった。
 曹丕は和麻の攻撃を防ぎながら、反撃の機会をうかがったが、なかなか和麻は隙をみせない。
 それなら。
 曹丕は攻撃を受け止めた瞬間に尻尾で、和麻を横からうちすえた。
 バシイッ
「うん!!」
 和麻は、不意をつかれて、よろめく。
 その隙を、曹丕は見逃さなかった。
「はああああああ。ふん!!」
 怒濤の連続技が、和麻を襲った。
 殴って、殴って、殴って、蹴る。
「がっ、ごっ、げっ」
 連続で攻撃を受けて身体をガクガク揺らしながら、和麻は呻いた。
「すごいな。これが、『踏破蹂躙ノ回路』の力!! やれー、それー、そして、ナイスショット!!」
 録画を続ける柳玄は、思わず笑みを禁じえない。
 曹丕が額に巻いている呪布、踏破蹂躙ノ回路の効果はすさまじかった。
 だが。
 何かが、おかしい。
 この勢い、どこかからの力か!!
 殴られながらも、和麻は見破っていた。
「この布は、何だ!!」
 和麻は、拳を頬に受けながら、曹丕の額の呪布をはぎとっていた。
「お、おお!? しかし、それがなくたって!!」
 曹丕は一瞬動きを止めたが、たちまちのうちに盛り返す。
「どれ」
 一方、和麻は、踏破蹂躙ノ回路を、自らの額に巻いていた!!
「が、がああああああああ!!」
 和麻は絶叫した。
 全身の筋肉が盛りあがり、衣服が裂けて、全裸になってしまう。
「ナ、ナイスショット!! でも、奪われてしまった!!」
 和麻の筋肉美を撮影しながら、柳玄は舌打ちした。
 恐るべき、和麻の闘争本能だった。
「いくぞ!!」
 曹丕は吠えた。
「あ、あべべべべべべ!!」
 和麻は、わきあがるような自分の力に戸惑いながら、曹丕に突進した。
 互いに、殴って、殴って、殴って、蹴る。
「ごおおおおお!!」
 踏破蹂躙ノ回路の力にはかなわず、曹丕はうずくまる。
「いいよ、いいよ、こんなものは使わない!! 正々堂々とやろう!!」
 和麻は、踏破蹂躙ノ回路をはがすと、ポイッと捨てた。
「さあ、生まれたままの姿でやりあおう!!」
 和麻は、曹丕に組みついていった。
 二人は組み合ったまま、ごろごろと転がった。
 いつ果てるともない、泥んこのデスマッチとなっていったのである。
「あった、あった。踏破蹂躙ノ回路を捨てるなんて、まったく!!」
 柳玄は、ブツブツいいながら、和麻が放りなげた踏破蹂躙ノ回路をみつけると、回収して、己の額に巻いてみた。
「はー、ちょっとだけ。が、がががががが」
 踏破蹂躙ノ回路のすさまじい効果に、柳玄は身悶えた。
「べ、べべべべべべべ!! ほああああああああー!!」
 絶叫とともに、柳玄の筋肉が盛り上がり、衣服がビリビリに裂ける。
「ひゃはははははははは!!! ぐおおおおおおおお!! あちょ、あちょー!!!」
 拳を真っすぐに突き出すと、柳玄は、力尽きるまで、地平線の果てにまで走っていったとのことである。
 録画は、いいの?

「魔法少女式☆ 飛びつき腕ひしぎ逆十時固め!!」
 一方、ノーロープ密林エニウェアフォール式デスマッチにおいては、富永佐那(とみなが・さな)こと海音☆シャナが、九条ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)ことろざりぃぬに間接技を決めていた!!
「き、きーーーー!!」
 九条は、歯を食いしばって激痛に耐えた。
「いつまでもつかな★」
 佐那は、勝利に向かって、ひたすら力をこめる。
 そのとき。
「ほほほほほほほほほほほほほ!!! びびびびびびびびびびびいびび!!」
 絶叫をあげながら、踏破蹂躙ノ回路を額に巻いた、柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が拳を突き出して、佐那と九条に突進してきた。
 どごーん
「わ、わー!! ら、乱入☆」
 柳玄の攻撃の衝撃で、佐那は、九条を離してしまった。
「ぴよぴよぴよぴよりー」
 叫びながら、柳玄はなおも拳を構えて走り続け、どこかへ消えていった。
「ふー。それじゃ、反撃しよう!!」
 九条は、態勢をたてなおして、佐那にドロップキックを仕掛ける。
「やるじゃない☆ いったー☆」」
 額から血を流して、佐那は天をあおぎ、歯を剥き出した。
「まだ、負けないよ☆ 魔法少女式ボディプレス!!」
 佐那は、九条を放り投げると、大きな木の上から飛びおりて、身体を回転させながらすさまじい重量の圧迫を九条に決めた。
「ぐ、ぐうう、まだまだ」
 九条は、意識が遠くなるのを感じた。
 そのとき。
「ヒート! ヒート!!」
 あの声は!!
 あの声援は!!
「ヒート! ヒート!!」
 まだだ!
 まだ、倒れるわけにはいかない!!
 ヒートネイツの声援が、九条をよみがえらせた。
「とああああ」
 勝利を確信していた佐那の身体を、九条は抱きかかえた。
「まじかる☆916!!!」
 3連続の高速ブレーンバスターを、九条は佐那に決めた。
 どごっ、どごっ、どごっ
「は、はああああああ☆」
 これには、さすがの佐那も参ってしまった。
 ガクッと膝をつき、倒れる。
 カウント。
 ワーン!!
 ツー!!
「あっ、ちょっと待って☆ 最後の力だ☆」 
 失神寸前に、佐那は起き上がった。
 勝利を確信していた九条を、佐那は背後から抱きかかえた。
「生命賭けの大技、リップル・スランバー!!」
 佐那は仰向けに倒れこんで、九条の顔面を大きな石に叩きつけた。
 ガバッ
 ありえないことだが、石が、割れてしまった。
 ぶしゅう
 さらにありえないことだが、石が割れた下の地面から、温泉がわきだしてきたのである。
「は、はああああああ、もう駄目」
 九条は倒れた。
 同時に。
「もう限界☆」
 佐那も、倒れた。
 カウント。
 ワーン!!
 ツー!!
 スリー!!
 2人とも倒れた状態で、カウントは終わった。
 勝利者は、誰になるのか?
 これではよくわからないので、おそらく、目を覚ましたら2人は再びデスマッチを始めるのだろう。
 そのとき、闘えるだけの力がまだあるのなら、だが。
「ヒート! ヒート!!」
 すっかり興奮したヒートネイツたちは、互いに肩を組みながら、絶叫をしつつ地平線に向かって歩いていったとのことである。