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2023年ジューンブライド

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 とある6月の日のこと。
フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)の元に、大事な話があると言って、フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)が訪れた。
「フリッカさん。上手く伝えられるか分かりませんが、僕の話を聞いてくれませんか」
 そう言ってフィリップは、フレデリカの手を取った。
「好きです。これからもずっと僕と一緒に歩んでください」
 短い言葉ではあったが、フレデリカには、フィリップの精一杯の雰囲気が伝わってきた。思わず、フレデリカは涙ぐむ。
「ね、フィル君。今度早速見に行こうよ!」
「見に行くって--」
「新しいお家。私、お庭付きの所がいいと思うの!」
「えっと、あの、フリッカさん……」
 フィリップが恐る恐るといった風に訊ねる。
「それで……返事、貰えるかな……?」
 フィリップに指摘されて、ようやくフレデリカは自分がプロポーズにちゃんと返事していない事に気がついた。それくらい、舞い上がってしまっていたのだ。
「私、フィル君に一生ついていく……!」
 涙ぐむフレデリカとフィリップは見つめ合い、そしてゆっくりをキスを交わしたのだった。


 挙式当日、チャペルにフレデリカとフィリップの姿があった。フレデリカの「名門魔法貴族の娘」という生まれを考えると小規模かもしれないが、ごく普通の妙齢の花嫁として、愛するフィリップと結婚式を挙げたいと考えていたフレデリカは、ごく普通の式を望んだのだった。
 フレデリカは純白のウェディングドレスを着ている。赤みが入ったウェディングドレスをフィリップには勧められたが、「貴方の色に染まる」と言う意味合いのある白いウェディングドレスが着たいのだと、フレデリカは言った。

「二人とも、おめでとうございます!」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)はフレデリカたちを祝福した。フレデリカと契約して以来、ずっと妹のように接してきたルイーザは、自分の事のように喜んだ。
 フレデリカが結婚して一緒に人生を歩いていく人が出来た事で、彼女の亡き兄--セディの代わりに「フレデリカ」を護るという役目をフィリップに託すこと。
 そうすることで、役目に区切りがついたのではないか--そう、思っているのだ。

 式は進み、指輪交換となった。
「これって--」
 フレデリカの目に留まったエンゲージリング。かつてフィリップが母から貰った指輪であり、いつかフィリップがフレデリカに預けた大切な指輪。--それは、一番大切な女性へと贈るようにと言われていた、特別な指輪だった。
 フィリップはフレデリカの指に指輪をはめて、微笑む。
「フリッカさん、すごく似合ってます」
 フレデリカはまた胸がいっぱいになって、目の奥から熱い涙が込み上げてきた。
 そんなフレデリカとフィリップの幸せそうな様子を見ていたルイーザの胸を、一陣の悲しい風が走った。
 今は亡きセディは、ルイーザの恋人だ。フレデリカの幸せそうな姿を、亡きセディにも見せてあげたかったな……と、少しだけルイーザは寂しい気持ちになったのだ。
 かつて、セディとの結婚式を夢見ていた頃を思い出したこともあり、ルイーザは少しだけ俯いた。

 式は無事に終わり、チャペルから皆は外に出てきた。快晴の空の元、フレデリカとフィリップは腕を組んで式場から出てくる。
「私やセディの分まで幸せになってください」
 ルイーザは、少しの寂しさを振り払うように、フレデリカたちに祝福の声を掛けた。フレデリカは、幸せ一杯の笑みを浮かべて答えると、高く高くブーケを投げ上げた。
 ブーケは弧を描いて--まっすぐ、ルイーザの手の中にすっぽりと収まったのだった。