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第8章 交信して修行だぜっっっっっっっっ!!

「ここはどこですか? ボクは、どうなってしまうんでしょうか?」
 非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、すっかり当惑してしまっていた。
 薄暗くて、ひんやりとした場所だった。
 遠くから、滝の音がする。
「そなたも、ここで、修行をするのじゃ」
 【分御魂】天之御中主大神(わけみたま・あめのみなかのぬしのかみ)がいった。
「怖がることはない。ここで、我らが見守る中で瞑想をするがよい」
 【分御魂】高御産巣日大神(わけみたま・たかみむすびのかみ)がいった。
「貴殿は、ここでの修行により、より高次の存在へと昇華すべきなのよ」
 【分御魂】神産巣日大神(わけみたま・かみむすびのかみ)がいった。
 近遠は、これらの英霊のパートナーたちに拉致され、強制的にこの洞窟の奥にまで連れてこられてしまったのだった。
 そこは、ちょうど、他の生徒たちが修行にいそしんでいる、滝壺の滝の流れをくぐっていった奥にある洞窟で、普通はなかなか気づかない、穴場的な場所だった。
 滝の流れをくぐってきたせいで、近遠の身体は濡れていた。
「ま、まあ、肉体的な修行ではなく、精神的な修養の修行なら、何とかやれそうですけど」
 近遠は、しぶしぶ瞑想を承諾した。
 逆らっても、独力で帰れるような場所ではない。
 交信することで1段階昇華できる、というのはよくわからなかったが、やってもよさそうだと思うことはできた。
 目を閉じ、精神を集中させる。
 ごおおおおおお
 滝の音が、より一層大きく聞こえるようになった。
 だが、その響きさえも越えて、近遠は一心に祈り続けた。
「よし。導こう。わしらの本体に触れるがよい」
 【分御魂】天之御中主大神がいった。
 ふわり
 祈り続けるうち、近遠は、自分の身体が浮き上がったように感じた。
 ふわふわふわ
 浮き上がった身体が、遥かな高みへと昇っていく。
 そして、高みからさす光。
 光との接触を、近遠はイメージした。
「おお、ここまでいけるとはな」
 【分御魂】 高御産巣日大神が、感心したようにいった。
「さて、何がみえるかが、大事なんだわ」
 【分御魂】 神産巣日大神がいった。
 不思議だった。
 近遠は、自分がここでこうして瞑想して、高みにある存在と接触することが、以前から予定されていたように感じるのだった。
 なぜか?
 だが、そんな疑問について考えることは、雑念になってしまう。
 近遠は、ただひたすら光を念じて、祈り続けた。
 すると。
 何かが聞こえてきた。
 かすかな、耳を澄ませないと聞こえないような声。
 何をいおうとしているのか?
 近遠は、より一層精神を集中させた。

「さーて、俺はHIKIKOMORIの神と交信するとしようかー!」
 上條優夏(かみじょう・ゆうか)は、威勢よく叫んで、座り込んだ。
 滝壺の側である。
 ざざざざざざ、という滝の音を聞きながら、優夏は目を閉じて、一心に呟いた。
「働いたら負け、働いたら負け……俺は将来絶対勝ち組になったるでー!!」
 なぜそんな言葉を呟くのか、はじめて聞く人は不思議に思うだろうが、優夏は、何とかHIKIKOMORIの勝ち組になりたいと思っていたのである。
 そのためには、HIKIKOMORIの神と交信するのが一番だと思ったのだ。
 八百万の神々というように、森羅万象全てに神は存在する。
 それなら、HIKIKOMORIにも神は存在するだろうと、そう優夏は思ったのである。
「みのむしー、みのむしー」
 チルナ・クレマチス(ちるな・くれまちす)は、そんな優夏に近づくと、ニコニコ笑いながら、ロープでぐるぐる巻きにしていった。
 一心に精神を集中させている優夏は、まったく気づかない。
 ロープに巻かれてミノムシのような姿になった優夏をみて、チルナはほくそ笑んだ。
 さらに、チルナは、優夏の身体を、側にあった木の枝に縛りつけ、逆さ吊りにしてしまったのである。
 こうして、その姿は、まさにミノムシそのものとなった。
 逆さ吊りになってもなお集中を解かない優夏は、ある意味立派であった。
「よくできましたー! それじゃ、おかしな方向に優夏がいって戻ってこなくなる前に、何とか軌道修正できるよう、邪魔しちゃうわよ☆」
 フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は、チルナの頭を撫でてから、ひたすら瞑想を続ける優夏にきっと向き直った。
「はあああああ!! 歴戦の魔術!!」
 びしびし、びし
 ロープにぐるぐる巻きにされて逆さ吊りにされている優夏に、フィリーネの術が襲いかかった。
 魔法のダメージが、優夏を痛めつける。
「うう、うっ」
 優夏は、顔をしかめた。
 それでも、集中を解かない。
 むしろ、痛みに耐えようと、必死で精神を集中させることになった。
「うーん、やるわねー」
 フィリーネは、腕組みをして、思わず感心してしまいそうになった。
「はーい。それじゃ、いっしゅんだけ、いきのねをとめてみるね」
 今度は、チルナが氷結の魔法を使ってきた。
 ごおおおおおお
 かちかちかち
 チルナの術によって、優夏はカチカチの氷づけにされてしまった。
「やったー、しゅぎょう、しゅぎょう」
 チルナは、ニッコリと微笑んだ。
 だが、優夏は、氷づけにされたことによって、かえって精神を集中しやすくなったようだった。
「負けへんで。心頭滅却すれば、火もまた涼しー!!」
 氷づけにされながらも、なお、優夏は心の中でそう呟いていた。
 火もまた涼し、という表現は合わない状況だったが。
 そして。
 ついに、優夏は、何かと接触を果たしたのである。
(……ちる。……が、……ちる)
 優夏の脳裏に、かすかな声が響く。
 気をつけないと、聞き逃してしまいそうな、かすかな声。
(な、なんや、ついに! HIKIKOMORIの神か?)
 優夏は、感動で胸がうち震えるのを覚えた。
 どうやったら、HIKIKOMORIは勝ち組になれるのか?
 その問いに、驚愕の答えがかえってきた。
(……死ぬ。HIKIKOMORIは、死ぬ)
(な、なんやて!! 何でそんなこと!!)
 優夏は、変な存在とつながってしまったのではないかと思った。
 だが。
 メッセージは、さらに続いたのである。
(HIKIKOMORIは、動かないままでいるならば、きたるべき災厄の前で、死ぬ)
(きたるべき災厄、やて? 何や、それ。それが来るのが確実だから、死ぬと?)
(……いかにも)
(けど、その災厄が何なのかわかれば、逃れられるんとちゃう? どうや?)
 優夏のその問いに、その謎の存在は、再びかすかな声で返してきた。
(……ちる、……冥王星が、落ちる)
(は!? なんやて!!)
(荒野に、冥王星が、落ちる)
 そして。
 謎の存在からの交信は、それっきりで終わってしまったのである。
「な、何やいまのお告げはー!!」
 くわっと目を見開いて、優夏は絶叫した。
 ぱりーん
 身体を覆っていた氷が、砕け散った。
「な、何やこれは!! 逆さ吊りやないかー」
 優夏は、ミノムシ状態の自分の姿に気づいて、愕然とした。
「おっはよー。何か、電波きたのかしら?」
 フィリーネは、にっこり笑って尋ねた。
「ああ。驚くなよ。冥王星が落ちるんやて!! はよ、みんなに知らせな!!」
「はあ!?」
 優夏のその言葉に、フィリーネは目を丸くした。
「おちるーおちるー」
 事態を理解しないチルナは、ただニコニコと繰り返すのだった。

「おい、みんな、聞いてーな!! 大変なんやで!! 冥王星が落ちるんや!! はよ逃げな!!」
 瞑想を解き、ミノムシ的束縛からも脱した優夏は、周囲の生徒たちに自分が聞いたお告げを知らせてまわった。
 だが。
「はあ。まさに電波?」
「ろくな存在と交信しなかったみたいだね」
 生徒たちの反応は、冷淡であった。
 誰も本気にしてくれないので、優夏もだんだん「自分が聞いたのは、悪霊の囁きだったのではないか?」と、疑問を抱くようになってしまった。
 そのとき。
「どうしたんだ?」
 ブオンという爆音とともに、バイクに乗った風森巽(かぜもり・たつみ)が通りかかった。
「ああ? 実はなー」
 優夏は、とりあえず予言のことを話した。
「冥王星が落ちる?」
 風森も、すぐに信じるわけにはいかない話だった。
 だが、本当だったとすれば、大変なことになる。
 たとえば、冥王星を「ミサイル」に置き換えれば、どうだろう。
 十分、ありえそうな話ではないか。
 人工衛星の発射と称してミサイルを他国に撃ち込もうとする国もあるくらいである。
 天変地異というより、人災としてありうるとみることもできるだろう。
 シャンバラの平和を守る者として、風森は、優夏の話を聞き捨てにすることはできなかった。
「でも、だーれも、信じやせんのや。あー、ホンマの予言ではなかったのかいなー」
 優夏は、自分自身の疑問を口にした。
 そのとき。
「本当です!!」
 突如、流れ落ちる滝のただ中から人影が現れたかと思うと、非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)が顔を出して、生徒たちに呼びかけたのだ。
「な、何や!?」
 優夏は、驚いて近遠をみつめた。
「その人のいっている予言は、本当のことです。ボクは、さっきまで瞑想していて、遥かな高みにある光の声を聞いたんです!!」
 ざわざわざわ
 生徒たちは、いっせいに関心を近遠に向けた。
「遥かな高みにある光の声? 神様のことか?」
 風森は尋ねた。
「わかりません。ですが、その声はいっていました。『闇に抗う光をみよ』と。そして、優夏という人がする予言は真実であると。その声の、真意は不明なんですが」
 近遠は、興奮した口調でいった。
 そんな近遠の姿を、遠くから、{SFL0045527#【分御魂】 天之御中主大神}たちがニッコリと微笑んで見守っている。
「はー。やっぱりえらいことが起こるようやな!!」
 優夏は、決心した。
 バトルなどで修行している生徒たちにも、お告げのことを知らせようと。
 冥王星が落ちる。
 どういうことかはわからないが、みんなで逃げるか、対策を考えるべきなのだ。
「俺も、調査してみよう。どうも気になる」
 風森もそういうと、バイクにまたがった。