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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

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♯13


「さぁ、おかわり来たぜ」
 先頭に立つカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、敏感に敵の動きの違いを見極め、新しい指揮官が派遣されたことを察知した。
 彼の後方にはトラックが一台、助手席にはコピー人形の偽マレーナを乗せており、怪物達の攻撃が激しい。どうやら、人形と本物の見分けはあちらさんにはついていないようだ。
「うおっ」
 左肩に衝撃を受け、カルキノスはたたらを踏む。
 見れば、くの字型のナイフがジンの肩に突き刺さっていた。
「蜘蛛でも植物でもねーな、新手か」
 ナイフはカルキノスまで届いていない。だが、左腕の稼動に支障が出そうだ。
「ま、どっちにしろ時間切れだ」
 カルキノスは躊躇わずパワードスーツをパージした。現れた青年は、しかしみるみるうちにドラゴニュートの姿へと変貌していく。レーヴェン擬人化液の硬化時間切れだ。
「こっからはもっと派手になるぜ」
 左に視線を向けると、猫ぐらいしか通る事のできなさそうな細い隙間があるだけだった。無論、敵の姿は無い。
 確認は一瞬だけで、すぐさま召喚を立て続けにおこない、不滅兵団、フェニックス、フレースヴェルグがそれぞれ怪物達を蹴散らしに向かう。
 カルキノスの頭上で銃声、夏侯 淵(かこう・えん)が新たな指揮官型を発見したようだ。
「新しいタイプ、報告にあった人間型だ」
 淵は民家の屋根から屋根に飛び移りながら、新しい指揮官型へと射撃を繰り返す。射撃が何発も続くという事は、意ままでの蜘蛛や植物よりも上手な相手という事のようだ。
「アナザー・マレーナの言っていた親衛隊か」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は飛行機晶兵と部下達の配置を変える。怪物をこちらに擦り付ける役目は淵に任せ、味方の被害はできるだけ避けておきたい。
「強敵というだけは、あるな」
 かがんだ淵の頭上を、くの字のナイフが通り過ぎていく。目にもとまらない速度の彼に、決して速いとは言えない投げナイフがこうも肉薄するのは、相手がこちらの動きを的確に見抜いている事の証だ。
 対神スナイパーライフルの弾丸は、分厚い手甲によって上手にそらされている。手甲に刻まれた傷を見る限り、直撃させれば効果はありそうだが、距離を取っての撃ち合いでは難しそうだ。
「そろそろ、準備完了?」
「ああ、大丈夫だ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はダリルの返事を聞くと、高い跳躍を行い淵と同じ高さの視界を得る。
「あいつね」
「精鋭だが、数は多く無い。ここで削り落とせば、その分ダエーヴァの戦力は低下するだろうな」
 アナザー・マレーナの話によれば、親衛隊とされる怪物の原料は人間と怪物、どちらも入手にはそれほど困らないはずだが、指令級のアカ・マハナが気に入る美しさを持っている事が条件らしく、数はそこまで多く無い。
 アナザーで利用するにはいささかオーバースペックなのだろうが、その彼らを大量生産、大量導入していない事は、大きな戦略的ミスだ。
 国連軍の援護は望めない状況ではあるが、彼らも黒い大樹から離れており、手持ちの戦力には限界があるのだ。
「今回は、雑魚掃除に徹しておく、大物は任せたぜ」
 カルキノスが怪物の群れに向かって天の炎を降らせ、一息に大打撃を与える。装甲は厚いが、熱はよく通るようだ。
「援護よろしくね、いくよ」
 ルカルカは敵親衛隊に向かって、真っ直ぐに間合いを詰めた。

「ああ、うちの輸送車両がっ!」
 空中で二回転半したパワードスーツ輸送車両は、タイヤを空に向けて停止した。幸い、人は乗り込んでいなかったが、中の機材はどうなっているかわからない。
「修理できるかもわかんないのに!」
 カル・カルカー(かる・かるかー)は犯人、人型の新手の怪物を睨む。
「しかしこの怪力、あなどるわけにはいかんな」
 夏侯 惇(かこう・とん)は間合いを計りつつ、怪物の動きに注視する。
 フライシャッツの武装はどれも弾速の遅い中〜長距離武装であり、そのためここまでの接近を許してしまったのだ。
「情報にあった親衛隊ですか……上手く釣れたと喜べはしませんね」
 ジョン・オーク(じょん・おーく)は飛び交う通信から、自分達以外の隊も、親衛隊とのエンゲージが始まってるのを確認する。援護要請を急いで出すわけにもいきそうにない。
「作戦は上手くいってるはずよ、なら心配するべき事はないんじゃなくて」
 フィアーカー・バルの一機が前に出る。ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は怪物と素早く間合いを詰めていく。
 先制のパンチは回避されるが、親衛隊もまずはミカエラをターゲットに絞ったようだ。
「ここで足を失うわけにはいきませんね。誰か、あのトラックを元通りにしてください」
「んじゃ、それは俺がやるぜ」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の要請をドリル・ホール(どりる・ほーる)が受けてトラックを回転させる作業に入る。
「射撃で援護、は難しいですね。殴り合いしかなさそうです」
 間合いを詰めたミカエラと、怪物は目まぐるしく立ち位置を切り替えながら接近戦を行っている。ロケットランチャーやパンツァーファウストでは、よく狙いを定めても誤射の危険があるだろう。
「くあっ」
 ミカエラのフィアーカー・バルに懐にもぐりこんだ怪物が、強烈なソバットを繰り出す。ミカエラは空中に投げ出された。怪物はすぐさま追撃の構えを取る。
「させぬよ!」
「こなくそっ!」
 左右同時に、カルと惇の拳が突き出される。両者の拳はそれぞれ、怪物の手に平に受け止められた。まるで分厚いコンクリートを殴ったような手ごたえ。だが、ミカエラへの追撃は止められた。
 ミカエラは空中で体勢を立て直し、足から着地。機体の損傷を確認する。軽微、まだ戦える。
「はあっ!」
 交差させて左右からの拳を受け止めている怪物の、腕が丁度交差している部分を全力で殴った。パワードスーツの加速力と重量の乗った重いパンチは、二人の腕を怪物から解き放ち、数メートル後退させた。
「硬いわね」
「ふはは、そうでなくては面白く無いわ」
「前線に出るなんていうべきじゃなかったかな……」
 それぞれに思い思いの言葉を零す。
 怪物は交差させたままの腕の隙間から三体のパワードスーツを確認すると、一旦腕を懐に入れ、くの字のナイフを両手に構えた。
「パワードスーツに損傷を与えたという報告が多数あります。装甲に油断をすると危険です」
「了解」
 ジョンの言葉を受けると同時に、三機は同時に散開した。彼らの居た地点を、二本のナイフが通り過ぎていく。



「うまく合流できるかね」
 世 羅儀(せい・らぎ)は通りを覗き込む。だいぶ怪物の動きにも指向性が現れており、敵の数はほとんどない。
「合流できるように準備はした、あとは我々次第だ」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は至って真面目にそう答える。
 二人と彼らの部下五十人は、アナザー飛ばされた仲でも、最も外れに近い場所に到着してしまったらしく、仲間との合流は未だ果たせないでいた。
 だが、それはそれで良かったとも言える。町の外れに居たために、怪物の襲撃もほとんどなく、状況の把握と指揮に専念できたからだ。
「国連軍との合同作戦ができないのは悔やまれるが、我々のみが不利な状況とも言い難い。無警戒にここまでやってきた指令級を潰すチャンスでもある」
「ま、俺達はイレギュラーなんだけどな」
 部下の何人かに斥候を命じて周囲の危険を確認する。五十人の大所帯は、移動するだけでも大変だ。
「インセクトマンに対する戦術は、既にオリジンでの戦闘で蓄えてある。問題は、マレーナ及び黒血騎士団が危険視する親衛隊の実力の程だ」
 手に入れられた情報は、アナザー・マレーナからのものと、ニキータらが国連軍とのやりとりで得たものである。それらは実感こそともなわないが、貴重な情報だ。
 ダエーヴァの主力は、オリジン側でも何度も出現しているインセクトマン及びその指揮官となる中型のものだ。それは変わらない。インセクトマンのバリエーションは、オリジンで確認されたものよりも豊富のようだが、そういった未確認型が現在確認されているものよりも大幅に強化されているというわけではないようだ。寒冷地対応といった、あくまでバリエーションという言葉の範疇のようだ。
「日本での戦いでは、我々が介入し、何度も戦闘を繰り返した事によって、ダエーヴァ側も学習、対応していた節がある。だが、この欧州ではその影響はあまり感じられない」
「やり方は軍団によってまちまちなのかね?」
「はっきりとは断言できないが、その可能性は高い。そして、不利な形ではあるが我々はその間合いに飛び込んだ」
 斥候からの連絡を待って、隊が動き出す。
 合流するのは、アナザー・マレーナを擁している部隊ではなく、囮部隊として活動していた仲間達だ。
「ただ逃げるだけじゃ、勿体無いってわけだ」
「我々に対応させれば、欧州での戦いはより苛烈なものとなる。いくらかの偶然の産物ではあるのだろうが、この機会を生かすべきだ。だが、こちらの世界のマレーナの安全も確保する必要がある」
「それで、囮作戦と」
「発案は俺ではない。だが、囮が上手く機能すれば、親衛隊も動くだろう。実力の程を確認するのが優先だが、倒せるのであれば倒しておきたいところだ」
 危惧される強力な怪物であれば、それを失う事への影響もまた大きいはずだ。
 不安があるとすれば、こちらがやられる事だが、自分達の命を最優先にするように厳命してある。だが、それはあくまで現場に居ない人間の言葉だ。あとは現地の仲間の判断と行動次第である。
「合流を急ごう」