薔薇の学舎

リアクション

第２章　おかしをもらおう！

「おかしー　おかしー　おかしをくれないならぱんつをもらうぞー！！　ぱんつかおかし。ふたつにひとつだー！！」
　頭に毛を三本立てた白いシーツを被ってお化けに扮して、女の子を追い掛け回している子供がいた。……言うまでもない、５歳くらいのくにがみたけるくん（国頭　武尊（くにがみ・たける））だ。
「やーだっ、こどもどうしはいたずらしないんだよー」
「おとなにするんだよ」
　女の子はスカートを抑えて逃げ回っている。
「ひゃはー　ひゃはー　やっぱようじょとぱんつはさいこうだぜ」
「こら」
　突然、たけるくんの体が宙に浮いた。
「ハロウィンはパンツをもらうイベントじゃないのよ？」
　梅琳がたけるくんの抱き上げたのだ。
「そうだったのか、こどもだからわからなかった！」
　たけるくんはアッサリそう言って謝って、下ろしてもらった。
「もうすぐパーティだから、それまで仲良く遊ぶのよ」
「わかった。なかよくあそぶ！　そしてぱんつげっとだ」
「え？」
　そう言うと、たけるくんはびゅんと駆けていった。
（だめだ、ちょくせつもらおうとしてもじゃまがはいる。やっぱりおうちをさがさなきゃな！）
　そうして、ログハウスに向かって子供用に用意されたぱんつや、子供達が履き替えたぱんつをかき集めて回るのだった。

「こら、駄目だってば」
　たけるくんを追いかけようとした梅琳は、森に入ろうとしていた少女を引き止めていた。
「はたらかないもの食うべからずと昔の人は言いました。なので私ははたらきます。はたらいてはたらいてはたらきまくってしょーらいは大金持ちになるのであります」
「はいはい」
「なんですか？　子供ははたらいちゃいけないみたいな目をして。ちがいますよ。子供だってはたらいていいのです。もんだいは何のしごとをするかなのです。子供だからあそんでいていいだなんてなまあたたいことは言いません。キリキリはたらくのです。
　ちなみに私はかりゅーどのえーれーなので森の中がしょくばです。なので今日もはりきってしごとにむかいます」
「はいはいはいはい」
「なんですか？　そのなげやりないいかた、めんどくさそうな目は。失礼ですよ。
　私はきんろーに目ざめただけのまじめな少女。
　決して森に入るための言いわけをならべているわけではないので……うわっ何をするヤメロ」
　ずるずるずるずる。
　梅琳は問答無用で８歳くらいのその子、ざみえるちゃん（ザミエル・カスパール（さみえる・かすぱーる））を、引き摺って、遊ぶ皆の中に放り込んだ。
「この子と遊んであげてね。パーティまで面倒を見てくれたら、たくさんお菓子あげるからね」
「！　しつれーな、めんどうをみるのは、こちらのほうでは……」
「はーい」
「は〜い、めいりんせんせい」
「おかしたのしみー」
「おーばけーだぞぉ！」
　ざみえるちゃんの反論は子供達の声でかき消された。子供達がわーっとざみえるちゃんに飛び掛かっていく。

「わたしはみんなをまもるいくさおとめなのだー！！」
　梅琳がログハウスに向かっている間に。
「ろざりん、かんぜんぶそうだ。つよそう」
「うん、つよいのだからみんなをまもるのだー！！」
　女の子が２人、森の中に入っていた。
「きしさまがいればきっと、ぼうけんはせいこうするね！」
　ぱっと笑みを浮かべたのは、４歳のまどかちゃん（桐生　円（きりゅう・まどか））。黒っぽいお姫様の格好をしている。
　手には扇子を持っていて、口を隠したりして。ちっちゃな悪い貴族のようだった。
「ぼうけんにいくのだー。これがきしのしめいなのだー」
　もう一人は、５歳くらいのろざりんどちゃん（ ロザリンド・セリナ（ろざりんど・せりな））。紐を通した段ボールを肩にかけて鎧にして、小さなお鍋を被り、手にはお鍋の蓋の盾を装備。
　もう一つの手には、開いた新聞紙を横に丸めたものを、槍として持っている。
「うん、ぼうけんをして、おとなたちにそんけいされるんだ！」
「わたしたちはゆうしゃのいっこう、せかいのためにぼうけんだー」
　まどかちゃん、ろざりんどちゃんは、ずんずん森の奥へと進んでいく。
「おかしもたくさんもってきたから、おなかがすいてもへっちゃらだ！　……あっ」
　まどかちゃんは、ふりふりなスカートを足にひっかけてしまい、転んでしまった。
　でも落ち葉がクッション代わりになって、怪我はなかった。
「さあ、ひめさまわたしのてをとってください」
　ろざりんどちゃんが、槍を地面におくと、まどかちゃんに手を差し出した。
「ありがと、せかいのきし！」
　まどかちゃんはろざりんどちゃんの手を掴んで、起き上がった。
「さあ、まだだれもしらないばしょにいくのだー！」
「ぼくたちはゆうしゃだ！　ゆうしゃがひつようなんだ！」
　ろざりんどちゃんは、新聞紙の槍をとって振りながら、円ちゃんは扇子をふりふりしながら、奥へ奥へと進んでいく……。

「いがぐり、あったでしゅ〜」
　また一人、森に入ってきた女の子がいた。猫の耳に、２本の尻尾――猫又姿の４歳のひなちゃん（冬蔦　日奈々（ふゆつた・ひなな））だ。
「いたずらにも、おかしにも……つかえるんでしゅ〜」
　お友達と一緒に、ログハウスの側で栗拾いをしていたひなちゃんだけれど、奥の方に沢山いがぐりがあるのが見えたから。
「たくしゃん、とりましゅよぉ〜」
　一人で、奥に進んで籠の中にいがぐりを沢山集めていく。
「あ……あれ、きれ〜でしゅ〜」
　可愛いお花を見つけては摘んで。
「これ……くだもの、でしゅかぁ……？」
　赤い実を見て首を傾げて。食べられるのかなぁと思いながら、採って。それも籠の中にいれた。
「これは、おかしでしゅ？」
　何故か、お菓子も森の中に落ちていた。勿論拾って、籠の中に入れておく。
「もっともっとたくさんとるでゅよぉ〜」
　森の中には宝ものがいっぱいだ。
　まだまだ、籠には空があるから。
　沢山の宝を求めて、ひなちゃんは森の奥へと進んでいった。

「ふわふわのうさぎさん、みつけた〜」
　池の近くの森の入口で、ふわりと女の子が笑みを浮かべた。
　そっと近づいて、ふわふわの兎――わたげうさぎをじっと眺める。
「みんなにも、みせたいな」
　被っていた帽子――ジャック・オ・ランタンの帽子を脱いで、そっとうさぎに近づいて。
　落ち葉の絨毯の上に帽子を置くと、両手を伸ばして、うさぎに触れた。
「ふわふわ、ふわふわ」
　嬉しそうに微笑みながら、女の子――５歳のらぐえるちゃん（ラグエル・クローリク（らぐえる・くろーりく））は、ふわふわの兎さんを帽子の中に入れた。
　そして持ち上げた時。
「……ん？」
　森の先から争うような声が聞こえてきた。

「いったら、だめだ……って、いってんだろ……っ」
　別の場所から、森の奥に行こうとしている男の子達を、小さな女の子が止めようとしている。
　女の子――３歳のポニテのゆうこちゃん（神楽崎　優子（かぐらざき・ゆうこ））は、服の中にいがぐりを入れられながらも、頑張って追いかけて、男の子の足に飛びついた。
「こいつ、しつこいぞ」
「しつこすぎー。おちばのなかにうめちゃおうぜ」
「いがぐりまわりにまいて、でられなくするんだ」
　ガキ大将のぶらぬくん（ブラヌ・ラスダー）とお友達は、落ち葉をかき分けて穴を作った。
　それからゆうこちゃんを皆で剥がして、穴に入れようとする。
「やめっ！」
　突然、声が響いたかと思うと、天使の格好の女の子が飛び込んできた。……らぐえるちゃんだ。
「イジワルする子は森のお化けに連れてかれちゃうんだよっ！」
「いじわるしてんのはこっちのチビだぜ〜」
「そうそう、とおせんぼしてじゃまするんだ」
「おとなのてしたなんだぜ」
　悪ガキ達は、ゆうこちゃんを引っ張ろうとするが、らぐえるちゃんがぐいっと男の子達の手を掴んで、離させる。
「でも、イジワルだめーっ」
　そして、らぐえるちゃんは、男の子達を両手で押し返そうとする。
「いたっ、なにすんだよ」
　男の子達は転んでしまった。
「これもだめーっ」
　男の子達の籠から落ちたいがぐりを、らぐえるちゃんは遠くに投げた。
「じゃますんなら、いっしょにうめちゃおうぜ」
「うめよーぜ」
「そうだそうだ」
　男の子達は集団で、らぐえるちゃんとゆうこちゃんに飛び掛かってこようとする。
「ゆうこ、だいじょうぶ。さがって！」
「ラグエルのほうが大丈夫！」
　ゆうこちゃんとらぐえるちゃんは庇い合おうとする。
「おい、なにやってんだてめぇらー」
　どたどた音が響いて、浴衣姿で落ち武者のようなメイクをした男の子が駆け込んできた。
「またおんなのこイジメてんのかー」
「イジメてねーよ。おれたちがいじめられてんの。なー」
「なー」
「うそをつくなー」
　落ち武者メイクの男の子――りゅうじくん５歳（吉永　竜司（よしなが・りゅうじ））は、ゆうこちゃんの背中に入れられていたいがぐりを拾うと、手に持っていたバッドで打った。
「うわっ！」
「な、なにすんだよー」
　悪ガキ達は驚いて離れていく。
「やっちまえー」
「おかえしだ！」
　悪ガキ達も、投げられたいがぐりや、落ちているいがぐりを拾って投げ返してくる。
　りゅうじくんは、ゆうこちゃんとらぐえるちゃんの前に出て２人を庇う。
「いってー」
　しかし、いがぐりが手に刺さってしまって悪ガキ達はちゃんとつかめなかった。投げたいがぐりはりゅうじくんのところまで届かない。
「もりのおくなんかにいってたら、ほかのこにおかし、ぜんぶもっていかれちゃうぞー。あるていどぶきをひろったら、いっしょにいたずらいこーぜ。ぶらぬもゆうこもなかよくしろよー」
　りゅうじくんにとっては、ゆうこちゃんもぶらぬくん達も大切な分校の仲間だ。だから仲良くしたかった。
「じゃ、あつめてくるから、じゃますんなよ」
「とおせんぼするのがわるいんだ」
　悪ガキたちはいがぐりを拾いながらぶつぶつ言う。
　そこに――。
「こっちにいがぐりや、いたずらにつかえるもの、たくさんあるぜー！」
　大きな声が飛んできた。
「よーし」
「いこーぜ」
　バタバタと悪ガキ達は声の方へと走っていった。