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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 美しい満月の映る池の水面に、一艘の舟が浮かんでいた。
 舟の傍を、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がネロアンジェロで飛行している。
 舟に乗っているのは、何とも言いがたい不服そうな顔をするエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)だ。
「こうして三人で月を見上げるというのは、不思議な感じがするな」
 月を愛でる、という感覚がなかったグラキエスたちは、初めての月見を楽しむためにやってきた。
 その際、仲の悪いエルデネストとウルディカを仲良くさせようと、グラキエスは二人を船に乗せたのだ。
「グラキエス様、いくら涼しくなったとは言え体はまだ回復していません。無理はせず、こちらに降りて私の側においで下さい」
 エルデネストは、飛びながら月を見上げるグラキエスに声をかける。
「向こうも飛べますので、ご遠慮なさらず」
 エルデネストはウルディカを見やった。ウルディカの方はエルデネストを見向きもせず、何か言いたげな視線をグラキエスに向けた。
「俺は大丈夫だ。それより二人とも、月を見なくていいのか?」
 ウルディカは水面に視線を落とし、そこに映る月を眺めた。

「そういえば、この餅を一緒に食べると一緒にいられるという伝説があるそうだな」
 餅が少なくなって残り三つの餅が残った時、グラキエスがふと呟いた。
「そんな伝説があるほどの餅なら、きっと俺たちも一緒にいられる」
 そう言ってグラキエスは、ウルディカに餅をひとつ渡し、自分も餅をひとつ手に取った。
(恋愛に関する噂など信用するな。そもそも恋人限定の噂だろう……)
 ウルディカは、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。グラキエスの無邪気な笑みに、言葉を出すことができなかったのだ。
 先ほどより遥かに苛立った表情で、エルデネストは餅を食べるグラキエスとウルディカから視線を外した。

「……追加の餅を取ってきましょう」
 そう言って、ウルディカが翼をはためかせて飛び去った。ウルディカの姿が見えなくなった後、グラキエスは静かに船の上へと降りた。
 グラキエスは残っていた最後の餅を半分に割ると、エルデネストに差し出した。
「……!」
 グラキエスの魂は、最終的にエルデネストのものになる。その行為は、グラキエスなりのエルデネストへの感情表現だったのかもしれない。
 エルデネストは、後で自分を驚かせ喜ばせた”お返し”をしよう、と、内心で内容を練りながら、餅を口に運んだのだった。