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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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「はいはーい、注目!」
 パンパンと手を叩いて、ヘルが皆の気を惹く。。
「早川先生の『ドキドキ☆男の娘講座』アシスタントのヘルちゃんでーす♪ 切らずに女生徒に混ざりたい! そんな君達向けの講義、始めるよー」
 ぴらんと取り出したのは、秘密の補正下着だ。
「今はねー。こういう便利なアイテムがあるんだよ。スパッツを穿いても分からない、優れものだよ〜」
「そうか切ったことにしてそれを穿けば……けどどこで手に入るんだ? 店で買うのはちょっとな」
「かっぱらうには……女の子をかたっぱしら襲って、パンティーを脱がして確かめるしかないのか! しかたねーな、やるかっ」
「だが、百合園には候補生のやつら(白百合団のこと)がいるからな……」
 そういいパラ実生は視線をアレナとユニコルノに向ける。
「手に入らなくても大丈夫!」
 視線を遮るように立ち、ヘルはマスキングテープを取り出した。
「肌に貼っても大丈夫なテープがあれば、実際男の娘がやってる隠し方が出来るんだ♪ 実際やってみようかー」
 言って、パラ実生の腕を掴んで、衝立の裏へと連れ込む。
「こ、これを使えば百合園のプールとかにも入れるか?」
「はいれる入れちゃう♪」
「女湯は?」
「水着や湯浴み着OKなところなら大丈夫♪」
 びっと、テープを切る音が聞こえて。
「ここをこうして……」
「あ、痛てて」
「あ、痛かった? 無理にやろうとすると危ないから、少しずつ確かめて……」
「ううキツイ、潰れそうだ」
「そう?」
「これだと屁を……」
 などなど聞こえてくる言葉に、ユニコルノは額を抑え。
 アレナはきょとんとしている。
「しかし、上手く潜入したとしてもバレたらアレだろ……」
「候補生の奴らにつかまったら……」
 衝立の前のパラ実生が大きなため息を漏らした。
「大丈夫、蒼学の校長のように逞しい女性もいる」
「百合園にはいないだろ?」
「知る限りではいないが……。どうしても不安なら、宦官を目指さないにしても、いっその事『切って』しまえば、面倒な事をしなくても堂々と通えるぞ」
 合併せずとも、女子校に転入の道さえ開ける……かもしれない。
「大切な部位を失うと、今までにない力に目覚める場合もある」
 呼雪は優しくパラ実生達を諭していく。
「お前が望むのであれば、すぐに処置する事も出来る。何も怖い事はない、ヒプノシスで眠っている間に終わるのだから」
 そっと伸ばされた手を、パラ実生達は椅子から転げ落ちる勢いで全力で拒否する。
「そこまでして通いたくねぇ!」
「ヴァイシャリーでナンパに励んだ方がマシだー」
「たとえ成功率0.1%でも!」
「ふふっ」
 そんなパラ実生に、ユニコルノが微笑みかける。
「もう少し成功率あるかもしれません。男性は、やはりありのままの方が素敵ですから。ね、アレナさん?」
「あ、は、はい」
 アレナはこくんと頷いて、ユニコルノと同じようにパラ実生に微笑む。
「こんな大変な思いをしなくても、若葉分校生になれば可愛い女生徒と一緒に通えますし、百合園から遊びに来て下さるお嬢様も結構いらっしゃるんですよ」
「あの、皆さんの憧れのティセラさんも誘ってみます! だから、普通の格好で遊びに……じゃなくて、勉強しに来てくださいね。ゼスタさんの『ほけんたいいく』の授業も大好評なんです!」
 ユニコルノとアレナの勧誘にパラ実生の心が動いて行く。
「そうそう、可愛い女の子に触り放題なんだぜー。こんな風に〜」
「あっ」
 手伝いに来ていた若葉分校生の一人、黒縁眼鏡の少年がアレナにぺたぺた触りだす。
「おおっと、こんなところにゴミがー」
 悪乗りして、アレナの胸に手を伸ばしたその少年を。
「こんなところに、巨大蚊が!」
 ベチンとユニコルノが張り飛ばした。

「ぜすたんはやっぱりお母さんよりお父さん似?」
 トマトジュースをゼスタに出しながら、リンが尋ねた。
「どっちにも似てねーよ。……生みの親には似てたかもしれねぇけど」
「そっかー」
 リンはそれ以上は何も聞かずに他の人物のお茶を入れに回る。
 アレナも休憩を終えて、パラ実生達のケアに戻っていき、ソファーには、康之とゼスタ2人きりになった。
「あのさ……花見の時のことだけど」
 立ち上がろうとしたゼスタに、康之が話しかけた。
「ん?」
「まずは、すまん」
 康之からの謝罪の言葉に、ゼスタは怪訝そうな顔をする。
「俺はアレナのためにって理由で色々やってきたけど、アレナと同じパートナーを持つゼスタがどう思ってるのか考えがいってなかった」
「……」
「でも、俺は軽い理由で接してきたわけじゃねえのは信じて欲しい」
 時折アレナを見ながら、康之は語っていく。
「俺のやってる事は後々アレナを余計辛くするのかもしれないけど何一つ楽しかった記憶がないってのはもっと辛いと思う。
 だから、俺が生きてる限りはアレナが笑顔にする事を続ける」
 ゼスタは菓子に手を伸ばし、食べながら無言で話を聞いている。
「心配かもしれないけど、昔を思い出して涙するじゃなく、笑顔を迎えて前へ進んでいく強い子だって信じてあげようぜ。
 それと、アレナが俺に依存なんてしねえさ。何があったってアレナの一番は優子さんだからな」
 康之の言葉に、ゼスタは彼を見ずにくすっと笑みを浮かべた。
「それにしてもゼスタっていい奴だって知れて安心した!」
 軽くゼスタの眉が反応する。
「ゼスタの事はアレナから聞いた程度でほとんど知らなかったけど、あの時アレナの事で俺に言った言葉はマジだったのは伝わった」
「……」
「ゼスタが傍にいてくれるなら安心かな……ちょいと悔しくはあるけどな」
 はははっと、康之は笑みを見せた。
 そんな彼を見て、ゼスタはまたくすっと笑みを浮かべて。
「お前ってまっすぐだよな。やっぱ、アレナにいい影響を与えてくれそうだ」
「へへ、サンキュ」
 少し照れくさそうに康之は笑う――。
「神楽崎はあんな性格だし、長生きはしないかもしれない。その後、アレナがお前に依存するのだけは勘弁な。お前と一緒に死ぬとか言われたら……たまんねーから」
 康之はゼスタの言葉をまっすぐに、捉えた。
 彼のどことなく寂しげな表情を見て、ゼスタはアレナのことが本当に好きなんだなと感じた。
 ゼスタは真意を彼には語らない。好みの人形、傀儡としてのアレナにしか魅力を感じていないことを。
 だが康之に嘘は言っていない。彼が『アレナ』という人形にゼスタが欲する形の人格を植え付けてくれそうだと見ているから。

「さぁ、カウンセリングや講義を終えて、仕事がしたくなった人はこちらのブースにいらしてください!」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、パラ実生達に声をかけて、就職に興味を持ち始めた者を、集めていた。
「冒険屋ギルドの面接を行いますよ! 大丈夫、最初は誰だって新人です。優しい先輩が皆さんの仕事をばっちりサポートします!」
 明るく優しく話しかけて、ノアはパラ実生を保健室の一画へと誘った。
「こちらに座ってくださいね。集団面接です!」
 にこにこしながら、ノアは向かいの席についた。
(元々、この冒険屋ギルドは何者かに利用されたパラ実生の現状を憂いたレンさんが作ったもの。こうしてパラ実生の皆さんと将来について語り合えるなんて、ギルドマスター冥利に尽きますよ!!)
 ノアは嬉しくて仕方がなかった。
「レン・オズワルドだ」
 冒険屋のレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、立ったまま話し始める。
「冒険屋では、お前のような血気盛んな者を求め……」
「冒険屋? あー、知ってるぜ、あのサングラスばかりおいてある店」
「サングラス屋に就職かー、楽そー。悪くねぇかも」
 パラ実生達の言葉をレンは真顔で否定する。
「いや、サングラス屋ではない。多少サングラスは置いてはあるが、あれは全て予備だ」
 サングラスを直しながら、レンは当然のように言う。
「冒険にも、サングラスは必需品だからな」
「はあ……」
「ああなるほど、恋冒険に必要だよな、胸の谷間とかチラ見するのに」
 パラ実生達がぽんと手を打った。
「レンさんそんなことの為にサングラスを集めていたんですね……」
 ノアはレンに悲しげな目を向ける。
「違う。確かに視線を隠す為に用いられることもある、が」
「やっぱりそうか、そんじゃ、俺に合うサングラス頼むぜ!」
「相手に視線はわかんねーけど、ばっちり良く見えるヤツ!」
 パラ実生はレンにサングラスの注文をしだす。
「だから違う。これは面接だと……」
「そうか、そんじゃ俺冒険屋就職希望! 最高のサングラス作るぜ!」
「俺は、冒険屋のモニター希望! 様々な場所で使って、性能を確かめてやるぜ!」
「ええっと、勘違いが含まれているようですけれど、冒険屋への就職希望者ですね! 仕事は多種多様ですし、サングラスを作る機会もあるかもしれません。仕事をこなして、お金を得て、特注で頼むという方法もありますし」
 ノアは一生懸命前向きにとらえる。
「誤解はあるようだが、熱意は感じられる。ただ……お前達は悩みを抱えた不良じゃないんだな。もう少し話を聞かせてもらおうか」
 レンは苦笑しながら、リィナ同様、時間をかけて彼らの話を聞こうと考える。
 命の大切さや、自分が何をすべきなのか。
 自分が何者なのか……子供のうちは知らないこと、判らないこともある。
 自分の将来に漠然とした不安を抱えていても、今の自分から目を逸らしさえしなければ、必ず答えは見つかる。
 だから。
「まずは、恥ずかしがらないで自分の夢を聞かせてくれ」
 レンの問いにパラ実生達は顔を合せた後。
「今をずっと続ける事。年はとりたくねーなー」
「気ままに生き続ける事」
 そんな風に答えた。
「お菓子とお茶です。どうぞ」
 そこに、アレナがレモンケーキと、紅茶を持って現れた。
 レンに頼まれていたものだ。
 アレナは、ケーキと紅茶をノアとパラ実生に配って。
「あ、レンさんはこちらでしたね」
 レンには、ブラックのコーヒーを出す。
「ありがとう」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
 ぺこりと頭を下げて、アレナは戻っていく。
「アレナちゃんいいよな、アレナちゃん」
「けど、ノアちゃんもかわいーよなー。もーだいぶ成長したら、好みになりそー」
「成長に期待して、冒険屋就職希望!」
 彼らはまだ就職は早いかもしれない。
 大人になるための教育が欠けているのだろう。
「すぐに就職とはいかずとも、一般の店でアルバイトをしてみるのも良いかもな。……サングラス屋を紹介しようか?」
 レンがそう言うと「頼む!」「可愛くてか弱い女の子の店員がいるところで!」という、元気な返事が返ってきた。