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第6章 新必殺技を決める修行だぜっっっっっっっっ!!

「おやっさーん、ウチもお願いします!!」
 奏輝優奈(かなて・ゆうな)は、崖の上のおやっさんを大声で促し、頭を下げた。
「おう!! ひときわでかいのをやってやろう!!」
 おやっさんはニコッと笑ってそういうと、ひとまわり大きな鉄球をごろごろと転がして、崖から落としていった。
 ごおおおおおおお
「いくよ!!」
 たたた
 優奈は駆けた。
 考案中の必殺技。
 それは。
「コメットダーイブ!!」
 優奈は、鉄球と真っ正面から激突した。
 次の瞬間。
 大音響とともに、鉄球は爆発して砕け散ってしまった!!
「イタタ。もうちょっと慣れなアカンなあ」
 優奈は、痛む腰をさすりながら、舌を出した。
 コメットダイブ。
 恐るべき必殺技は、いまだ開発の途上にあったのである。
 いわゆる「見せ技」ではないので、実戦で使えるようにならなければ、意味がない。
 いま、鉄球を受けたときに優奈が受けたようなダメージを毎回受けるのでは、とても身体がもたないことになる。
 何より、技を決めた後に生じる隙が大きいと、戦場では死活問題となる。
 優奈は、技のクォリティにもっと厳しくなるべきだと感じていた。
「おやっさん、もうしばらく投げ続けてもらってええかなー?」
 優奈は、申し訳ないといった表情でおやっさんに依頼する。
「おう。いいぞ!!」
 おやっさんは、快く引き受けてくれた。
「うわあ、優奈すごいなぁ。ウルもあれぐらいできるようになりたいなぁ」
 優奈の修行の光景を、ウル・リネル(うる・りねる)は感嘆の吐息をもらしながら見守っていた。
 鉄球に突進して、爆発四散させてしまうという、優奈の荒技ともいえる必殺技は、開発途上とはいえ、素人からみればとても「ありえない」ような極限の境地を示すものだったのである。
「あー。ウルにはとてもあんなことはできないけど、何だか刺激されちゃうなあ。ただ見学してるだけじゃなくて、筋トレでもしようかなあ」
 そこまでいったとき、ウルは、誰か、みたことのある者が、自分と同じように、優奈の修行をくいいるようなまなざしで見入っていることに気づいた。
 いや。
 その者は、ウルのように素直な感嘆というよりは、どこか、羨望や恨み、嫉妬といった感情のこもる目で、優奈をみつめていた。
 その者は、ウルが非常によく知る者であった。
「エル!! こんなところに、何しにきたの? まさか、優奈をみるために?」
 ウルは目を丸くした。
 まさか、このような大荒野で、自分の妹と再会することになろうとは!!
「何、あれ? 鉄球に激突して爆発させる? 嘘よ。あれが兄さんの契約者なの?」
 エル・リネル(える・りねる)は、顎が外れそうなほど大きく口を開いたまま、優奈の修行の光景をぽかんとみつめていた。
 旅に出た兄を追ってきてみれば、兄は得体の知れぬ女と契約していたのだ。
 そのことが、エルにはショックだったし、認めたくなかったし、どんな女かは知らないが、ウルにふさわしい存在であるはずがないから、邪魔してやろうと、そう決めて、修行の場にまで押しかけてきたのだ。
 で、実際に、邪魔者の修行の様子をみてみると、これがまた、どえらいものをみせられてしまったので、さすがのエルもひきそうになったのである。
 さすがに、「あんなのエルでもできる!」とはいえない。
 さらに、あの優奈という女と闘いになったとしたら、何だか自分の方がバラバラにされてしまいそうだ。
 優奈は、意図せずして、エルに対してものすごいパワープレイを行っていたのである。
 エルには、鉄球を破壊したときの優奈が、自分に対して「何か文句あるの?」といっているようにさえみえたのだ。
 だが、負けてはいられない。
 どんなに相手が強大であったとしても、何とか一矢報いねばならない。
 そうでなければ、ウルを追って家を出てきた意味などないのだ。
 エルは、拳をかたく握りしめた。
 だだだだ
 無意識のうちに、駆け出していたエル。
 そこには、優奈と、さらに、迫り来る鉄球とがあった。
「ウルを、ウルを返せー!!」
 エルは、叫びながら、優奈にタックルを仕掛けた。
 そして。
 あっさりかわされた。
 当然、次に来るのは。
 ごろん、ごろん
「う、うわああ!!」
 エルは悲鳴をあげた。
 巨大な鉄球が目の前にまで迫り、エルを押しつぶそうとしていたのだ。
「た、助けてー」
 エルが、死を覚悟したとき。
「もう、危ないっていうてるやん!!」
 優奈が、鉄球に向かってアタックを仕掛けた。
 どごーん
 エルの眼前で、鉄球は破壊され、バラバラになってしまった。
「は、はああ」
 エルは放心して、座りこんでしまった。
「エル、エルー!! 大丈夫?」
 ウルが、駆けてきた。
「エルっていうん? ウルの妹? ここまできはったの?」
 優奈は、エルをしげしげとみつめた。
 そんな優奈を、正気を取り戻したエルは、きっと睨みつけた。
「な、何や。エルが、自分から鉄球の前に出てきたんやないか」
「助かったわ。ありがとう」
 エルは、淡々と、そういった。
 心が、限りなく透明になっていた。
 その透明な心が促すままに、エルは動いた。
「アンタ、優奈っていうんでしょ? 契約してあげるわ」
「はあ?」
 思いがけない言葉に、優奈はぽかんとした。
「ありがたく思いなさい。勘違いしないで。兄さんに変なことしないか、監視のためよ」
 頬を膨らませて、ぷいっと横を向いて、エルはいった。
「そう。そうなのね。わかったわ」
 優奈は、うなずいた。
 契約を断る理由はない。
「エル!! エルも、優奈と、ウルと一緒に!!」
 ウルは、言葉にならない感動を覚えて、2人の姿をみつめていた。
 そして。
 そんな3人の姿を、崖の上の高みから、おやっさんが腕組みをして、笑みを浮かべ、ウンウンとうなずきながら、温かいまなざしでみつめていたのである。
 
「荒野で修行、だーよ、でも、にょにんきんせーだーよ、そーれがどうした、美羽は男ー」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、鼻歌を歌いながら、鉄球を相手に修行を続けていた。
「美羽、修行がんばってね。疲れたら、いつでも僕が回復させてあげるよ」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、美羽を優しく見守りながらいった。
「うん、美羽がんばる!! だって、男の子だもん!! どあー!!」
 叫んで、美羽は、おやっさんが転がした鉄球に向かっていった。
 たたた
 どごーん
 美羽の、高速回転から繰り出されるキックが、鉄球を見事に破壊する。
 それだけではない。
 キックの巻き起こすすさまじい風圧が、瞬間的に、竜巻までも発生させるのだ。
 びゅううううう
 美羽の太ももが伸びるとき、辺り一面に神風が巻き起こり、周囲のもの全てを天空に巻き上げるのである。
 ハリケーンキック。
 それが、美羽の開発している必殺技の名前だった。
「はー! りー! けー! んー!! みわー!!」
 美羽は、かけ声とともに、何度も何度も回転して、必殺技を放つ。
 誰も、美羽は実は女だと気づいていないが、実は、メタモルキャンディーを舐めて男に変身しているのである。
「美羽! 素晴らしいよ!! 美羽のキックは、どんなものでも破壊するよ!!」
 コハクは、美羽の修行の光景をみて、しきりに感心していた。

「う、うわあああ!!」
 風森巽(かぜもり・たつみ)は、悲鳴をあげて、鉄球に吹っ飛ばされた。
「巽!! 大丈夫か?」
 おやっさんが、崖の上から心配そうに風森を見下ろして、いった。
「大丈夫です!!」
 風森は、歯を食いしばって立ち上がった。
 全身傷だらけで、疲労困憊の体であるが、それでも、風森は自分に鞭うって、あらたな技を編み出そうと必死に修行するのであった。
 だが、風森がみいだそうとしている技は、そう簡単に完成されるものではなく、何度鉄球にぶつかっていっても、弾くことができず、逆に吹っ飛ばされてしまうのである。
 風森の構想にある技は、何というか、呼吸が難しいのである。
「そんな身体では、もう無理だ。今日は休もう」
 おやっさんが、そういったとき。
「やらせて下さい!!」
 風森は、力強く叫んでいた。
「むう」
「あともうちょっとなんです。あともうちょっとで、技が……。おやっさん、俺は平気です。特訓を続けて下さい!! 俺は、世界の平和のために闘わなければならないんです!!」
 風森の言葉に、おやっさんは胸をうたれた。
「そうか。なら、もう少しいくか!! 完成してみせろ!! お前の技を!!」
 ごろん、ごろん
 おやっさんは、再び鉄球を転がしていった。
「いくぞ、うおおー!!」
 風森は、走った。
「とあっ」
 跳躍し、鉄球に組みつくようにする。
「おおっ!!」
 おやっさんは、大きく目を見開いた。
 風森は、鉄球を抱えて、くるくるとともに転がるような仕草をしてみせていた!!
 非常に複雑微妙な呼吸を必要とする技であった。
 鉄球にとりつくだけでなく、その後、ともに回転運動をしなければならないのである。
 さらに、最初は鉄球の動きにあわせているが、徐々に、その動きを自分が支配していくのだ。
 そして。
「ほー、はー」
 風森は、鉄球を抱えあげて、何度も何度も地面に叩きつけたかと思うと、宙に放り投げると、自分もジャンプして、キックで砕いてしまった!!
「ふー」
 息をつく風森。
「おお、これは!! ついにやったのか?」
 おやっさんは、思わず駆け出して、風森に近づこうとした。
 そのとき。
「みつけたぞ! やっちまえー!!」
 柄の悪い声がしたかと思うと、修行場に、謎の獣人軍団が現れたのである!!

「うん? 何だお前らは?」
 風森は、自分たちを包囲した、謎の獣人軍団を睨んで、いった。
「ウガー!! オオカミ獣人!!」
「オッホー!! フクロウ獣人!!」
 獣人軍団は、次々に自己紹介を始めた!!
「カーマ、カマ!! カマキリ獣人!!」
 そのとき、風森は、はっとした。
「お前ら、まさか、シボラの遺跡にいた獣人か!? はるばるここまで、俺を追ってきたっていうのか」
 風森は、詳しい記憶はなくしていたが、シボラの遺跡に修学旅行に行った際に、やはり謎の獣人たちと闘ったことを想いだした。
「ちょうどいい。技が完成に近づいていたんだ。お前ら、まとめて、練習台にしてやるぜ!! はああ」
 風森は、変身ポーズをとった!!
「仮面ツァンダーソークー1!! ソークー、ファイト!!」
 変身した風森は、腕を折り曲げて、ガッツポーズをとった。
 その日は、仮面ツァンダーシボラというより、ソークー1な気分であった風森であった。
「とおっ」
 風森は、跳躍した。
「ギー!!」
 同時に、獣人たちが襲いかかってくる。

「美羽もやるよー!!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)も、獣人たちに向かっていった。
 しゅしゅしゅ
「あ、あれー!? 女の子に戻っちゃった!!」
 メタモルキャンディーの効果が切れ、美羽は女の子に戻ってしまった。
「わ、わー!! 女人禁制のところにいるよ!! どうしよー!!」
 驚いた美羽は、とりあえず駆けまわった。

「おう、これはいい。実戦トレーニングもできるというわけだ!!」
 鉄球を斬る修行を続けていた桐ヶ谷煉(きりがや・れん)は、ニヤッと笑うと、剣を構え、目を閉じて、精神を集中させた。
「はああ。明鏡止水」
「ギー!!」
 そんな煉に、獣人たちは、情け容赦なく襲いかかってくる。
 くわっ
 煉は、目を見開くと、目にも止まらぬ速さで剣をひらめかせ、襲いくる獣人を次々に斬り伏せ始めた!!
「ブ、ブオオ!!」
「グオオ!!」
 斬り裂かれた獣人たちの手が、足がちぎれ飛び、鮮血が吹きあがる。
 返り血をものともせず、煉は走り続けた。
 走って、走って、斬る。
「オー、オッホ、オッホ」
 そんな煉に、キングコング獣人が立ちはだかった。
 巨大な獣人である。
「奥義、真・雲耀之太刀!!」
 煉の、新必殺技が炸裂した。
 だが、それは、あまりにも速い一撃で、誰も視認することができなかった。
 みなの目にうつったのは、たたたっと高速移動した煉が、キングコング獣人とほんの一瞬触れあったかと想うと、次の瞬間、獣人の首根から鮮血がほとばしったという結果だけであった。
「すごい!! 剣聖だもん☆」
 ぱちぱちぱち
 騎沙良詩穂(きさら・しほ)は、絶対領域を輝かせながら、煉を讃えていた。
「剣聖? だが、まだまだ道半ばだ!!」
 煉はフッと笑ってみせると、襲いくる獣人たちを斬り続けた。

「はん! おめーらなんざ、束になってかかってきたって、ドージェの足下にも及ばねえんだよ!!」
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は吐いて捨てるようにいうと、迫りくる獣人たちを張り飛ばし、荒れ狂う野獣と化した。
「ハー!! ドスコイ、ドスコイ!!」
 パンダ獣人が、ゲブーに張り手をくらわせてくる。
「ガハハー!! なんじゃそりゃー!! 遊んでんじゃねえぞコラァ!!」
 ゲブーは豪快な笑いを浮かべると、自らのモヒカンを両の掌ではしっと挟みこんだ!!
「パワーオン!! おっぱい、ボイン、ちちー!!」
 ゲブーは、目を閉じると、無数に近い数の、全裸の女性を想い浮かべた!!
 一糸まとわぬその姿、けれどゲブーの目は、何よりもその胸にしなる乳房にのみ吸い寄せられていく!!
「女一人いれば、乳が2つ!! 二人で、4つ!! 三人で、6つだー!!」
 ゲブーが想い浮かべた女性たちの中には、なぜか、騎沙良詩穂(きさら・しほ)の姿があった。
 ゲブーは、何もいわず、ヴァーチャル詩穂の露な胸を、ぎゅっと掌で包みこんだ!!
「あ、あいいーーーーー」
 ヴァーチャル詩穂は、妙なる喘ぎの声をあげて、身悶えた。
「よし、パワーチャージ!!」
 ゲブーは、目を見開き、現実世界へと舞い戻った。
「どりゃー!! 月面三回宙返り!!」
 跳躍したゲブーは、見事な宙返りを決めて、着地すると、相撲のシコを踏むような仕草をみせながら、パンダ獣人を威圧した!!
「はー、揺れるおっぱい、ぷりんぷりん!!」
 両手を揺らめかせ、自らの乳を揺さぶってみせると、ゲブーは、パンダ獣人に突進した。
「いくぜ!! 愛と青春の!! GEBUキーック!!」
 げぶー!!
 ゲブーは、すさまじいヘッドバッドをくらわせ、モヒカンでパンダ獣人の身体を斬り裂いてしまった!!
「ドスコイ、ドスコイ、ドスドスドス、キー、ドカーン!!」
 悲鳴をあげて、パンダ獣人は爆発・四散した。
「合掌。おっぱい神に!! おっぱいの愛を知らぬ奴らは、天誅だぜぇ!!」
 ゲブーは合掌して、頭を下げた。
 キラッ
 そんなゲブーのモヒカンが一瞬光を放ち、その頭上に、一瞬だけだったが、全裸の姿の精霊が、勝利を祝福するかのように妖しく身をくねらせて、消えたのである。
 もちろん、その精霊のおっぱいは、見事だった。

「おっ、これは、妨害というより、修行の一環になりそうじゃないか」
 柊恭也(ひいらぎ・きょうや)は、獣人の群れにすごまれても、武者震いを起こすことしか知らなかった。
「さあ、いくぜ!!! おっ、わー!!!」
 アイロン獣人に斬りかかっていった柊は、反撃をくらって、あっさり吹っ飛んでしまった。
 それにしても、豪快な吹っ飛び方であった。
「く、くそー!!」
 起き上がった柊は、悔しそうに地面を拳でうちすえると、ペッと血の混じった唾を吐いた。
「ハハハハハ!!! 死ねー!!」
 アイロン獣人は、嘲笑を浮かべながら、柊に突進し、全身を構成するそのバカデカいアイロンでぺちゃんこにしようとする。
「うん!! これだ、この感覚!!」
 柊は、ピンとくるものがあって、アイロン獣人の攻撃をかわすと、目にも止まらぬ速さでその背後にまわりこんだ。
「おおおおおおお、小宇宙(コスモ)が、俺の小宇宙が燃えている!!」
 柊は、全身を包むオーラが促すままに、恐るべき剣の一撃をアイロン獣人に叩き込んだ!!
 ぼごおおおん
 斬り裂かれたアイロン獣人の身体が、炎に包まれる。
「やっと決まったな。ふっ」
 柊は、燃え尽きたかのような表情で、ニヤッと笑ってみせた。
 ちゅどーん!!
 アイロン獣人は、大爆発を起こした。
 同時に、柊は倒れていた。
「俺の小宇宙が、消えた? でも、何だ、このすがすがしい心境は……」
 柊は、自分の精神世界が光に包まれるのを感じていた。
 実に彼はこのとき、また一段、高みへと昇りつめたのである。

「おお、みんな、いろいろ活躍しているようじゃないか。そろそろ、俺もいくぜ!!」
 複数の獣人に絡まれながらも、力強く拳を振るってうちはらい、少しも怯む様子もみせずに、風森は叫んだ。
「しゅるしゅるしゅるしゅる!!!」
 タコ獣人が、触手を伸ばして、風森の身体を絡め取った。
「ふん!! とあー!!」
 風森は、まとわりついた触手をつかむと全力で引き、逆にタコ獣人をよろめかせ、蹴り飛ばした。
「カマカマカマカマカママ!!!」
 跳躍したカマキリ獣人が、背後から風森の後頭部を襲った。
 首をひねって攻撃をかわすと、風森は振りかえりざま、カマキリ獣人の首根をつかんで、放り投げる。
「ギエエエエエ!!」
「とおっ」
 風森は、跳躍した。
 どごっ
 ちょうど目の前に突っ込んできたトンボ獣人の腹を、キックでえぐる。
「ブーンブン、ヤンマー!!」
 トンボ獣人は、悲鳴をあげて爆発した。
「お、おのれ!! 貴様、許すことあたわじ!!」
 ひときわ凶暴な、恐竜獣人が、他の獣人に指図して攻撃を仕掛けさせながら、自らも怒りに任せ、風森につかみかかってきた。
「マーキュリー回路もないお前が、ワシに勝てるか!!」
 恐竜獣人は、すさまじいバイト攻撃を風森の肩に仕掛けた。
「キューピー回路? 何だそれは!! そんなもの、なくてもいい!!」
 風森は、恐竜獣人の顎をつかんで自分から引き剥がすと、槍を巧みに振り回して相手を翻弄し、斜め、さらに別の方向から斜めに斬り裂いてX字の傷跡を生じさせた。
「エックスデーアタック!! いくぞ!!」
 風森は、恐竜獣人の身体を放り投げると、自分も跳躍して、空中で槍を鉄棒にみたてて、つかんで身体を回転させ、一瞬身体をX字に広げながら、すさまじいキックを放った!!
「ダブルエックスアターック!!」
「ぎゃ、ぎゃああああああ」
 恐竜獣人は、悲鳴をあげて爆発した。
 そして。
 燃え盛る恐竜獣人の中から、何かが現れた。
「キチキチキチキチキチキチキチ!! ユルサン!!」
 それは、恐ろしい悪魔の形相をした、人智を超えた怪物だった。
 敢えていうなら、バハムート獣人とでもいうべき存在であった。
「ブブオオオオオオオオ!!」
 バハムート獣人が翼をはためかせて吹き出した恐るべき炎を、風森は跳躍してかわした。
「ニガサン!! チネ!! ポアー!!!」
 バハムート獣人もまた、飛翔して風森を追った。
「逃げはせん。いくぞ!!」
 風森は、空中で突っ込んできたバハムート獣人の頭をがしっと押さえこんだ。
 ずでーん
 もつれあったまま二者は落下して、組みあったまま転がっていく。
 ごろん、ごろん
「グオオ!! ワシの勢いがお前の勢いに!?」
 バハムート獣人は、風森が自分に呼吸を合わせたばかりか、自分の勢いを利用してさらに力を増したことに、驚愕した。
「ハアアアアア!!! ボーン・ジス・ウェイ!!」
 風森は、もつれあって転がりながら、バハムート獣人の頭を何度も地面に叩きつけ、そして、ついにその身体を持ち上げると、宙に放り投げた。
「きたれ、サンダー!!」
 風森が指先を宙のバハムート獣人に向けて叫ぶと、あっという間に暗雲がたれこめ、一瞬にして、すさまじい勢いで落雷が発生して、雷撃が敵の身体を見事に焼き焦がした!!
「がああああああ」
「とおっ」
 風森は跳躍すると、落雷を受けて燃えあがっている空中のバハムート獣人に、身体をきりもみ回転させながらキックを放った!!!
「超必殺!! 稲妻地獄車ぁぁぁぁ!!!」
「おごおおおお」
 ぼごおおおおおおーん
 すさまじい悲鳴をあげながら、バハムート獣人は大爆発を起こした。

「やったな」
 獣人軍団を蹴散らした風森に、おやっさんが駆け寄ってきた。
「修行の甲斐があったじゃないか」
 おやっさんは、風森の肩を叩いた。
 だが、風森は無言だ。
「どうした?」
 訝しむおやっさんを尻目に、風森はバイクにまたがった。
 ブオン
 爆音とともに、風森はバイクをスタートさせた。
「巽!? どこへ行く、たつみー!!」
 おやっさんは、驚いて、風森を追うように走り、途中で疲れて立ち止まり、呆然とした。
「風が呼んでいる。この荒野に、これから闘いが起きる!!」
 風森は、そういって、バイクとともに消えていったのである。
 戦士たちの闘いに、終わりはないのだ。