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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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☆ ☆ ☆


「誰が舎弟だッ。……吉永のヤロウ、面倒なことを〜」
 保健室にて。白衣姿のゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)はデスクに、ドンと拳を叩きつけた。
「あははは、番長さん、本家の人にも言ってそうだよね」
 手伝いに訪れていたリン・リーファ(りん・りーふぁ)が、ゼスタにお茶を出しながら笑う。
「でもさ、総長さんを倒して配下とかお嫁さんにしようとする人が、総長さんより先にぜすたんにかかってくるのなら、ぜすたん総長さんやあの子の事守ってあげられるね」
 あの子――アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は今、衝立の向こうで、腹痛で苦しんでいる(仮病)パラ実生の介抱をしてあげている。
「嫌だー。若葉分校での授業中にそういうやつらが来てみろ。昼寝が出来ないだろ」
「ぜすたん……それなんか間違ってる! 授業中は教科書を立てて勉強しながら早勉と早弁を両立する時間でしょ」
「リン……それも違う。しかもゼスタさんは、講師なのだから授業をする方」
 関谷 未憂(せきや・みゆう)が、リンから茶を受け取りながら苦笑する。
 そっかーとリンが笑うと、ゼスタも軽く息をついて微笑した。
「こんな講師より、君の方が先生に向いてるぜー」
 未憂の向かいに座っていたパラ実生が言った。
「先生ですか? いえ、私は若輩者ですので。でも、皆さんのお話くらいは聞けますよ」
 未憂は、ゼスタに代わり相談に訪れるパラ実生の相手をしてあげていた。
 オアシスのことについては、事情を聞きメモを取り、書類にしていく。
「うう……っ。やっぱ最高の小麦粉を作って、ヴァイシャリーで売りまくって儲けるしかないのか……」
「けど、警備の奴らがうざくて面倒なんだよな〜」
 今未憂の前にいるのは、百合園生の訓練内容を聞いて逃げてきたパラ実生だった。
 彼らの他にも、逃げてきた多くのパラ実生が、保健室に訪れている。
「お菓子どうぞ〜。スープもあるよ」
 メイド服姿で、リンは皆に茶を出した後、お菓子を配り始める。
「……」
 プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は眠りの竪琴を弾いて、歌を歌う。
 体験入学や面接で、憔悴しきったパラ実生の心を癒す為に。幸福を呼び起こす歌を。
「……他の方法を考えてみませんか?」
 パラ実生が育てる農作物といえば、気持ちが良くなる薬だったり、トリップする薬だったり……あまり流通してほしくないものばかりなので、この問題はホント難しいなあと未憂は思う。
「あとは、金持ちの女の子かっぱらってきて嫁にして、持参金やら仕送りやらを貰ってだなー」
 菓子を食べ、プリムの歌を聞いて、パラ実生は少しずつ落ち着いていく。
「かっぱらっても嫁にはなりません。結婚と一口にいっても、相手のあることですし、お互いの気持ちが大切になると思います」
 無理強いはいけない。
 持参金を当てにしてもそれは一時的な収入で、相手の実家からの仕送りも普通は学生のうちだけだ、と未憂は話していく。
「定期的な収入がなければ、子供が増えれば、生活費が足りなくなり、暮らしていけなくなるでしょう」
「うー……そうか? じゃ、どうすればいいんだよー」
「村おこしとかでしょうか? 農業関係であれば、若葉分校でもお手伝いできることがあるかもしれません」
 そういえば、若葉分校がお世話になっている農家は、大家族だ。
 家族皆で、農業と喫茶店を盛りあげている。
「そういや、若葉分校の喫茶店ていろんな奴らが立ち寄るよな。そういった皆が集まるような何かがあると良さそうだよな〜。やっぱアイドルがいいよな。ふわふわな女の子、ああ、俺の百合園生はどこにいる〜ヒャッハー♪」
 未憂はふうとため息をつく、彼らにはなかなか言葉は通じないし、話はすぐに脱線してしまう。
 それでも根気よく彼らの話を聞き、助言をしていくのだった。

「差入れ持ってきたぜ。アレナ〜」
 お菓子を持って訪れた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がアレナを呼んだ。
「あっ、はい」
 衝立の向こうから、アレナがひょこっと顔を出す。
 アレナは可愛らしいナースの格好をしている。
「今回はナースか……アレナ回復魔法得意だし、そこにいるだけで癒し効果のあるアレナなら効果抜群だな」
 康之がそう言って近づくと、アレナは少し照れながら「ありがとうございます」と微笑む。
「では、休憩をとらせていただきましょう」
 アレナと一緒に、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)も衝立の向こうから顔を出す。
 2人はお揃いのピンクのナース服を纏っていた。
「しかし……」
 振り向いて、2人の姿を改めて見た早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が眉を寄せた。
「丈が短すぎないか?」
 落ちたものを拾おうとしたのなら、確実に下着が見えてしまう短さだった。
「そうよね、アレナのナース姿なんて襲って下さいと言わんばかりのカモネギな餌じゃない。しかもそんなに短いなんて……。アレナ、危険が危ない!」
 そんなルカルカの言葉に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が「重複表現だな」と息を漏らす。
「ゼスタの趣味かな? その辺は結構オヤジなんだねー♪」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がにこにこ笑う。
「誰がオヤジだ。目的に合った格好をしてもらってるだけだ。……夏には水着にする目的を考えるがな」
 くるりと振り向いてゼスタが言った。
「そんなこともあろうかと、レトロスタイルもご用意しました」
 ぴらっと、ユニコルノは青いワンピースに白いエプロンのナース服を取り出す。
「こちらの方が可愛いと思うのですが…どちらにせよ、ナースはみんなでお揃いにしましょう」
「わーい、お揃いー♪」
 真っ先に着たのはヘルだった。
 呼雪はそっと目を逸らす。
 彼は自前の見かけは普通の白衣、マッドスクリプト(着込むと、とてもハイになって危ない実験がしたくなる)を纏っておく。
「ううう、俺もアレナちゃんとおやつ食べるぜ。どうやら、腹が空きすぎて痛いらしいからな!」
 アレナにお腹を摩って貰っていたパラ実生が、這いながら近づいてくる。アレナの足下に。
「そうですか。それではこちらのお席にどうぞ。講義も聞けますよ。あ、お腹が空いて動けないようですので、お運びしますね!」
「あ、たたたたた……っ」
 彼がアレナの服の中を覗き見る前に、ユニコルノがぐっと起き上がらせて、軽く腕を捩じり上げながら、引き摺るように連れていく。
「康之さん、お茶いれますね。座っててください」
「サンキュー」
 康之は先にソファーに座ってアレナを待つ。
 アレナはリンと一緒に紅茶を入れると、康之が待つソファーへと運んでいく。
 その間に、康之は差し入れとして持ってきていた、可愛らしいどうぶつマカロンや、ビスケットをテーブルに広げた。
「俺達も休憩にしよーぜ」
 ゼスタが体を伸ばす。
「ぜすたん、あんまり仕事してないけどね」
「うるせー」
 くすっとリンは笑う。
 パラ実生でゼスタのカウンセリングや治療を望む者がほとんどいないのだから仕方ない。
「医療器具はあまりないようだな」
 ゼスタの代わりにダリルが診察デスクに座った。
「まあ、俺は医者じゃないしなー。ここで出来るのは簡単な手当てと、魔法による回復だけだな」
 ゼスタは留学時に日本の大学で養護教諭の免許を取得しており、日本の保健室の先生になる資格はある。
 だが、地球の医者になるほどの知識や技術は持っていない。
「なるほど。まあ、俺の本分も医者ではないが、今日は最低限の医療道具は携帯している。手術にも去勢にも対応できる」
「ああ、百合園と一緒になるなら宦官を目指すことになるんだっけね。ならダリルが今『切って』くれるけど?」
 ルカルカがパラ実生を見ると、皆一斉に顔をそむけた。
「対応せんでいい」
 ゼスタが嫌そうな顔をする。
「百合園にかかわる男性はもれなく宦官コースなんだね。ぜすたんかわいそう……」
 リンが憐憫の目でゼスタを見る。
「そんな目で見るな。俺は男の娘じゃねし、宦官目指してねぇから」
 ゼスタはリンにふて腐れたような顔を見せる。
「ああ、そういえば、百合園と合併するには何かを『切る』必要があるんだってな」
 もぐもぐ。お菓子を食べながら康之が言う。
「何を切るかしらねえが、そこまでして合併してぇもんなのか?」
 康之の言葉に、パラ実生達は首を左右に振る。
「ただ切るのではない。去勢だ」
「……ん?」
 ダリルの言葉に、康之とアレナは不思議そうな顔をする。
「睾丸摘出術は切れば良いという物ではない」
 ダリルはデザイン性に実用性、安全性について専門知識を交えて語っていく。
 その部分の形成術だとか、神経を残せばほにゃららだとか。
「――以上の様に、宦官として”どちらにも”対応出来るものとできる」
 ダリルの言葉に、康之とアレナは目を瞬かせる。難しくて良く分からない。
 パラ実生達はぽかんとしている。意味がさっぱり解らなかったらしい。
「ええと、それは自分にはない器官だからよくわかんないけど、身体の一部を切り取られるとか痛そうだよねー」
「だよなあ」
 と、リンの言葉に康之は真剣な顔で頷く。
「ホルモンバランスが変って女性らしい体型になるとか本で読んだけど、手術したらぜすたん女装似合うよーになるかな?」
「だーかーらー」
 ゼスタは眉間に皺を寄せている。
 この話は本当に嫌そうだった。
 くすっとリンは笑う。
「まあでもあたしはどっちかというと女の子みたいなぜすたんより、今のぜすたんのほうがいいかなー」
 リンがそう言うと「だろ」と、ゼスタも軽く笑みを見せた。
「で、何を切るんですか?」
 アレナが真面目な表情で康之に尋ねた。
 康之にはもう意味は分かっていたが答え辛い!
「そうか。大谷地、アレナが見たいそうだ。ちょっと切られてこい」
「はあ!?」
 ゼスタの突然の言葉に、康之の口から変な声が出た。
「お前が宦官になったら、アレナとの交際を認めてやってもいい」
 そんなことを言いながら、ゼスタは康之の肩をぽんと叩いた。
「えぇえ?」
「道ずれがほしいんだね、ぜすたん……」
 哀れみの目でリンがゼスタを見る。
「ご希望ならいつでもどうぞ」
 メスを手に、ダリルがゼスタと康之を見る。
「違ーう。あー、やめやめこの話はもうホントやめっ」
 藪蛇になったため、ゼスタは強制的に話を終わらせようとする。
「ええっと、皆も嫌みたいだし、それならアレナも言うように、若葉分校に通った方がずっといいよな!」
 康之がパラ実生を見る。
「はい。若葉分校、大歓迎です」
 アレナが微笑みかけると、意気消沈気味のパラ実生の顔に安堵の色が浮かんでいく。
「そうそう、俺は分校生じゃねえが、分校生は百合園の子達と交流する機会が多かったはず。つまり分校生になれば百合園の子と仲良くなれる『可能性がある』! なにより、「切る」のは嫌だろ!」
 康之の言葉に、こくこく頷くパラ実生。
「若葉分校には、弩S級ともいえる俺もいるしな。面倒見てやるぜ」
 ゼスタもそう笑った。
「いや、ゼスタにはまだ弩Sの称号は早いんじゃないか……?」
 突如、呼雪が真剣な顔で言う。
「早い?」
「そう……あなたにはまだ相手に対する愛情……思い遣る心が足りない、と俺のシックスセンスが告げている」
 マッドスクリプトのせいか、呼雪はなんだか変だった。
「自分本位に振舞ったり、痛めつけてしまっては真の弩Sは遠い。大切なのは相手が何を望んでいるか察し、喜びを分かち合う事だ」
「いや、俺の言っている弩Sは、超S級という意味だ。俺はSでもドSでもないぞ」
「そうか、余計な心配、すまなかった」
 呼雪は謝罪をすると平然とパートナー達のもとに戻る。
 一体なんだったんだろう……?