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こどもたちのハロウィン

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第1章 こどもたちのさがしもの

 イルミンスールの森の中に、古代シャンバラ時代から生きている魔女リーア・エルレン(りーあ・えるれん)が暮らす家がある。
 ログハウスに、落ち葉のじゅうたんが敷かれた広い庭。
 不思議で綺麗な池。
 自然に囲まれているこの場所にいると、穏やかな気持ちになれる。
 さほど整備されていないけれど、自然が溢れていて心地の良い場所だ。
 休息のために、ここに立ち寄る者も少なくはない。

 今日はここで、ハロウィンパーティが行われる。
 首謀……もとい、主催者のリーアと、彼女が誘った者達。それから子供達への提供用のお菓子を持ってきた者以外の者は、リーアの魔法薬により幼い子供に姿を変えられてしまった。

 学校のことも、世界の事も忘れて。
 子供達は遊び始めた……。

○    ○    ○


「こんなせいかくのわるそうな子のことなんて、どーだっていいんだけど、みつけたらおかしをくれるっていうからさがしてるの。あ、おかしもどーでもいいんだけど、くれるものならもらっておかないとね」
「そう、かしなどどうでもいいんだ。めつきのわるいこどものことだってどうでもいいんだがな! ふん、しっているのならおしえてくれてもいいんだぞ」
 言い訳をしながら、ツインテールの魔女っ娘(セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば))と、吸血鬼姿のピンクの髪の男の子(ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん))が、子供達に写真を見せて聞き込みをしていた。
「あのね、めーりんねーちゃんからのたおみごとなんだよ。見つけたら、おかしたくさんもらえるんだよ!」
 メイリンお姉ちゃんが大好きな、5歳のかおるくん(橘 カオル(たちばな・かおる))も、目つきの悪い男の子を連れにきていた。
(ちゃんとつれてきて、めーりんねちゃんにいっぱいほめられるんだ)
 いっぱい抱きしめられて、おっぱいおっぱいおっぱ……と、かおるくんは子供らしい純粋な妄想をしながら、にこにこ笑顔で目つきの悪い男の子を探している。
「ん?」
 突然、かおるくんのお耳がひっぱられた。
「ほんもの、じゃない?」
 ぺろぺろキャンディーを舐めながらついてきていた、4歳のほくとくん(清泉 北都(いずみ・ほくと))が、触っている。
「ほんものじゃないよー。かちゅーしゃなんだ! これなら、マスクなしでもおおかみおとこだってわかるから」
 かおるくんが得意げに答える。
 かおるくんは狼男の衣装を着ていて、頭には狼の耳のカチューシャをつけている。
 とっても可愛らしい狼だ。
「ふぅん」
 本物じゃないと分かると、ほくとくんはすぐに興味を失って、あたりをきょろきょろ見回しだす。
「みつけたら、おかしたくさんもらえるんだよね。でも、さがしてるこ、おおいなぁ」
 ほくとくんはみんなに負けないように、早く見つけようと怪しい所を積極的に探しだす。
 置き物の後ろとか、トイレの中とか、お風呂の中や、ゴミ箱の中とか。
 かくれんぼの時の様に、人一倍頑張って探していく。
「あうぅ」
 頑張りすぎて、ぶつかってしまったり、転んでしまったりしていたら。
「じゃまだ、ふんでしまうだろ!」
 吸血鬼の格好の男の子――らどぅくんが、ほくとくんの腕をひっぱって、起こしてくれた。
「やつならたぶん、いしょうべやでかくれてる。いくぞ!」
 そう言って、らどぅくんは廊下をかけて、衣裳部屋のドアをあけた。
 つもりだった。
「ここ、おひるねするへやじゃない! なにやってんのよ」
 魔女っ娘……せいにぃちゃんがぷっくりふくれる。
「いや、ここにいるかもしれない。さがせ」
 らどぅくんは間違いを認めず、一緒に探している子供達に命令した。
 お昼寝部屋には、お昼寝をしている子供や、静かに玩具で遊んでいる大人しい子供達がいた。
「あ……っ」
 部屋に入って、子供達の顔を見て回っていたらどぅくんに目を向けると、突然笑顔を浮かべた子供がいた。
 部屋の隅で、ぼーっとしていた子供だ。
「ようちゃん、メガネしないと何もみえないんでしょ?」
 お部屋に子供達を連れてきて、お世話をしていたライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)が妖精の女の子の衣装を纏ったその子供、ようちゃん(皆川 陽(みなかわ・よう))に眼鏡を渡す。
「……」
 ようちゃんは手の中の眼鏡をじっと見た後、ぺっと投げてしまった。
 かけるのが面倒くさいし、邪魔なので。
 そしてまた、らどぅくんの方に目を向けるとにこっと笑ってちょこちょこ歩いて近づくと。
「ん? なんだ」
 わしわし。
 わしわしわし。
「や、やめろっ」
「あは、あははは、はははっ」
 わしわしわしっと、ようちゃんはらどぅくんのピンクの髪をかき混ぜるのだった。
「やめろっていってるだろう!」
 ぺしっと、らどぅくんが、ようちゃんの手を払いのける。
「……!」
 らどぅくんがぎっと睨むと、ようちゃんはとてもとっても哀しそうな目をして、自分の膝を抱きかかえて座り込んだ。
「ようちゃん、メガネしようね。あのね、わしわししてたのは、お友達のあたまなんだよ。ようちゃんだって、あんなにはげしくわしわしされたら、やでしょ? だからさわりたいのなら、そっとさわらせてもらおう? ね?」
 ライナが眼鏡を手にそう言うが、ようちゃんは何も言わず、自分の殻に閉じこもってしまっていた。
「そ、そんなかおをするな。というか、きさまこのおとこをしらないか? つれてかえったら、おかしがもらえるんだぞ、たいりょうにな」
「……」
 お菓子という言葉に軽く反応をしめしたが、ようちゃんはやっぱり哀しそうにらどぅくんを見ているだけだった。
「よし、それならあとでともにふろにはいろう。そのときなら、あらわせてやってもいいぞ」
 らどぅくんがぷいっと顔をそむけながらそう言うと、ようちゃんの顔にちょっと笑顔が戻った。
 そして、ようちゃんはゆっくり立ち上げると、らどぅくんの服の端を掴んで一緒に歩き始めた。

「ゆいしょただしい、まほうつかいのかっこうだ! ドラゴニュートは魔法にひいでたしゅぞくだからな」
 衣裳部屋から出てきた3歳の男の子、ぶるーずくん(ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす))はえっへんと胸を張った。
 魔法使いのマントを纏い、ハーフムーンロッドを手に持っている。
「にあってるー。かわいいー!」
 ぶるーずくんに手を引かれて衣裳部屋から出てきたよるちゃん(鳥丘 ヨル(とりおか・よる))が、ぶるーずくんに笑顔を見せる。
「か、かわいいのか、そうか」
「ボクはドラゴンのきぐるみにしたよ! ブルーズとおそろいだね」
 ヨルが来ているのは、可愛らしいドラゴンの着ぐるみだった。
「ふむ。ヨルもりっぱなドラゴニュートになったな」
 ぶるーずくんは満足げに頷く。
「えへへ、あっ。もしかして……」
 よるちゃんは、こっちにやってくる子供達に目を留めた。
「あれが、ラドゥ?」
 ぶるーずくんのマントをくいくい引っ張りながら尋ねる。
 お友達と一緒に、こっちに歩いてきているのは、吸血鬼の衣装を纏ったらどぅくんに間違いない。
「たぶん、そうだ。あのキバはまちがいない」
「わぁ、あたまがピンクだ! かわいなぁ!」
 近づいてきたらどぅくんのところに、よるちゃんは走り寄って見上げて。
「ラドゥ、ボクはヨルだよ。なかよくしてね」
 そう笑顔を向けると、らどぅくんは怪訝そうな顔をして。
「ひとさがしをてつだってくれるのなら、なかよくしてやってもいい。みつけたら、おかしもたくさんもらえるぞ」
 と、言うのだった。
「うん、てつだうよ! でもさ、そのまえにラドゥもきがえなきゃね? どんなへんそうするの?」
 よるちゃんはらどぅくんが気に入ったらしく、くっついて尋ねていく。
「ボクはほら、ドラゴンだよー。火をふくぞー」
「どらごんか、どらごんはつよいな。だが、わたしはもうきがえんぞ。これがきにいっている!」
 ラドゥは既に吸血鬼の衣装を纏っている為、これ以上着替えるつもりはないようだった。
「きゅうけつきって、ふだんどおりだよね? いっしょにドラゴンさんきょうだいとかやりたいなー」
 よるちゃんはらどぅくんとぶるーずくんの腕をぐいぐい引っ張るが、らどぅくんは首を縦に振らない。
 なので、着替えは諦めて。
 衣裳部屋に入ると、よるちゃんはリボンを選ぶ。
「何色がいい? ボクはオレンジにするね」
 よるちゃんは自分用にオレンジ色のリボンを選んだ。
「むぅ、かわいいものは我にはにあわないとおもうが。では、その赤いリボンで……」
 ぶるーずくんは、似合わないかもと思いながらも、楽しそうなよるちゃんを前に、強くは出られなかった。
「あかね! らどぅは……これ」
 よるちゃんは、らどぅくんには金色のリボンを選んであげて。
 同じように髪に巻いた。
「おそろいだねー」
 そう笑顔を見せるよるに、らどぅくんは戸惑いつつもううむと頷く。
「かわいいー。はやくさがしてるこみつけて、いっしょにおかしもらいにいこうね」
「おかしをくれないおとなにはいたずらするぞー。きょうは、していいひだからな」
 ぶるーずくんはパートナーが持たせてくれたバスケットを抱えて、にやりんと笑っていた。

「るいふぉん……。だんちょうだよね? ど、どこにいるんだろっ」
 黒髪ポニテの女の子、5歳のひばりちゃん(土御門 雲雀(つちみかど・ひばり))も、李 梅琳(り・めいりん)から話を聞いて、せいにぃちゃんたちと一緒に、るいふぉんくんを探していた。
「くろいかみの、めつきのわるいこー! でてきなさーい!」
 名前を聞いていないせいにぃちゃんは、特徴を呼びながら探していた。
「えっと、だんちょ……るいふぉんくーん! あそびましょー!」
 ひばりちゃんは、名前を呼びながら探すけれど、返事はなかった。
「あそばないとるいふぉんくんのおかしもとっちゃうぞー!」
 しかし、やっぱり返事はなかった。
「……ほんとにとるよー!」
「めつきだけじゃなくて、せいかくもわるいのね! きこえてるんでしょ、でてきなさーい!」
「……出てこいってばー!」
 せいにぃちゃんはイライラしだし、ひばりちゃんは不安になっていく。
「ったく、てのかかるこねっ。かくれられるところがあるからいけないのよ。ぜんぶこわしちゃおうかしらっ」
「えー? らんぼうなことしたら、だめってめーりんおねーちゃんが言ってたよ?」
 暴れそうになるせいにぃちゃんを、くっついて歩いているキョンシーの姿の5歳児、ゆいとくん(紫月 唯斗(しづき・ゆいと))が、止める。
「それじゃ、あんたがいえじゅうはしりまわって、ひっぱりだしなさい」
 せいにぃちゃんがゆいとくんにそう言うと、ゆいとくんはあはははと笑いだした。
「はしりまわるのもだめってめーりんおねーちゃんが言ってたよ? あははは。せーにーちゃんはちっちゃいからだめだよー? おねーちゃんのほーがえらいんだよ」
 ゆいとくんは、せいにぃちゃんの胸をぺたぺた触りながら言う。
「こどもなんだから、ちっちゃくてあたりまえじゃない」
「あははは。ちっちゃいんじゃなくて、ないんだね」
「……? おっぱいだって、なくてあたりまえでしょ! おおきくなったら、めいりんなんかにまけないほどおおきくなるんだからっ」
 せいにぃちゃんは胸を張って言った。
「とにかく、さがすのよ。めいりんのいうことなら、きくんでしょっ」
「うん、わかった」
 ゆいとくんはせいにぃちゃんの服を掴みながら、きょろきょり辺りを見回す。
「……」
 ひばりちゃんも、不安そうにお部屋の中や廊下の先を見回してるいふぉんくんの名前を呼ぶ。
「……出て来いよ……」
 でも、呼んでも呼んでも、やっぱりるいふぉんくんは現れない。
「声、きこえているよね、小さな家だし……。るいふぉん、出て来いってば……」
 ひばりちゃんは不安になりながらも、名前を呼び続ける。
「ん? なにこのこ」
「くろねこ?」
 衣裳部屋の前にいたぼさぼさ頭の子供を、せいにぃちゃんとゆいとくんはじろじろ眺める。
 その子は、ダンボールで作った黒猫の衣装を纏っている。
 ……猫のようだが、四角い。顔の部分はくり抜かれて、5歳の男の子、がりゅうくん(武神 牙竜(たけがみ・がりゅう))の顔が出ている。
 がりゅうくんは、首には特撮ヒーローの変身ベルトと、文字の書かれた札を下げている。
「なんかかいてあるね。『まじょっこはくびわのボタンをおしてください!』……?」
 せいにぃちゃんは不思議そうに首を傾げながら、ぽちんと首輪……変身ベルトのボタンを押した。
 ベルトのランプがぴかぴかっと光り、ぴろろろろと音が流れた。
「くろねこきどう!」
 動き出したがりゅうくんは近くにおいてあった椅子の上に、ちよち上がる。
「にゃっと!」
 ぴょんと飛び下りたけれど、上手くいかなくて、顔から落ちてしまう。
「なにやってんのー。へんなこ!」
 言いながらも、せいにぃちゃんは手を差し出して、がりゅうくんを起こしてあげた。
「いたい……ううっ。ううん、なんともない」
 泣き出しそうなのを我慢して、がりゅうくんは顔を抑えながらせいにぃちゃんについていく。
「まじょっこさん! まじょっこさん! だれかさがしてるなら、てつだう!」
「てつだってくれるのなら、さいしょからてつだってくれればいいのに。ろうかにつったってないで」
「だって、きどうしてなかったんだもん。まじょっこさんがボタンおしたから、おれのかいぬしなんだ!」
「かいぬし? べつにいいけど……。あのね、このめつきのわるい、せいかくのわるそうなおとこのこをつれてきたら、おかしくれるんだって。さがしてめいりんのところにつれていくのよ」
 せいにぃちゃんは、がりゅうくんに写真を見せた。
「うん、ゆくえふめーのおとこのこをさがして、おかしもらえるのなら、おれもそっちがいい! いたずらしちゃうぞでおかしもらえるのは、しってるけど、人のやくに立つことでもらえるほうが、ずっといいことだよ!」
「やくにたつこと?」
「うん、ツインテールのまじょっこさん。やさしい……いい人だね!」
「ば……っかじゃないの。あたしはやさしくなんかないわよっ」
 ちょっと赤くなったセイニィちゃんに、がりゅうくんは笑顔を向ける。
「なまえおしえてくれる? おれは『たけがみ がりゅう』がりゅーって呼んで!」
「あたしは、せいにぃよ。がりゅーってがりゅーよね」
 せいにぃちゃんの記憶に、たけがみがりゅうという名前は残っているようだった。
「まあいいわ、がりゅー、それじゃあ、へやにはいるわよ! ちゃんとつかまえるのよ」
「うん!」
「ほら、あんたもちゃんとはたらきなさい!」
 せいにぃちゃんは、ゆいとくんのことも、衣裳部屋の方に押しやった。
「うん、おおきい、めーりんおねーちゃんからのおねがいだからね。みつけてかえらないとねー」
 ゆいとくんも、がりゅうくんの後に続いて、お部屋に向かった。