百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

種もみ女学院血風録

リアクション公開中!

種もみ女学院血風録

リアクション


第3章 男の娘になりますか? それとも楽しく生きますか?

「鈴子さん、しばらく男性が続くようですよ」
「そうですか。演技をするの疲れますわ……」
「ふふ、演技には見えなくてよ。鈴子さん、天性の才能をお持ちなのでは?」
「そんなことはありません。百合子様のようにはなれませんわ」
 ふふふ。
 ふふふふふ。
 微笑み合う和服美女が2人。
(うわあ……今日の鈴子さん、相変わらず清楚美人なのにこのオーラ―)
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、ごくりとつばを飲み込んだ。
「と、とりあえず……殿方達を追い返せるように、威圧すればいいんですわよね」
 内心びびりながら、リナリエッタは鈴子達に問う。
「ええ。百合園とは関わりたくないと思っていただけるように、心を鬼にして演技をするんです。本当はどなたとも仲良くしたいのですが……っ」
「そうですよねぇ。ともあれ、殿方の扱いなら私にお任せあれ。不埒な輩を見つけ出すのは得意ですわぁ」
「ええ、リナさん得意そうですよね。そういった方々とのお付き合いも頻繁にされていそうですし。うふふふふ……」
「……ほ、ほほほ」
 目を逸らしながら、リナリエッタは部屋の隅に待機する。

「面接室はこちらです」
 志位 大地(しい・だいち)は、神楽崎優子ら百合園の友人達を手伝いに、塔に訪れていた。
「ヒャッハー、面接なんて楽勝だぜ〜」
「ところで先に御伺いしたいのですが、あなたは男性ですよね?」
 大地が尋ねると、女装したパラ実生が胸を張る。
「外見は女性だ。文句ねぇだろ〜。種もみ女学院に入ってやるぜ、ヒャッハー!」
「外見が女性なら文句はないですよ。入学出来るかもしれませんね。入学した後は男を捨てていただきますが」
「あ? それってどういう」
「あなたのことは良ぉく伝えておきます。楽しんできてくださいね。この面接を経て、貴方がどう変わるのか、俺も楽しみです。手術の用意でもして待っていますね」
 ちらりと刃物を見せた後、大地はくくくくと笑みを浮かべながらパラ実生を面接室へ送り出した。
「な、なんだ?」
 その後。
 そのパラ実生は、鈴子と錦織百合子(にしきおり ゆりこ)の艶やかで冷たく美しい笑みを湛えた、圧迫面接を受けたのだった。

「お帰りなさい」
「ぐぎゃっ!」
 戻ってきたパラ実生の肩を、大地がぽんと叩くと、パラ実生は変な声を出して飛び上がった。
「百合園の面接はどうでしたか? 優しい女性達でしたでしょう? 彼女達との楽しい学園ライフを目指してくださいね。ご自分で決めた道ですから、後戻りはできませんよ。願書をどうぞ」
 そう言って、大地はパラ実生を待合室のソファーに座らせ、作成してきた願書を渡す。
「お、お、お、おう」
 すっかり萎縮して、震えているパラ実生を大地はにこにこと眺める。
 その願書には、規則や誓約書が入っている。
 転入生は毎朝校舎、校庭全ての掃除をしてから授業に出る。
 授業に遅れた者は、廊下で正座。
 授業に出席しなかった者は夜通し補習。
 罰則として下水道掃除。などなど。
「こ、これ変だぞ。朝の掃除おわらねぇだろ。遅刻したら授業は受けられないんだろ? 受けられなきゃ、補習と掃除……で、次の日の朝はまた掃除? なんだこれ、無理だろ」
「普通の日課ですよ。この程度もこなせないのに、百合園と合併したい? 笑わせてくれますね。尤も百合園生は貴方の崩れた顔を見ただけで爆笑でしょうけれど」
「う、うううう……」
 大地の辛辣な言葉に、パラ実生は涙目だった。
「それ以上脅さないであげて。お茶でもどうぞお」
 茶を入れたカップを持って、リナリエッタが現れた。
「俺は邪魔なようですね。百合園生との一時、ごゆっくりお楽しみください」
 笑みを残して、大地は去っていく。
「失礼するわあ」
 向いに座って細く美しい足を組み。リナリエッタはニコニコ笑みを浮かべる。
「皆さんどうしても男性には厳しいのよねえ……私、面接官だけど……正直、素敵な男の人なら是非、大手を振って来ていただきたいって考えてますの」
 ぱさっと、リナリエッタは上着を脱ぎだす。
 上着の下から現れたのは、露出度の高い、派手目な服。
「ちょっと暑くなってきたわねえ」
 そして、胸元を見せるように立ち上がり、彼の隣に腰かける。
「お、おおう、けど、そんな格好じゃ、今度は寒いだろ。もっと寄れ、もっともっと……!」
 本能に押されて、リナリエッタに手を伸ばしてくるパラ実生。
「うふふ、ああ……もっと」
「ごくっ。こんくらいのご褒美は無きゃな、ヒャッハー! もらったぜ」
 突然パラ実生がリナリエッタを押し倒す。
 次の瞬間、彼の顔を何か掠めた。
「こんなに隙だらけな人間が百合園の世界で生き残ろうだなんてね!」
「ほげ!?」
 自分に銃口が向けられている事に気づき、パラ実生は飛び退いた。
「ははは! 鈴子さん達は息子だけで済まそうとかいってたけど、私はお父さんの方も狙うわよお?」
「ふ……ぎゃーーーーーーっ! もーーーーいやーーーーーー百合園、こわいーーーー!」
 ついに彼は泣き出して、一目散に逃げていった。