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こどもたちのハロウィン

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こどもたちのハロウィン
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リアクション

「はーい、おきがえおわった子は、ここであそびましょうねー。おねぇちゃんたちが、おかしくれますよ〜」
 ライナがお着替えが終わった子供達を連れて、パーティ会場の側にやってきた。
「ミルミおね……みるみちゃんと、あるちゃんもここでいっしょにパーティはじまるまでまとうねっ」
「うん、もらったおかしだけじゃ、ぜんぜんたんないよー。パーティまだかな〜」
「……はやく、みゆくほしい」
 お菓子を貰って回っていたみるみちゃん(ミルミ)とあるちゃん(アルコリア)も、ライナに呼ばれて会場の側にやってきていた。
(ふふ……。ライナさん、頑張ってお姉さんしていますね)
 そんな子供達の世話をするライナの様子を見守りながら、藤崎 凛(ふじさき・りん)は、お庭で子供達と遊んでいた。
 お手玉やあやとり、絵本を読み聞かせたりして、退屈する時間を与えずに子供達を楽しませていく。
(それにしても……)
「おかしをくれないと、いたずらしちゃうぞー」
「しちゃうよぉ!」
 かやちゃん(加夜)の手を引いたりょうじくん(涼司)、それから。
「おかしがほしいのー。くれないといたずらしちゃうのー」
 カボチャをあしらった魔女の衣装を着た女の子――4歳のゆかりちゃん(水原 ゆかり(みずはら・ゆかり))が、目をキラキラ輝かせて駆けてくる。
 子供達の愛らしい姿に、凛お姉さんの顔は緩みっぱなしだ。
「ま、まって、まってください」
 凛お姉さんに向かっていく子供達の前に、4歳のしののめくん(五百蔵 東雲(いよろい・しののめ))が立ちふさがった。
「けんかはよくないです。せんせいがいってました」
 しののめくんには、皆が襲いかかろうとしているように見えたのだ。
「ともだちとは、なかよくあそびましょう、って」
「けんかじゃないぞ、いたずらだ!」
 りょうじくんがそう言った。
 しののめくんはよくわからなくて、不思議そうに首をかしげる。
「おかしくれたら、いたずらしないんだよ」
 そう言いながら、ゆかりちゃんは凄く嬉しそうな笑顔を浮かべている。手にはいっぱいのお菓子を持っていた。
「……んと、よくわからないです……ごめんなさい」
「きょうはね、おかしをくれないおとなにいたずらしていいひなんです」
「はろうぃんだからね。みんなでいたずらしてたのしくあそぶために、わたしたちこどもになったの!」
 かやちゃん、ゆかりちゃんが説明をするけれど、やっぱりしののめくんにはよくわからない。
「えっとな、おかしをもらって、みんなでたべるんだ」
「そうなんです。そのためにきたんです」
 りょうじくんとかやちゃんの説明に、わからないながらも、しののめくんはうんと頷いた。
 悪いことをしようとしているわけでは、ないようだ。
「ただではあげないわよー」
 子供達の前に、白いお化け現れた。
 白いシーツを被ったシルフィスティちゃん(シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ))だ。
「おばけだー。こわい〜。きゃあ」
 ゆかりちゃんがきゃあきゃあ声を上げるけれど、本当に怖いわけではないようだった。
「おばけさん、どうしたらおかしくれるのー。くれないといたずらしちゃうんだよ」
 そろーり、そろーりゆかりちゃんはお化けのシルフィスティちゃんに近づいて、悪戯のチャンスをうかがう。
「みんながあつめたおかしとこーかんね」
 シルフィスティちゃんは、クッキーが入った袋を左右に振ってみせた。
 イコンイラスト入りの、子供が喜びそうなクッキーだ。
「クッキーほしいっ」
 ゆかりちゃんが手を伸ばすけれど、シルフィスティちゃんは「まだだめー」と、クッキーをしまってしまう。
 シルフィスティちゃんはお化けの親玉として、大人のお手伝いをしているのだ。
 沢山お菓子を持っている子からは、ちょっと多めにお菓子を貰って。
 あまり持っていない子からは少しだけ貰って。
 そして、自分が持っているクッキーを同じくらいずつあげていく。
 そうして、子供達が持つお菓子の量が偏らないようにしている。
「よし、いたずらけってい!」
 ミイラ男姿の子供が走り込んできた。
「けってい」
 ゆかりちゃんも走り出す。
(か、可愛い。皆さん可愛いですわ……)
 凛お姉さんはシルフィスティちゃんの後ろから子供達を見ては、きゅんきゅんしてしまっていた。
(ああ、こんな風に沢山の子供達に囲まれるのも、素敵かもしれないっ)
 可愛くて可愛くて、どの子もぎゅぅっと抱きしめたくなって仕方がない。
「……って、あっ!」
「にやにやしているかおにはこれだ!」
 一人ほんわりしていた凛お姉さんにミイラ男姿の子供――4歳のかなめくん(要・ハーヴェンス(かなめ・はーう゛ぇんす))が飛びついて、マジックで凛お姉さんの顔にきゅっきゅっと絵を書き始めた。
「な、なにを……」
 鏡がないので何を書かれたのか、見ることは出来ない。
「リボンかな?」
 しるふぃすてぃちゃんが首を傾げる。
「かわいい、ちょうちょさんです」
 かやちゃんが、にこっと笑みを浮かべた。
「ちがーう。これはコウモリ! もういっこのほっぺにはちがうえを……」
「ええっ、まだ書くんですか?」
 凛お姉さんはわたわたしている。
「ええーい」
「あっ。こら〜っ」
 ゆかりちゃんが、凛お姉さんの後ろに回り込んで、スカートをえいっとめくった。
 周りには子供しかいないとはいえ、凛お姉さんはスカートを抑えて赤くなる。
「おかしをくれないと、いたずらしちゃうのー。ふふふっ。やーっ」
 続いて、ゆかりちゃんは持ってきていたトイレットペーパーを凛お姉さんの足にぐるぐる巻き付けていく。
「わわっ、転んでしまいます」
 凛お姉さんは怪我をしないように、自ら地面にお尻をついた。
「しゃわーだよー」
 続いて、ゆかりちゃんは地面に落ちている落ち葉を、凛お姉さんとお化けのシルフィスティちゃんにかけていく。
「ああん、もう……ゆかりちゃんは、悪戯娘さんですわね」
 座っていた凛お姉さんは、頭から枯葉のシャワーを浴びた。
「枯葉のシャワーは気持ちよくないですわよ〜」
「おはなのしゃわーならうれしいんだけど」
 凛お姉さんとシルフィスティちゃんは、枯葉を払いながら可愛い悪戯に笑みを浮かべている。
「おばけさん。えと、わたし、いまおかしは……もってないです。もってたんですけど、とられちゃって」
 かやちゃんがシルフィスティちゃんにそう言うと、シルフィスティちゃんは。
「だったらしかたないわねー。とおしてあげるわ」
 と、道を開けてくれた。
 かやちゃんはりょうじくんと凛お姉さんに近づいて、上目使いで見る。
「おかしくれないとわたしもいたずらしちゃいます。でも、わたしはいたずらよりおかしのほうがうれしいです」
 じっと見つめるかやちゃんに、凛お姉さんはにっこり笑みを見せた。
「はい。お菓子を差し上げますから、悪戯はやめて下さいませ〜」
 凛お姉さんは、近づいてきた子供達に用意してあった『カボチャのミニパイ』を渡していく。
「それじゃ、ちょっとかわいそうだから、せめてかわいくかいてやるよ。おれは、えをかくのとくいだからまかせておけって!」
 しかしお菓子はしっかりもらっておいて尚、かなめくんは凛お姉さんの白いほっぺたに、黒マジックで絵を書いた。
「あうう」
 凛お姉さんはくすぐったそうで、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。
 ほっぺに書かれた絵は、長細いまるが、沢山くっついた絵だった。
「……可愛いかしら?」
 凛お姉さんが子供達に尋ねると。
「たまごがたくさんのえかな? かわいいよ」
 シーツを被ったシルフィスティちゃんがまた首を傾げながら言う。
「んと、ぴーまんのえじゃないか? ぴーまんにがいんだよなぁ」
 りょうじくんがそう言った。
「どーみてもかぼちゃだろーが! かわいいかぼちゃだっ。うまいだろ」
 かなめくんはマジックをしまって得意げに言う。
「かぼちゃの絵ですか。可愛いかぼちゃなんでしょうね」
 凛お姉さんは頬に軽く触れたけれど、拭ったりはせず微笑を浮かべる。
「もちろん、さいこーにかわいい。ねーちゃん、もともとまーかわいかったけど、おれのえのおかげで、いまはさいこーにかわいい」
 そんなことをさらりと言うかなめくん。普段、大人の彼は純情なのだけれど。
「ふふ、可愛くしてくださって、ありがとうとざいます。さ、パーティが始まるまで遊びましょ」
 凛お姉さんは怒ることなく微笑んで、そのままの顔で子供達を集めていく。
「よし、そこのおまえたち! おかしやってもいいぞ」
 かなめくんは、集めてきたお菓子をかやちゃんに差し出した。
 かなめくんは既に何人かの大人からお菓子を貰っていた。
「ぼくもおかしもらいました」
 しののめくんも、大人にもらったお菓子を広げて見せた。
「みんなでたべたら、きっとたのしいです」
 にっこりしののめくんは微笑んだ。
「『ひとりよりみんなで』ってよくいうもんな!」
 かなめくんがうんうん頷く。
「そうそう。こうかんしよー」
 シルフィスティちゃんも、集めたお菓子やクッキーを皆に見せた。
「あ、あまりもってない子にはとくべつにあげるわね」
 そして、かやちゃんにクッキーを一袋あげる。
「こっちの子はもってるみたいだから、1まいだけね」
 隣にいたりょうじくんには1枚あげた。
「さんきゅー! それじゃ、かわりにこれやるぜっ」
 りょうじくんは、シルフィスティちゃんからクッキーを、かなめくんからケーキを貰い、代わりにキャンディーをあげた。
「あめは、はんぶんにできないからなー」
 そう言って、りょうじくんがかやちゃんを見ると、かやちゃんは嬉しそうな顔でこくんと頷いた。
「そんじゃ、きゃんでぃはもらっておいてやる。おかしすくないやついるかー。わけてやるぜ」
「このクッキーは、フィスがつくったの。だから他のおとなからはもらえないわよー。こうかんであげるわ」
 子供達にそう声をかけるかなめくん、シルフィスティちゃんに、大人しそうな子が遠慮がちに近づいていく。
「いっしょにたべよう、もっていっていいです。どうぞ、どうぞ」
 しののめくんも自分のお菓子を、みんなに配っていく。
「……あれ? ぼくのぶん、なくなっちゃった……」
 しののめくんは、あげるだけで交換しなかったので自分の手の中には何も残らなかった。
「はい、どうぞ」
「これもうまいぞ。たべてみろ」
 でもすぐに、しののめくんの空っぽの手の中に、シルフィスティちゃんがクッキーを、かなめくんがプチケーキを乗せてくれた。
「……ありがと……」
 しののめくんは、ふわりと微笑む。
「おいしいです」
 一緒にお菓子を食べながら、しののめくんも、子供達も輝く笑みを浮かべていく。
「おいしいね」
 いっぱい悪戯を楽しんだゆかりちゃんも、皆と一緒にお菓子を食べ始める。
「きょうだからだけじゃなくて、こういうのをこんなふーにたのしめるのって、こどもだからなんだよね」
 ゆかりちゃんは、お友達を見回しながら感慨深げにそう言った。
 ゆかりちゃんは本当は教導団の大尉。今日は公務でこの近くまで来ていた。
 このところ軍務のこととか、人間関係で辛いことがあったり、悩んだりの毎日だった。
「すごくたのしいなぁ。つぎはなにしよー。ふふ」
 自分が本当は大人であることを、ゆかりちゃんはなんとなくだけど自覚していて。
 今日を大切に、めいいっぱい楽しんで過ごそうと決めていた。
(やっぱりいい子たちですわ。ああ、可愛い。可愛いですわ……っ)
 凛お姉さんは顔に落書きをされたことなど忘れて、子供達がお菓子を交換したり、一緒に食べたりする様子を微笑ましげに見ていた。
 笑い合い、可愛らしい声を上げてはしゃぐ子供達は、本当にたまらなく愛らしかった。